![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/2e/622264682734c32bffd63ae4364e86ad.jpg)
監督は誰しも特徴を持っていて、
映画を見ればその監督の特徴はある程度つかめるものだが、
大森立嗣監督だけは別で、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/fd/3e5d244026bf559473d65f899c965a24.jpg)
『ゲルマニウムの夜』(2005年)
『まほろ駅前多田便利軒』(2011年)
『まほろ駅前狂騒曲』(2014年)
『さよなら渓谷』(2013年)
『セトウツミ』(2016年)
『光』(2017年)
『日日是好日』(2018年)
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(2019年)
『タロウのバカ』(2019年)
『MOTHER マザー』(2020年)
など、一作一作、まったく違っており、
毎回、驚かされる。
その大森立嗣監督の新作が公開された。
それが、本日紹介する『星の子』(2020年10月9日公開)である。
『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した今村夏子の同名小説を映画化したもので、
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主演は芦田愛菜。
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黒木華、蒔田彩珠、原田知世、池谷のぶえなど、
私の好きな女優も多く出演している。
〈大森立嗣監督の新作ははたしてどんな作品になっているのか……〉
ワクワクしながら映画館に向かったのだった。
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大好きなお父さんとお母さんから愛情たっぷりに育てられたちひろ(芦田愛菜)だが、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/ad/eec915311c27381cb67dc147606673c3.jpg)
父(永瀬正敏)と、母(原田知世)は、
病弱だった幼少期のちひろを治したという“あやしい宗教”に深い信仰を抱いていた。
中学3年になったちひろは、
一目ぼれした新任の南先生(岡田将生)に、
夜の公園で奇妙な儀式をする両親を見られてしまう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/83/917718433a7be2eff4c1acbab651173d.jpg)
そして、そんな彼女の心を大きく揺さぶる事件が起き、
ちひろは家族とともに過ごす自分の世界を疑いはじめる……
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“あやしい宗教”を深く信じている両親のもとで、
過酷な青春を過ごす少女の物語……ということで、
あまり一般的な題材ではないし、地味だし、
はたして商業映画として成立するのか……と思ったが、
最後まで興味深く、面白く見ることができた。
大森立嗣監督の、ここ数年の、
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(2019年)
『タロウのバカ』(2019年)
『MOTHER マザー』(2020年)
などに見られる“親子の関係”をテーマにしているという点では、
(無理に探せば)共通点はなくはないが、
これまでの大森立嗣監督とはあまり似ていないし、
作品を見ただけで大森立嗣監督作品と言い当てる人はほとんどいないのではないか……
そういう意味では新鮮であったし、
いろいろ考えさせられる作品であった。
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私は原作を読んでいないので、
映画が原作通りなのかどうかは分らないが、
“あやしい宗教”を、この映画は肯定も否定もしておらず、
あやしげな“水”を信じる両親を、風変わりな人間としてではなく、
娘に惜しみない愛情を注ぐ両親として描いている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/22/8440fc90f18bdcdaa7ef86230153391a.jpg)
暴力を振るったり、何かを無理強いするというのであれば、
主人公の少女は“あやしい宗教”から抜け出すことを考えればいいが、
そうではないので問題がややこしい。
後に家を出ることになる姉・まーちゃん(蒔田彩珠)からは、
「この家族の現状はちひろのせいだ」
と言われたり、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/91/2f274da092ea451130fff1ede40e5fda.jpg)
両親の洗脳を解こうと作戦を企てるちひろの叔父・雄三おじさん(大友康平)からは、
両親の信じる“水”をわざと水道水に入れ替えて効用を試されたり、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/a2/6e261ed27dedec4cad847ab4b443627f.jpg)
「高校からは親元を離れて私の家から通学しないか?」
と提案されたりするが、
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迷う部分はあるものの、ちひろ(芦田愛菜)は両親といることを選ぶ。
“あやしい宗教”を信じているわけではないが、
両親の自分に対する“愛情”は信じられるからだ。
ここに至り、
我々とは一見無関係に見える“あやしい宗教”が、
急に身近なものに感じられるようになる。
なぜなら、この“あやしい宗教”は、
我々が信じているあらゆるものと同等、同質であるからだ。
父親や母親から暴力で支配されている子供たち、
夫の暴力に支配されている妻、
上司のパワハラやセクハラに耐え忍ぶしかない部下、
監督の言いなりに従うしかないスポーツ選手……等、
宗教ではなくても、我々の周囲にも“あやしい宗教”的環境に置かれている者は多くいる。
その環境から抜け出すのか?
その環境を自ら選び、いつか来るであろう(来ないかもしれない)至福の時を待つか?
本作『星の子』の問いかけてくるものは案外大きい。
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主人公のちひろを演じた芦田愛菜。
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以前は「子役出身の俳優は大成しない」と言われたものだが、
現在はこの説は覆されている。
神木隆之介、高畑充希、浜辺美波、濱田岳、小栗旬、佐藤健、志田未来、井上真央、柳楽優弥、安達祐実、高橋一生……等々、
子役出身で、大人になっても人気を保っている俳優はたくさんいる。
芦田愛菜もその一人だ。
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「Mother」(2010年4月14日~6月23日、日本テレビ)
「マルモのおきて」(2011年4月24日~7月3日、フジテレビ)
などのTVドラマで人気を博した“天才子役”も、
2004年6月23日生まれなので、もう16歳。(2020年10月現在)
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『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』(2014年6月21日公開)以来の主演映画であるが、
前作はまだ10歳にも満たない子役の年齢であったので、
女優と呼べる年齢での主演映画は本作『星の子』が初めてであると言える。
芦田愛菜という女優には、
才能ある若手俳優にありがちなエキセントリックさはなく、
いつも静かで落ち着いた演技をする
“あやしい宗教”を信じる両親に育てられたちひろは、
一見、不遇な環境に生きる悲劇のヒロインに見えるが、
イケメン教師を好きになったりする惚れっぽくてお調子者の側面もあり、
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多面性を持った少女である。
この複雑な思いを抱いたちひろを、
芦田愛菜は、肩の力を抜いた静かな演技で魅せる。
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本作は、彼女が大人の女優としてもやっていけることを証明した作品になっていると思う。
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ちひろの親友・なべちゃんを演じた新音。
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私は『まく子』(2019年3月15日公開)という映画で初めて新音に出逢ったのであるが、
そのレビューで、
……なぞの転校生を演じた新音(にのん)の透明感あふれる美……
とのサブタイトルを付して、
(私は)彼女のことを次のように記している。
コズエを演じた新音。
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【新音】(にのん)
2004年12月10日生まれ。14歳。(2019年4月現在)
母親(日本人)は、女性ファッション誌「VERY」のトップモデル・クリスウェブ佳子。
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父親はイギリス人。
幼少期より、雑誌やファッションショーなどのモデルとして活動し、
RADWIMPS「狭心症」のMV出演で注目を集める。
2018年、第68回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門にノミネートされた映画『Blue Wind Blows』(富名哲也監督)に出演し女優デビュー。
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役柄というより、新音自身に、
ひなびた温泉街の住民とはあきらかに違う雰囲気があり、
その透明感のある美が、地上に舞い降りた天使のような不思議な魅力を醸し出していた。
宇宙というか、
どこか遠い所からやってきたということを、
見る者に、瞬時に解らせてしまう魔法を持っている気がした。
映画鑑賞後に原作を読んだのだが、
コズエは、新音をあて書きしたのではないか……と思うほどに、
新音は、原作のコズエそのものであった。
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14歳にしては、しっかりした考えを持っており、
これからが本当に楽しみだ。
『まく子』から1年半後に、
再び新音をスクリーンで見ることができて、私としては素直に嬉しい。
何の偏見も持たずにちひろと接してくれる美人でカッコイイなべちゃん役で、
今の新音にピッタリの役だと思った。
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まだ15歳だが、(2020年10月現在)
その大人びた容姿、アンニュイな雰囲気に驚かされる。
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なべちゃん(新音)が好きな新村くん(田村飛呂人)ならずとも、
こんな少女がクラスにおったら惚れてまうやろ。(コラコラ)
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ちひろの姉・まーちゃんを演じた蒔田彩珠。
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蒔田彩珠を初めて女優として認知したのは、
『三度目の殺人』(2017年9月9日公開)であった。
彼女が出演する次作『友罪』(2018年5月25日公開)のレビューで、
白石(富田靖子)の娘・唯を演じた蒔田彩珠。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/b8/071685d1c038577f70141eeedf508ace.jpg)
蒔田彩珠の名は、『友罪』のHPにもないし、
「Yahoo!映画」などの映画紹介サイトのキャスト欄にもなかった。
だから彼女のことは誰も書かないのではないかと心配し、
せめて私だけでも書いておこうかと思った次第。
出演シーンは多くないし、それゆえにHPのキャスト欄にも名がないのだと思うが、
短い出演時間にかかわらず、見る者に鮮烈な印象を残す。
〈この女優見たことあるけど、誰だったっけ?〉
と誰もが思う筈である。
私も、過去に、そう思った経験をしており、
『三度目の殺人』(2017年9月9日公開)のレビューを書いたときに、
〈どこかで見たことのある女優だな~〉
と思いながら見ていたのだが、
黒木華主演のNHK土曜時代ドラマ『みをつくし料理帖』(2017年5月13日~7月8日)に出演していたことを思い出した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/51/5d0a5e6301e7cfe2304d62717f900499.jpg)
と書いているが、
何度か同じような経験をすることによって、
蒔田彩珠という女優の名が、私の心にしっかりと刻まれた。
目と唇に特徴があり、
(女優にこう言っては何だか)面構えがイイ。
是枝裕和監督作品の常連になりつつあり、
『海よりもまだ深く』(2016年5月21日公開)や、
『三度目の殺人』に続いて、
第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した『万引き家族』(2018年6月8日公開予定)にも出演しているようなので、こちらも楽しみ。
と書いたのだが、
その後、
『万引き家族』(2018年6月8日公開)
『猫は抱くもの『(2018年6月23日公開)
『いちごの唄』(2019年7月5日公開)
などの映画や、
「透明なゆりかご」第2話(2018年7月27日、NHK総合)
「みかづき」第2話・第3話(2019年2月2日・9日、NHK総合)
などのTVドラマを観て、
〈好い女優になってきているな~〉
と思った次第。
本作『星の子』でも、出演シーンはそれほど多くはないが、
ちひろを演じる芦田愛菜同様、複雑な思いを抱くちひろの姉を繊細に演じていて素晴らしかった。
現在公開中の河瀬直美監督作品『朝が来る』(2020年10月23日公開)にも、
重要な役で出演しているようなので、こちらも見に行くつもり。
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黒木華。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/ee/28aeb961bee0a1c61412fdbfd8b5adaf.jpg)
“あやしい宗教”で、
催眠術が使えて、人が持つオーラの色を見ることができる昇子さんを演じているのだが、
そのイッちゃってる感じが目にも表情にも佇まいにも表れていて、
その表現力に舌を巻いた。
黒木華が信仰する宗教ならば、私も入信してしまうかもしれない。(コラコラ)
それほど“説得力”がある演技であった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/38/1ed5182ee556f8ffaa8a4115f94730c7.jpg)
高良健吾。
“あやしい宗教”の謎めいた若き幹部で、
子どもたちや、特に女性に人気がある海路さん役。
黒木華と同様、
そのイッちゃってる感じが目にも表情にも佇まいにも表れていて、秀逸。
こういう純粋で神がかっているような役をやらせたら、右に出る者はいない。
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その他、
ちひろ(芦田愛菜)の父を演じた永瀬正敏、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/7c/e2cf304d219a83c1c6870d44414e1738.jpg)
母を演じた原田知世、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1c/ef/1cdf35ef4e3fc8b8540f048e7b7fd4a9.jpg)
雄三おじさんを演じた大友康平、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/56/628e560af0dcd2098981451818f228d2.jpg)
雄三おじさんの妻を演じた池谷のぶえ、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/71/7f5b16b6e3eb6021d649e27b2e27dbeb.jpg)
新任のイケメン教師・南先生を演じた岡田将生などが、
確かな演技を見る者を楽しませてくれた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/27/dc1842196bdb36bd4c72256ffb26abc2.jpg)
16歳はまだ大人とは言えないが、
子役の域を脱し、
大人の女優として一歩踏み出した芦田愛菜の主演作は、
地味だけれど、演技派女優としての未来が見える秀作であった。
映画館で、ぜひぜひ。