一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』……終着駅の先にも……

2011年12月02日 | 映画
昨年(2010年)の5月29日に公開された映画
『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(←クリック)は、
タイトルが長すぎる(笑)こと以外は、なかなかの作品であった。
主人公の中井貴一の好演もさることながら、
電車の走る姿、そして風景が素晴らしいと思った。

映画の冒頭の、出発する車内に光が差し込んでくるシーン、
美しい田園風景の中を電車がゆっくり走るシーン。
どこか人間くさく、温かみを感じさせるバタデン。
本当の主役は、この電車と、出雲の風景なのかもしれない……
そう思わせるほど、美しく、素敵だった。


と、私はブログの映画レビューに記している。
その時、
〈電車が主役であれば、設定を変えさえすればシリーズ化できるかもしれない〉
と、チラと考えた。
でもまさか、1年半後に第2弾が公開されるとは、
その時はまったく思わなかった。
(制作発表がなされたのは2011年2月13日だった)

第1作の『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』は、
島根県の一畑電車(バタデン)が舞台であったが、
第2作となる『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』の方は、
富山県の富山地方鉄道が舞台。


昨年(2010年)の夏に、私は、
「剱岳・立山連峰・大日三山」ソロトレッキング(←クリック)をした。
佐賀から富山まで在来線と新幹線を利用し、
富山から立山までは、富山地方鉄道を使った。
その時、私は、ブログに次のように記している。
 
JR富山駅に隣接する電鉄富山駅に向かう。
14:26 電鉄富山駅発
この電鉄富山の電車もかなり古い。
映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』に出てきた一畑電車(バタデン)を思い出した。
なかなか味わいがあって好い。


富山へ出発する2ヶ月前に、
『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』
を見たばかりだったので、
上記のような感想を持ったのだと思うが、
この時は、まさか『RAILWAYS』の第2弾として、
富山地方鉄道が舞台として使われようとは、
先程も述べたように、夢にも思わなかった。

私は所謂「鉄ちゃん」ではないので、
それほど電車に関心があるというのではないけれど、
この電鉄富山の電車が好もしく、
数枚の写真を撮った。
偶然なのだが、その中に、
映画に出てくる主要な電車が含まれていて、
ちょっと驚いた。
たとえば、「レッドアロー」の愛称で親しまれたモハ16010形(右)と、
「だいこん」の愛称で親しまれたモハ14760形(左)。


特に「レッドアロー」は、映画でもかなり重要な役(笑)で出てくる。


こちらは、「かぼちゃ」の愛称で親しまれているモハ10030形。
「かぼちゃ」の愛称がぴったりのカワイイ電車だ。


小さな駅の佇まいにも富山地方鉄道の歴史を感じたし、
立山駅に着くまで飽かず車窓から外を眺めていた。


『RAILWAYS』シリーズ第2作となる
映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』は、
富山地方鉄道の運転士と妻のドラマ。
監督は、前作でチーフ助監督を務め、本作が監督デビューとなる蔵方政俊。
主演は、三浦友和と余貴美子。
大好きな二人が主演の映画とあって、ワクワクしながら鑑賞した。

鉄道運転士の滝島徹(三浦友和)は、仕事一筋の日々を過ごし、59歳になった。


専業主婦として徹を支えてきた妻・佐和子(余貴美子)は55歳。
徹の定年退職が目前に迫ったある日、
佐和子は看護師の仕事を再開すると宣言する。
結婚前に看護師をしていたのだが、結婚後は親の介護等で外では働けないでいた。
第2の人生を、
夫は、妻と旅行でもしてのんびり過ごそうと思い、
妻は、これからは自分の人生を生きようと決意する。
妻の申し出を理解できない徹と、
今度こそは自分の足で歩きたい思っている佐和子は、
当然のことながら口論となる。
「出て行け」と言われて家を飛び出す佐和子。
佐和子はアパートを借り、緩和ケアセンターで働き始める。
お互いの気持ちに気づきながら、
本当の気持ちを言葉にできない二人。
次第に溝は深まっていき、
ついに佐和子は徹に離婚届を突きつける。
ひとり娘の麻衣(小池栄子)、


徹が研修を担当している新入社員の小田(中尾明慶)、


佐和子が担当している患者・井上(吉行和子)など、


周囲にいる人々の人生も絡めながら、
人生の岐路に立った夫婦の姿を描いていく。
果たして、夫婦が辿り着く第2の人生のスタート地点とは……


三浦友和。
鉄道運転士として42年も実直に仕事をしてきた男を好演していた。
車内アナウンスはやや硬い印象を受けたが、それも演技の内かもしれない。
昔は今で言うイケメン俳優であったが、演技はイマイチの感があった。
それ故に一時期不遇な時代もあったような気がする。
中年になってから、好い味が出るようになり、
ここ数年の充実ぶりは目を瞠るものがある。


余貴美子。
彼女が出ているので見に行った部分が大きいのだが、
やはり素晴らしい女優であることを再認識させてくれた。
『おくりびと』(2008年)
『ディア・ドクター』(2009年)
『空気人形』(2009年)』
『孤高のメス』(2010年)
『悪人』(2010年)
『八日目の蝉』(2011年)
『ツレがうつになりまして。』(2011年)
など、彼女の出演作は、傑作が多い。
彼女の出演作を選ぶ目が確かなのか、
彼女が出演すれば傑作になるのか……
どっちにしろ、これからも彼女から目が離せない。


その他、小池栄子、


中尾明慶、


吉行和子、


岩松了、中川家礼二、仁科亜季子、米倉斉加年などが、



個性あふれる演技で作品を支えていた。

水準以上の作品であり、
第2の人生への分岐点にさしかかっている50代後半の人たちにとっては、
考えさせられる場面や、
感動させられるシーンの多い、秀作だと思う。
ただ、ひとつだけ苦言を呈するとすれば、
ややストーリーがベタ過ぎること。

第1作の『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』は、
一流企業で働く企業戦士が、会社人間のむなしさに気づき、
子供の頃の「バタデンの運転手になる」という夢を叶えるために一歩を踏み出す……
そして、真の人間としての喜びや希望を見出していく。
その姿を妻や娘が見て、バラバラになっていた家族の心がひとつなっていく――
というストーリーだった。
こちらもちょっと出来すぎの感があったが、
第2作の本作は、第1作よりも類型的な感じがした。
まるで昔の「東芝日曜劇場」を見ているような……(古ぅ)

今どき、妻が働きに出ると言っただけで、怒り出す夫がどれだけいるだろうか?
定年退職し、満額の年金受給にはまだ数年あるし、
地方鉄道を定年退職した運転士がそれほど巨額の退職金をもらえるとも思えない。
看護師の資格を持つ妻が、夫の定年退職を機に働きたいと言ったら、
私など、お礼を言いたいくらいだ。(笑)
怒るなんてとんでもないことだ。

我が家の近くにも、
妻が看護師で、リストラで職を失った夫が主夫をしている家がある。
夫は毎朝早く起きて、
洗濯物を干したり、庭の手入れをしたり、犬の散歩をさせたりと、
楽しそうに主夫業をされている。
こういう家庭も珍しくないのに、
この映画の設定は、20~30年前の夫婦のようだった。
それだけがやや不満であったが、
立山連峰をバックに走る電車を見ていたら、
そんなことも忘れてしまった。

2本のレールも、
トコトコ走る2両連結の電車も、
長年連れ添った夫婦の人生を象徴しているようで、
胸がキュンとなった。
60歳は終着駅ではなく、その先もずっとレールは続いている。
新しい旅を始めることだってできるのだ。


この映画を見て、
「第2の人生」の旅支度の参考にしてみては如何?

※この映画は1週間前くらいに試写会で見た。
 すぐにレビューを書こうと思っていたのだが、
 アッと言う間に公開日(12月3日)前日となった。(笑)
 慌ててレビュー書いた次第。
 間に合ってヨカッタ。

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