一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『滝を見にいく』 ……おばちゃん達が次第にかわいらしく思えてくる……

2015年01月16日 | 映画
紅葉を楽しみ、幻の大滝を見て、温泉でゆっくりするはずだった……
7人のおばちゃん、山で迷う。

このキャッチコピーで、
映画『滝を見にいく』を見たいと思った。
山が好きな人なら、心惹かれるコピーである。(笑)
7人のおばちゃん達は、
道迷いもしただろうが、
人生にも迷ったのではないか……
とも勝手に推測した。
きっと面白い映画に違いない。


幻の大滝を見にいく温泉付き紅葉ツアーに参加した、
谷由美子(ユーミン)44歳・美容師
三角道子(スミス)46歳・販売員
関本百合子(セッキー)51歳・パートタイマー
田丸久美子(クミ)52歳・主婦
桑田三枝(クワマン)59歳・主婦
根岸純子(ジュンジュン)66歳・主婦
花沢敬子(師匠)79歳・元教師
の7人のおばちゃん達。
バスにゆられて現地に到着した彼女達は、


頼りないガイドと一緒に、


滝を目指して山登りを始める。


木の実を摘んだり、
写真を撮ったり、
おしゃべりしたり、
それぞれの楽しみ方で山道を進む7人。


先頭を歩くガイドは、地図を片手にキョロキョロとして落ち着きがない。


そして、道が分らなくなったのか、
「ちょっと先を見てきます。ここで待っていて下さい」
と言い残して、グループから離れてしまう。
山中に置き去りにされてしまう7人。


ガイドがいつまで経っても戻ってこないので、
不安になった彼女達は、
携帯電話で連絡を取ろうとするが、圏外であることを知る。


2グループに分かれてガイドを探すが、
桑田三枝が腰を痛めて歩くのが困難になり、
再び7人で行動するうちに、
道迷いしてしまう。
やがて日も暮れ、野宿せざるを得なくなる。
年代も性格も違う7人の女性たちが、
普段とは全く異なる環境の中、
食料を集めたり、
火を熾したり、
寝床をつくったりしながら、
時にはぶつかり、時には心を通わせながら、
見失いかけていた本来の自分の姿に気付いていく……


『七人の侍』ならぬ、
「7人のおばちゃん」の映画である。(笑)
出演しているこの7人のおばちゃん達は、
全員がオーディションで選出されている。
募集要項は「40歳以上の女性、演技経験問わず」。
選ばれた7人を簡単に紹介しておこう。


谷由美子(ユーミン)を演じる安澤千草。
1969年生まれ。
'94年より劇団「ナイロン100℃」に参加。
劇団員として現在も活動中。
キャストの中で最年少。
特技は沖縄好きで始めた三線。



三角道子(スミス)を演じる渡辺道子。
1967年生まれ。
'93年より'07年解散まで劇団「ベターポーヅ」に参加。
現在はドラマや教育番組など、映像作品を中心に活動している。
岐阜県の山村出身で、山を登る体力に自信あり。



関本百合子(セッキー)を演じる荻野百合子。
1962年生まれ。
韓国ドラマ好きで、CS放送の衛星劇場チャンネルを視聴していて、
今回の募集CMを目にし、応募。
演技経験はごくわずか。



田丸久美子(クミ)を演じる川田久美子。
1961年生まれ。
音大の大学院を修了後、オペラ研修所を卒業。
その後ミラノへ渡ってイタリアオペラを学ぶ。
帰国後はヴォイストレーナーなどをしながらオペラ公演やコンサートに多数出演。



桑田三枝(クワマン)を演じる桐原三枝。
1954年生まれ。
'92年から日本語教師を20年ほど続け、
並行してジャズシンガーとして都内のJAZZハウスで活動。
その後、中高年劇団「楽塾」に入り現在も活動中。



根岸純子(ジュンジュン)を演じる根岸遙子。
1947年生まれ。
本作のロケ地である新潟県妙高市の地域サポート人として、
裏方として参加予定であったが、
ロケハン時に沖田監督から
「しいて言うなら根岸さんみたいな人を出演者に想定しています」
と言われ、急遽オーディションに応募。
見事合格し、出演者の座を掴んだ。



花沢敬子(師匠)を演じる納敬子。
1934年生まれ。
今回のオーディション応募者の中で、最年長の79歳(撮影時)。
約50年、主婦を全うしてきたが、
高校生の頃からの「女優になる」という夢を諦めきれず、
72歳の時に、蜷川幸雄主宰のシニア劇団「さいたまゴールド・シアター」に入団。



監督と脚本は、
『横道世之介』(←クリック)などで知られる沖田修一。


ツアーガイド役の、沖田監督作品の常連俳優・黒田大輔を除けば、
ほとんど知られていないおばちゃん7人の映画。
人気俳優などが出ていない映画が本当に面白いのかというと……
面白いのである。(笑)
普段、山登りなどしたことのないようなおばちゃん達なので、
地図、コンパス、GPS、非常食、ツェルト、ヘッドランプなど持っている筈もなく、
あっけなく道迷いし、野宿する羽目になる。
そのドタバタが面白いのだ。




「40過ぎたら、女はみんな同い年!」
という、問題発言的なセリフも飛び出し、(笑)
山で遭難した中年女性達が、
お互いの知恵と機転で危機を脱出しようと頑張る姿は、
可笑しく、そして何故だか愛おしい。
日常生活では決して現れないような本能が、
山という非日常の世界で発揮され、
遭難しているにもかかわらず、
おばちゃん達が次第に輝いてくる。


山での遭難は、
日常生活に埋没している人にとっては、
ある種の極限状態であるといえる。
ストックホルム症候群を持ち出すまでもなく、
極限状態におかれるというような強い臨場感状態を共有すると、
その共有している人同士で強い親近感が生まれる。
極限状態を共有した人間同士は互いに好意を抱く。
最初は反目し合っていたおばちゃん達も、
野宿して夜を明かすうちに、
連帯感が生まれ、仲良くなってくる。
なんだか、じわ~っと心が温かくなる映画なのだ。


ロケ地は、妙高高原。


紅葉ツアーの目的地であった「幻の大滝」は、
本当に「幻の大滝」という名の滝であったらしい。


道標や案内板のある「幻の大滝」って……




専用駐車場もあるぞ~


中高年の女性なら、
大笑いしつつ、「うんうん」と頷くシーンも多いことと思う。

中高年の男性ならば、
「一度くらいはおばちゃんをやってみたい」
と思うかもしれない。(爆)

さあ、七人のおばちゃんと一緒に、
幻の大滝を探しに行こう!
妙高高原の美しい紅葉と、
次第にかわいらしく思えてくるおばちゃん達を見ていたら、
「人生って案外悪くない」って思えてくるハズ。

第27回東京国際映画祭で、
レッドカーペットを歩く沖田監督と7人のおばちゃん。


輝いてる~


佐賀では、シアターシエマで上映中(1月23日迄)
福岡では、KBCシネマで上映中(1月23日迄)
大分では、大分シネマ5で上映中(1月23日迄)
大分(日田)では、日田シネマテーク・リベルテで1月17日から公開予定
宮崎では、宮崎キネマ館で2月14日から公開予定
熊本では、DENKIKANで1月24日から公開予定
鹿児島では天文館シネマパライダイスで1月17日から公開予定
沖縄では、桜坂劇場で近日公開予定


ぜひぜひ。


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