一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『森山中教習所』 ……自動車教習所でのひと夏の友情と恋を描いた佳作……

2016年07月30日 | 映画


この映画を見に行った理由は、三つ。

一、監督が豊島圭介だったから。
豊島圭介監督といえば、
佐賀県を舞台にした映画『ソフトボーイ』(2010年)
今ではすっかり有名になった、永山絢斗、賀来賢人、波瑠などが出演しており、
佐賀県民にとっては、特別な作品。
豊島圭介監督作品ならば、ぜひ見に行かなければと思った。

二、麻生久美子が出演しているから。
大好きな女優・麻生久美子が、自動車教習所の教官役で出ている。
ぜひ見たいと思った。

三、ひと夏の物語であるから。
私は、「ひと夏」という設定に弱い。
『おもいでの夏』『チクソルの夏』『とらわれて夏』など、
ひと夏の友情や恋愛を描いた作品が好きなのだ。
ひと夏という期間限定、
自動車教習所という場所限定の映画は、
一種の“ユートピア”を描いた作品と言える。

それほど話題になっている映画ではないが、
私は、これくらいの地味目の作品が好きなのだ。
ワクワクしながら、映画館へ出掛けたのだった。

ある日、免許を取ろうと思い立った大学生の佐藤清高(野村周平)は、
ヤクザの組員・轟木信夫(賀来賢人)が運転する車にひかれてしまう。


死んだと思った組長の中島重臣(光石研)は、
轟木が無免許運転だったこともあり、
事故を抹消するため、清高を車のトランクに乗せ、どこかに埋めようと考える。
その前に、轟木に車の免許を取得させるため、
清高を車のトランクに入れたまま、組長の息のかかった非公認の自動車教習所へ向かう。
そこは、山間の田舎町にある、廃校を利用した、家族経営の教習所であった。


車が教習所に着くと同時に、トランクの中で意識が戻る清高。
彼は死んだのではなく、気を失っていただけだったのだ。
さらに、そこで清高と轟木が高校時代の同級生であったことが判明し、


困った組長の中島は、
事故をなかったことにするために、清高に無料で教習所に通わせることを提案する。


無料で車の免許が取れることを素直に喜んだ清高は、
それから、轟木と一緒に、その教習所に通うことになる。


境遇も性格も全く違う2人が、
へんてこな教習所・森山中教習所で過ごすひと夏。


清高には、松田千恵子(岸井ゆきの)という女友達がいるが、


教官の上原サキ(麻生久美子)に恋心を抱き始め、


楽しくて甘酸っぱい夏休みが平穏に過ぎていくように見えたのだが……
子どものようにフリーダムで、
免許を取ることで、どこへでも行ける自由を手にしようとする清高と、


諸事情から高校を中退し、ヤクザの道へ足を踏み入れ、
免許を取れば正式にヤクザになり自由がなくなってしまう轟木。


たった一度の短い夏休みは、
2人の人生を変えるのか……?



映画を見た感想はというと……
これが、案外、“掘り出し物”的な青春映画の佳作であった。
豊島圭介監督作品、
麻生久美子出演作品、
“ひと夏”という設定の作品という、
私の好みの映画ではあるのだが、
原作が漫画だったこともあり、
(ちょっと失礼な言い方にはなるが)
“映画の質”的には、それほど期待した作品ではなかった。
だが、
ほんわかしただけの作品と思いきや、
登場人物はそれぞれ複雑な問題を抱えており、
案外、奥が深く、
シュールな場面がいくつも差し込まれており、
“映画の質”的にも大満足の作品であったのだ。




マイペースでテキトーな大学生・佐藤清高を演じた野村周平。


ここ数年では、
『ビリギャル』((2015年5月1日公開)
『ちはやふる 上の句・下の句』(2016年3月19日・4月29日公開)
などの出演作が印象に残っているし、
現在、
フジテレビ系の月9『好きな人がいること』(2016年7月~9月)にも出演しており、
今、もっとも注目されている若手男優の一人。
豊島監督が、
「マイペースで天然!?と見せつつ、実は色々と感じて考えている、という塩梅の難しい役柄だが、野村さんの持つ、感度の高さや物怖じしない勢いという要素が化学変化を産みだしてくれると確信できた」
と語る通り、
漫画的なキャラクターながら、
「こんな人、いるいる」と思わせる素晴らしい演技で、
見る者を楽しませてくれる。
今年(2016年)は、
11月12日公開の映画『ミュージアム』(大友啓史監督)も控えているので、
こちらも楽しみ。




ポーカーフェイスでクールなヤクザの組員・轟木信夫を演じた賀来賢人。


豊島圭介監督作品『ソフトボーイ』にも出ていたので、
豊島組には二度目の出演。
監督は、キャスティング理由を、
「『ソフトボーイ』という映画で演じてもらった役柄が破天荒で憎めない天才キャラクターだったのですが、その際に実は垣間見えていた賀来さん特有の不器用さとか影のようなものが轟木という役柄にハマると考えたから」
と語っていたが、
しなやかでありながら強靭さを感じさせる細い肉体と、
感情を抑えた“翳り”のある演技が秀逸であった。




教習所の教官・上原サキを演じた麻生久美子。


〈こんな教官がいたなら、毎日楽しく通えるだろうな~〉
と思わせるほど、
美しく、魅力的で、
出演シーンも予想以上に多く、
私的には大満足であった。(笑)
今年は、『俳優 亀岡拓次』(2016年1月30日公開)でも彼女を見ることができたし、
麻生久美子ファンにとっては、言うことなしの嬉しい年である。




清高の女友達・松田千恵子を演じた岸井ゆきの。


素晴らしい演技力の女優で、ちょっとビックリ。
知らない女優さんと思っていたら、
私が以前に映画を見て、レビューも書いている
吉田恵輔監督作品『銀の匙 Silver Spoon』(2014年)や
犬童一心監督作品『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』(2014年)
にも出演しているとのことで、
己の記憶力の悪さに呆れてしまった。
神奈川県出身で、1992年2月11日生まれの24歳(2016年7月30日現在)。
2014年に東京ガスのCMに出演し注目を集め、
幅広い役柄を見事に演じ分ける演技力の高さから、続々と話題作に起用され、
年々活躍の場を広げているそうで、
彼女を記憶していなかったことを恥じたことであった。
今年は、
『だれかの木琴』(2016年9月10日公開予定)や、
『最低で最悪な最高(仮)』(2016年公開予定)
にも出演しているようなので、
楽しみに待ちたいと思う。




この他、
組長・中島重臣を演じた光石研、


上原サキ(麻生久美子)の父親・上原威一郎を演じたダンカン、


上原サキ(麻生久美子)の母親・上原都紀を演じた根岸季衣などが、
確かな演技で、作品を締めていた。


主題歌『Friend Ship』を歌っているのは、
今注目の星野源。


もはや、夏休みもなく、
夏休みがあったことさえ忘れてしまっている、あなた。
“ひと夏”の、
まぶしくも愉快な友情と、


ほろ苦く甘酸っぱい恋愛を、


映画『森山中教習所』の中で体験してみないか?


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