一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『アバター』 ……映画ファンの誰もが見ておく必要のある作品……

2010年01月10日 | 映画
佐賀県には現在三つのシネコンがあるが、その中の一つ「ワーナー・マイカル・シネマズ上峰」が2010年2月28日(日)をもって閉館することが決まった。
13年前に県内初のシネコンとしてオープンした「ワーナー・マイカル・シネマズ上峰」であるが、続いてオープンしたスクリーン数の多い「イオンシネマ佐賀大和」「109シネマズ佐賀」に客を奪われ、ここ数年は苦戦が続いていた。
閉館の理由を「施設の老朽化等」としているが、多くの要素が本館を閉館に追い込んだものと思われる。
シネコンも淘汰の時代を迎えているのかもしれない。
現在、日本中のシネコンが急ピッチでデジタル3D施設の整備を進めている。
理由は、言うまでもなく3D映画が増えてきているからだ。
昨年末より、その3D映画の決定版とも言われている『アバター』が公開されている。
ジェームズ・キャメロン監督が、構想に14年、製作に4年を費やした超大作。
これまでの単なる3D映画ではなく、《映像革命》と言われるほどの完成度をみせているという。
私はどちらかというとミニシアター系の作品が好きなので、莫大な制作費をかけた超大作と呼ばれるようなものは避けてきた。
3D映画にもとんと興味がわかず、これまで一度も見たことがなかった。
だが、あの『タイタニック』のジェームズ・キャメロン監督が、構想に14年、製作に4年を費やしたという『アバター』だけは見ておく必要があるのではないかと思った。
これからの映画界がどのような方向へ進むのか、本作が重要なカギを握っていると思われたからだ。
折しも、数日前の新聞には、「テレビ【3D元年】幕開け」の文字が躍っていた。
パナソニック、ソニー、東芝、サムソン電子など日韓の家電大手が相次いで3次元立体(3D)映像に対応したテレビの新製品を年内に投入すると表明したのだ。
家庭で映画館さながらの高画質の立体映像が楽しめるのだという。
もう好き嫌いを言っている場合ではない。
とにかく見てみなくては……
現在、佐賀県内で、3D映画を見ることができる施設を備えているのは、「109シネマズ佐賀」のみ。(これから3D映画がどんどん増えてくるとすれば、「イオンシネマ佐賀大和」もデジタル3D施設の整備も考えなければならないのではないかと思われる)
で、私は、当然のことながら、3D施設のある「109シネマズ佐賀」に足を向けた。
チケットを買い、入場口に向かうと、そこで3D用のメガネを渡される。
それを持って、指定されたシアターに入ると、予想をはるかに超える人の数がいて驚いた。
満席に近い観客数だ。
時代は、すでに3D映像革命の方へ移行してきているのかもしれない。
実感としてそれを味わった。

『アバター』とは、どういう映画なのか?
その前に、アバターとは何かということを説明しておかなければならないだろう。
アバター(avatar)とは、一般的な概念としては、「2D/3Dのビジュアルチャットやワールドワイドウェブ上の、比較的大規模なインターネットコミュニティで用いられる、【自分の分身となるキャラクター】、または、そのサービスの名称」(フリー百科事典『ウィキペディア』より)ということになる。
漫画のような姿のキャラクターが用いられる場合が多い。
以前このブログで紹介した映画『サマーウォーズ』でも、アバターが重要な役割を担っていたことを憶えておられるだろうか?
映画『アバター』は、22世紀の地球。
戦闘で負傷し、車椅子で失意の生活を送っていた元海兵隊員のジェイク・サリー(サム・ワーシントン)は、亡くなった双子の兄トミーの代わりに、地球からおよそ5光年離れたアルファ・ケンタウリ系の惑星ポリフェマスの衛星パンドラの任務を負うことになる。


地球人に似た“ナヴィ”というヒューマノイドの民族が暮らし、様々な動植物が生息する美しい森の広がるパンドラには、地球の燃料危機の解決に繋がる重要な鍵となる鉱石アンオプタニウムが存在し、その採掘が行われている。
しかし、パンドラの大気は地球人にとっては有害であり、資源開発会社RDAは、採掘・研究を円滑に行うためにアバタープロジェクトを進めていた。
この作品でいうアバターとは、地球人とナヴィのDNAを遺伝子操作によって合成して作り出したハイブリットの肉体。


グレイス博士(シガニー・ウィーバー)率いる科学者が考案したもので、特殊な装置によって意識を転送し、リンクされた人間のドライバーが遠隔操作することによって、生命体になり活動が可能となる。
ジェイク・サリーは、自らの分身となるアバターを操り、先住民“ナヴィ”と交流するが、やがて鉱物資源を巡って勃発する人類とナヴィとの戦争に巻き込まれていく……


単なるSFアクションと思いきや、ナヴィ・オマティカヤ族族長の娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)との心の交流などを基調としたラブ・ファンタジーとも言える作品で、『タイタニック』と同様、ハラハラドキドキしながらラブロマンスも楽しめるという、万人向き(ここでは褒め言葉として用いている)のなかなかの映画であった。




アバターであるジェイクも、ナヴィであるネイティリも、顔が青く異様で、身長も人間の1.5倍あるので、最初目にした時は不気味な感じがする。
それが、目が慣れてくると、なんだか魅力的に見えてくる。
これが実に不思議な体験だった。
私は男なので、ナヴィ・オマティカヤ族族長の娘ネイティリには恋心を抱くほど惹きつけられた。




政治的な意味で言えば、ナヴィたちはアメリカ先住民そのもので、米国の覇権主義の歴史を再現したものにも感じる。
ベトナム戦争やイラク戦争を連想する人もいるかもしれない。
未来ではなく、過去に目を向ければ、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』をはじめ、似た内容の映画はけっこうある。
宮崎駿監督作品『風の谷のナウシカ』に似た部分の映像もあったし、この作品にはいろいろな要素を取り込んで作られたものであることが感じられる。


この他、キャストにも魅力的な俳優が多く、楽しめた。
まず、シガーニー・ウィーバー。
かつて、ジェームズ・キャメロン監督作品『エイリアン2』(1986)に出演したことがある彼女が、グレイス博士役でこの作品に登場してるのが何よりも嬉しかった。


敵役・マイルズ・クオリッジ大佐役のスティーブン・ラング。
彼のこれでもかという憎々しい演技がなければ、この作品の魅力はもっと乏しいものになっていただろう。


退役した海兵隊女性パイロットのトルーディ・チャコン役のミシェル・ロドリゲス。
『エイリアン2』の仲間思いの女戦士バスケスを彷彿とさせる魅力的な役で、私は個人的にかなり惹きつけられました。ハイ。


褒めても褒めたりないほど面白い作品なのだが、欠点もないわけではない。
それは、作品の良し悪しというより、技術的な問題かもしれない。
①3Dは専用メガネで見るようになっているのだが、この専用メガネが重すぎる。
②立体映像は素晴らしいが、奥行きは感じられるが幅が狭く感じられる。
③2Dに比べ、色彩がイマイチ。全体に暗く感じる。
など、まだまだ課題は多い。
だが、『アバター』の成功により、これから3D映画は増えていくだろうし、3D映像に対応したテレビの発売により、観客の関心、要望も益々高まっていくと思われる。
その分岐点に現れた映画『アバター』は、映画ファンの誰もが見ておく必要のある作品と言えるだろう。

この記事についてブログを書く
« 2010さぎんニューイヤーコン... | トップ | 天山 ……あらゆるものがどこか... »