安藤サクラ主演、
安藤桃子監督作品、
『0.5ミリ』をやっと見ることができた。
用事で福岡に行ったついでに、(アクロス山にも登った)
中洲大洋で見てきたのだ。
(ちなみに佐賀では、1月31日からシアターシエマにて公開予定)
昨年(2014年)11月から公開された作品であるが、
2ヶ月遅れでやっと見ることができた。
(福岡でも1月10日からの公開だった)
このように、見たくてたまらない映画があるときなど、
やはり地方に住んでいるハンデを感じる。
まあ、それでも、兎にも角にも見ることができた。
それほど待望していた映画だったのだ。
で、見た感想はというと……
期待に違わぬ傑作であった。
上映時間196分に恐れをなしていたが、
まったくの杞憂であった。
安藤桃子監督の脚本、演出に、
安藤サクラの演技に、
すっかり魅了されてしまった。
ある日、介護ヘルパーの山岸サワ(安藤サクラ)は、
派遣先の家族から、
「冥途の土産に、おじいちゃんと寝てあげてくれない?」
と依頼される。
願いを叶えてあげようとするが、
当日、思いがけない大事件に巻き込まれて、
いきなり「家なし、金なし、仕事なし」の生活に追い込まれる。
人生崖っぷち状態に立たされたサワは、
息子夫婦と一緒に生活するのが嫌で家を出てしまった老人(井上竜夫)と出会い、
一晩、カラオケルームで過ごす。
タダで飲み食いし、宿泊させてらったサワであったが、
老人は出会った時よりも元気になり、
「ありがとう」と礼を言い、お金までくれて、家に戻って行った。
思わぬかたちで人助けをしたサワは、
以降、生活のために“押しかけヘルパー”をすることに……
最初のターゲットになったのは、
駐輪場の自転車をパンクさせまくる茂ジイさん(坂田利夫)。
「警察に言うよ」と脅し、
茂の住む古ぼけた二階家に勝手に入り込み、住みついてしまう。
迷惑がっていた茂であったが、
家事一切を軽々とこなすサワに、
次第に心を開いていく。
詐欺に遭いそうになった茂を助けたサワは、
介護施設に入ることになった茂から、年代ものの車をもらう。
次のターゲットになった老人は、
書店で女子高生の写真集を万引きしていた元教師の義男(津川雅彦)。
「近所中に言いふらすよ」と脅し、
またもや強引に家に上がり込み、住みついてしまう。
義男の家には、
認知症で寝たきりの奥さん(草笛光子)と、
あまり仕事熱心でないヘルパー(角替和枝)がいたが、
奥さんの介護や、掃除、洗濯、料理をするうちに、
なんとなく皆から「有難い」と思われるようになる。
だが、「財産狙いではないか?」と疑う中年ヘルパーの策略で、
義男の家も出て行かざるを得なくなる。
次に住みつくのは、
引きこもりの少年(土屋希望)が、
息子にいらだつ父親(柄本明)と暮らしている家。
父親から虐待を受けていた少年を助けたサワは、
そこで、少年の思いがけない素性を知ることになる……
癖の強い老人を見つけては家に上がり込み、
強引に彼らのヘルパーとなる。
彼らもはじめは面食らうものの、
料理が上手く、手際良く家事や介護をこなし、
いつも明るくふるまう彼女に、次第に心を開いていく。
不器用なために社会や家族から孤立していた彼らは、
懸命にぶつかってくるサワと触れあううちに、
生の輝きを取り戻していく……
介護もののドラマは、
深刻なものや、感動を強要するような美談風なものが多い。
しかし、この『0.5ミリ』は、そんな臭みは微塵もない。
風来坊のようなヘルパー・サワは、
地上に舞い降りた天使か妖精のような感じなのだ。
そんな主人公を、安藤サクラが実に楽しそうに演じている。
安藤サクラの凄さは、
熱演を熱演と感じさせないところ。
原色ではなく、パステルカラーのような淡い色合いながら、
見る者はいつのまにか彼女の色に染められてしまう。
実に不思議な女優である。
ベテラン俳優やベテラン芸人を相手にしても、
いささかも引かず、かと言って気負いも見せない。
ベテラン俳優やベテラン芸人の演技にはアドリブも多かったそうだが、
受けの芝居でも相手をふんわりと包み込んでしまう。
本作での坂田利夫は実に好い演技をしているが、
その坂田利夫は、撮影中、本気で安藤サクラをサワだと思い込んでいて、
安藤サクラに恋していたという。
坂田利夫だけでなく、
井上竜夫も、津川雅彦も、柄本明も、
きっと安藤サクラに恋していたのではないかと思う。
だからこそ、あれほど素晴らしいシーンがたくさん撮れたのではないか……
見ている者も、知らず知らずのうちに、彼女に引き込まれてしまう。
映画を見終わる頃には、すっかり彼女のことを好きになっている。
いやはや、安藤サクラは凄い女優である。
安藤サクラも凄いが、
サクラの姉、安藤桃子監督のことも褒めておかなければならないだろう。
荒削りながら、3時間半近い196分を観客に見せ切る力業には、正直驚かされた。
原作は、彼女の書下ろし小説で、
かつて、この小説に対するインタビューで、
次のように語っている。
この題材で描きたいことがたくさんあったんです。1作目となった映画『カケラ』を撮る前から、祖母の在宅介護を8年くらいしていて「世界中に存在する寿命分を生きた人たちが、どう死を迎え入れるか?」ということが、心の奥に引っかかっていたんです。介護をしている中で辛いことや、許せないことも山ほどあって「この大きな怒りを誰にぶつけたらいいのか?」となったとき、自分ができることはものづくりの中でそれを表現することしかないと思ったんです。オリジナルで映画化したいという漠然とした想いがありつつも、『カケラ』を撮る間に数年が経ち、自分の中で話がふくらんで飽和状態になってしまったんです。叫びたいことがありすぎて、シノプス(筋書き)に全然おさまりきらないくらい。そこで小説という形で文字に書きとめたいなと思っていたところ、出版元である幻冬舎の方と『カケラ』の取材でお会いする機会があって。そうしたら「小説を書いてみる気はありますか?」というお話をしてくださったんです。
『0.5ミリ』というタイトルについては、
この社会には当たり前だけど色んな世代の人間が、皆それぞれ違う尺度を持って生きている。主人公のサワはほんのちょっと背伸びして、おじいさん達に歩み寄るんです。0.5ミリは、違う世代の人たちが歩みよれる、ちょうど真ん中にある尺度、心の尺度なんです。このタイトルが最初にあって、そこから本がどんどんできましたね。
と語っている。
また、『キネマ旬報』(2014年11月下旬号)では、
私はサクラが撮りたくて映画監督になったようなものです。今回、初めて妹を演出して、発見したことがあります。彼女の母性です。サクラは家族の中で誰よりも優しいんですよ。そして、深い。愛が深すぎてしんどいだろうなと思うことは、もともといっぱいありました。家族、好きな監督、スタッフ、本当に大切な人には、つねに向き合おうとする。そういう愛の深さはわかっていたけど、本当にすごい母性のある人だなと思いました。
(中略)
サクラのその母性はどこから来ているのかというと、祖母の存在だと思います。この作品のきっかけになった、私たちが介護をした母方の祖母です。サクラはおばあちゃん子で、おばあちゃんも彼女をすごくかわいがっていました。私自身も、子どもやお年寄りに小さい頃から目がいってしまうところがありました。毎晩、おばあちゃんが死にませんようにと、物心ついた時から、ふたりで神様に本気でお願いしていたことは、死に対する疑問を考え続けるようになったきっかけです。無宗教ですけど、それは自然なことでした。今回のテーマでもある、人の最大の矛盾、人は生まれた瞬間から死が決まることを、祖母は小さい私たちに感じさせてくれました。私が海外にいて家にいなかった時期、サクラは中学生くらいから一生懸命に背負って介護をやっていました。人の生き様と死に様を、一番好きだったおばあちゃんに見せてもらったサクラだから、母性というか、人や生き物を尊いと思える豊かさを持てたんじゃないかと思うんです。
と語っている。
祖母の介護という姉妹共通の体験が、
映画『0.5』ミリの土壌を作り、
姉・安藤桃子が、
妹・サクラの「母性」を発見したことにより、
傑作『0.5ミリ』が生まれたといえるかもしれない。
安藤桃子監督は、
「姉妹で映画を作ることは生涯続けていきたいです」
とも語っていたので、
これからも、安藤サクラ主演の安藤桃子監督作品が、
いくつも生まれることであろうし、
見ることができるであろう。
私は、そのことが何より嬉しい。
楽しみに待ちたいと思う。
安藤サクラにとっては、
昨年(2014年)は、
主演作である『百円の恋』(←クリック)と『0.5ミリ』が公開され、
しかも二作とも傑作であったので、
「安藤サクラの年」とも言える輝かしい一年であった。
そして、今年(2015年)は、
出演作『娚の一生』(2月14日公開予定)や、
主演作『白河夜船』(GW公開予定)が控えている。
今年も安藤サクラから目が離せなくなりそうだ。
安藤桃子監督作品、
『0.5ミリ』をやっと見ることができた。
用事で福岡に行ったついでに、(アクロス山にも登った)
中洲大洋で見てきたのだ。
(ちなみに佐賀では、1月31日からシアターシエマにて公開予定)
昨年(2014年)11月から公開された作品であるが、
2ヶ月遅れでやっと見ることができた。
(福岡でも1月10日からの公開だった)
このように、見たくてたまらない映画があるときなど、
やはり地方に住んでいるハンデを感じる。
まあ、それでも、兎にも角にも見ることができた。
それほど待望していた映画だったのだ。
で、見た感想はというと……
期待に違わぬ傑作であった。
上映時間196分に恐れをなしていたが、
まったくの杞憂であった。
安藤桃子監督の脚本、演出に、
安藤サクラの演技に、
すっかり魅了されてしまった。
ある日、介護ヘルパーの山岸サワ(安藤サクラ)は、
派遣先の家族から、
「冥途の土産に、おじいちゃんと寝てあげてくれない?」
と依頼される。
願いを叶えてあげようとするが、
当日、思いがけない大事件に巻き込まれて、
いきなり「家なし、金なし、仕事なし」の生活に追い込まれる。
人生崖っぷち状態に立たされたサワは、
息子夫婦と一緒に生活するのが嫌で家を出てしまった老人(井上竜夫)と出会い、
一晩、カラオケルームで過ごす。
タダで飲み食いし、宿泊させてらったサワであったが、
老人は出会った時よりも元気になり、
「ありがとう」と礼を言い、お金までくれて、家に戻って行った。
思わぬかたちで人助けをしたサワは、
以降、生活のために“押しかけヘルパー”をすることに……
最初のターゲットになったのは、
駐輪場の自転車をパンクさせまくる茂ジイさん(坂田利夫)。
「警察に言うよ」と脅し、
茂の住む古ぼけた二階家に勝手に入り込み、住みついてしまう。
迷惑がっていた茂であったが、
家事一切を軽々とこなすサワに、
次第に心を開いていく。
詐欺に遭いそうになった茂を助けたサワは、
介護施設に入ることになった茂から、年代ものの車をもらう。
次のターゲットになった老人は、
書店で女子高生の写真集を万引きしていた元教師の義男(津川雅彦)。
「近所中に言いふらすよ」と脅し、
またもや強引に家に上がり込み、住みついてしまう。
義男の家には、
認知症で寝たきりの奥さん(草笛光子)と、
あまり仕事熱心でないヘルパー(角替和枝)がいたが、
奥さんの介護や、掃除、洗濯、料理をするうちに、
なんとなく皆から「有難い」と思われるようになる。
だが、「財産狙いではないか?」と疑う中年ヘルパーの策略で、
義男の家も出て行かざるを得なくなる。
次に住みつくのは、
引きこもりの少年(土屋希望)が、
息子にいらだつ父親(柄本明)と暮らしている家。
父親から虐待を受けていた少年を助けたサワは、
そこで、少年の思いがけない素性を知ることになる……
癖の強い老人を見つけては家に上がり込み、
強引に彼らのヘルパーとなる。
彼らもはじめは面食らうものの、
料理が上手く、手際良く家事や介護をこなし、
いつも明るくふるまう彼女に、次第に心を開いていく。
不器用なために社会や家族から孤立していた彼らは、
懸命にぶつかってくるサワと触れあううちに、
生の輝きを取り戻していく……
介護もののドラマは、
深刻なものや、感動を強要するような美談風なものが多い。
しかし、この『0.5ミリ』は、そんな臭みは微塵もない。
風来坊のようなヘルパー・サワは、
地上に舞い降りた天使か妖精のような感じなのだ。
そんな主人公を、安藤サクラが実に楽しそうに演じている。
安藤サクラの凄さは、
熱演を熱演と感じさせないところ。
原色ではなく、パステルカラーのような淡い色合いながら、
見る者はいつのまにか彼女の色に染められてしまう。
実に不思議な女優である。
ベテラン俳優やベテラン芸人を相手にしても、
いささかも引かず、かと言って気負いも見せない。
ベテラン俳優やベテラン芸人の演技にはアドリブも多かったそうだが、
受けの芝居でも相手をふんわりと包み込んでしまう。
本作での坂田利夫は実に好い演技をしているが、
その坂田利夫は、撮影中、本気で安藤サクラをサワだと思い込んでいて、
安藤サクラに恋していたという。
坂田利夫だけでなく、
井上竜夫も、津川雅彦も、柄本明も、
きっと安藤サクラに恋していたのではないかと思う。
だからこそ、あれほど素晴らしいシーンがたくさん撮れたのではないか……
見ている者も、知らず知らずのうちに、彼女に引き込まれてしまう。
映画を見終わる頃には、すっかり彼女のことを好きになっている。
いやはや、安藤サクラは凄い女優である。
安藤サクラも凄いが、
サクラの姉、安藤桃子監督のことも褒めておかなければならないだろう。
荒削りながら、3時間半近い196分を観客に見せ切る力業には、正直驚かされた。
原作は、彼女の書下ろし小説で、
かつて、この小説に対するインタビューで、
次のように語っている。
この題材で描きたいことがたくさんあったんです。1作目となった映画『カケラ』を撮る前から、祖母の在宅介護を8年くらいしていて「世界中に存在する寿命分を生きた人たちが、どう死を迎え入れるか?」ということが、心の奥に引っかかっていたんです。介護をしている中で辛いことや、許せないことも山ほどあって「この大きな怒りを誰にぶつけたらいいのか?」となったとき、自分ができることはものづくりの中でそれを表現することしかないと思ったんです。オリジナルで映画化したいという漠然とした想いがありつつも、『カケラ』を撮る間に数年が経ち、自分の中で話がふくらんで飽和状態になってしまったんです。叫びたいことがありすぎて、シノプス(筋書き)に全然おさまりきらないくらい。そこで小説という形で文字に書きとめたいなと思っていたところ、出版元である幻冬舎の方と『カケラ』の取材でお会いする機会があって。そうしたら「小説を書いてみる気はありますか?」というお話をしてくださったんです。
『0.5ミリ』というタイトルについては、
この社会には当たり前だけど色んな世代の人間が、皆それぞれ違う尺度を持って生きている。主人公のサワはほんのちょっと背伸びして、おじいさん達に歩み寄るんです。0.5ミリは、違う世代の人たちが歩みよれる、ちょうど真ん中にある尺度、心の尺度なんです。このタイトルが最初にあって、そこから本がどんどんできましたね。
と語っている。
また、『キネマ旬報』(2014年11月下旬号)では、
私はサクラが撮りたくて映画監督になったようなものです。今回、初めて妹を演出して、発見したことがあります。彼女の母性です。サクラは家族の中で誰よりも優しいんですよ。そして、深い。愛が深すぎてしんどいだろうなと思うことは、もともといっぱいありました。家族、好きな監督、スタッフ、本当に大切な人には、つねに向き合おうとする。そういう愛の深さはわかっていたけど、本当にすごい母性のある人だなと思いました。
(中略)
サクラのその母性はどこから来ているのかというと、祖母の存在だと思います。この作品のきっかけになった、私たちが介護をした母方の祖母です。サクラはおばあちゃん子で、おばあちゃんも彼女をすごくかわいがっていました。私自身も、子どもやお年寄りに小さい頃から目がいってしまうところがありました。毎晩、おばあちゃんが死にませんようにと、物心ついた時から、ふたりで神様に本気でお願いしていたことは、死に対する疑問を考え続けるようになったきっかけです。無宗教ですけど、それは自然なことでした。今回のテーマでもある、人の最大の矛盾、人は生まれた瞬間から死が決まることを、祖母は小さい私たちに感じさせてくれました。私が海外にいて家にいなかった時期、サクラは中学生くらいから一生懸命に背負って介護をやっていました。人の生き様と死に様を、一番好きだったおばあちゃんに見せてもらったサクラだから、母性というか、人や生き物を尊いと思える豊かさを持てたんじゃないかと思うんです。
と語っている。
祖母の介護という姉妹共通の体験が、
映画『0.5』ミリの土壌を作り、
姉・安藤桃子が、
妹・サクラの「母性」を発見したことにより、
傑作『0.5ミリ』が生まれたといえるかもしれない。
安藤桃子監督は、
「姉妹で映画を作ることは生涯続けていきたいです」
とも語っていたので、
これからも、安藤サクラ主演の安藤桃子監督作品が、
いくつも生まれることであろうし、
見ることができるであろう。
私は、そのことが何より嬉しい。
楽しみに待ちたいと思う。
安藤サクラにとっては、
昨年(2014年)は、
主演作である『百円の恋』(←クリック)と『0.5ミリ』が公開され、
しかも二作とも傑作であったので、
「安藤サクラの年」とも言える輝かしい一年であった。
そして、今年(2015年)は、
出演作『娚の一生』(2月14日公開予定)や、
主演作『白河夜船』(GW公開予定)が控えている。
今年も安藤サクラから目が離せなくなりそうだ。