一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『あの日のオルガン』 ……戸田恵梨香と“期待の新鋭女優たち”の競演……

2019年08月09日 | 映画

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平松恵美子監督作品である。


平松恵美子といえば、
長年、山田洋次監督作品での共同脚本、助監督を務めており、
これまで、
『十五才 学校IV』(2000年、松竹)共同脚本
『たそがれ清兵衛』(2002年、松竹)助監督
『隠し剣 鬼の爪』(2004年、松竹)助監督
『釣りバカ日誌16』(2005年、松竹)共同脚本
『武士の一分』(2006年、松竹)共同脚本
『母べえ』(2007年、松竹)共同脚色
『おとうと』(2010年、松竹)共同脚本
『東京家族』(2012年、松竹)共同脚本
『小さいおうち』(2014年、松竹)共同脚色・助監督
『母と暮せば』(2015年、松竹)共同脚本・助監督
『家族はつらいよ』(2016年、松竹)共同脚本・助監督
『家族はつらいよ2』(2017年、松竹)共同脚本・助監督
『妻よバラのように 家族はつらいよIII』(2018年、松竹)共同脚本・助監督
などの作品で、脚本、助監督を務めてきた。
(劇場公開映画としての)初監督作品は『ひまわりと子犬の7日間』(2012年、松竹)で、
本日紹介する映画『あの日のオルガン』は、監督2作目となる。
原作は、久保つぎこの『あの日のオルガン 疎開保育園物語』で、


太平洋戦争末期、子どもたちのいのちを守るために、誰もやったことのない“疎開保育園”を初めて敢行した保母たちの奮闘を描いた作品。
主演は、戸田恵梨香と、大原櫻子。
他に、
佐久間由衣、三浦透子、堀田真由、福地桃子、白石糸、奥村佳恵など、
これからの日本映画界を牽引するであろう新鋭女優たちが出演している。
この中には、私の期待している女優も複数出演している。

今年(2019年)の2月22日に公開された作品であるが、
佐賀では、シアターシエマで、約5ヶ月遅れて(遅れ過ぎ!)、
7月26日から8月8日まで公開された。
で、先日、ようやく見ることができたのだった。



戸越保育所の主任保母・板倉楓(戸田恵梨香)は、
園児たちを空襲から守るため、親元から遠く離れた疎開先を模索していた。


別の保育所・愛育隣保館の主任保母・柳井房代(夏川結衣)の助けもあり、


最初は子どもを手放すことに反発していた親たちも、
せめて子どもだけでも生き延びて欲しいという一心で、
保母たちに我が子を託すことを決意。


しかし、ようやく見つかった受け入れ先は、
埼玉にあるガラス戸もないボロボロの荒れ寺だった。


幼い子どもたちとの生活は問題が山積み。
それでも保母たちは、子どもたちと向き合い、
みっちゃん先生(大原櫻子)はオルガンを奏で、みんなを勇気づけていた。
戦争が終わる日を夢見て……


そんな願いをよそに1945年3月10日、米軍の爆撃機が東京を襲来。
やがて、疎開先にも徐々に戦争の影が迫っていた……




学童疎開を扱った映画は、
『みんなわが子』(1963年)
『ガラスのうさぎ』(1979年)
『ボクちゃんの戦場』(1985年)
『少年時代』(1990年)
『杉の子たちの50年 学童疎開から明日へのメッセージ』(1995年)
など、数多くあるが、
学童よりも幼い保育園児の疎開を扱った映画は、これまでなかったのではないか……
私自身は、
実話だという原作本の『あの日のオルガン 疎開保育園物語』も読んでいなかったし、
この映画に出会うまで、恥ずかしながら、“疎開保育園”そのものを知らなかった。
保育園児の疎開がほとんど行われなかったのは、
幼なすぎて面倒見切れないということもあっただろうし、
普通に考えると、不可能なことに思われる。
なので、本作『あの日のオルガン』を見て、
幼い子供たちの命を守ろうとする若い保母さんたちの情熱に感動させられた。



戸田恵梨香が演じたリーダーの主任保母・板倉楓は、
“怒りの乙女”と言われるくらいいつも怒っていて、


大原櫻子が演じたみっちゃん先生こと野々宮光枝は、板倉楓とは真逆で、
いつもニコニコして子供たちと一緒になって遊んでいるような役で、


板倉楓と野々宮光枝の対比が素晴らしく、
二人の性格が効果的に活かされており、感心させられた。


戸田恵梨香さんが演じた楓さんのモデルの畑谷光代先生が手をつけられないぐらい怒り出すというのがとにかく魅力的で。昭和6年の満州事変から戦争が始まって、彼女の中にふつふつとくすぶっている何かがあって、常に怒っている。これを活かした話ができないかなと考えていきました。ただこの人は保母さんの中のリーダーだから、そのまま彼女の目線で描くと強い話になって面白くない。では誰の目線がいいかと考えたときに、できれば子どもに近い目線で、呆れられながらもこの人に翻弄されてついていき、叱られながら成長していく新米保母がいいかなと。それで彼女をもう一人の主人公に配したんです。(『キネマ旬報』2019年3月上旬特別号)

こう語るのは、平松恵美子監督。
『駆込み女と駆出し男』(2015年)で戸田恵梨香を見たときに、
〈芯があってすごくいいな〉
と思い、
役に迷いがあった戸田恵梨香に直接会って説得したという。

大原櫻子の方は、
「劇中で歌を歌うので、実際に歌える人がいい」
ということで、何人かの候補の中から、
「新鮮さがあって、しかもものすごくパッションがあって、頭の回転もいい」大原櫻子を選んだとのこと。


この二人は、平松恵美子監督の期待に応え、
実に好い演技をしている。
特に大原櫻子の方は、(実際に)子供たちに好かれているのが判るほど役に馴染んでおり、


平松恵美子監督の「ねらい以上」であったのではないかと思われる。



若い保母さんを演じた、
佐久間由衣、三浦透子、堀田真由、福地桃子、白石糸、奥村佳恵の6人は、
1000人を超えるオーディションで選ばれたという。


神田好子(戸越保育所保母)役の佐久間由衣。


連続テレビ小説『ひよっこ』(2017年4月3日~9月30日、NHK)で、
ヒロインの親友・助川時子を演じている彼女を観て、
私は、その美しい容姿(身長170cm)に魅せられた。
その後、
TVドラマ『チア☆ダン』(2018年7月13日~9月14日、TBS)や、
TVCMなどで活躍している彼女を観て、
今後に期待できる女優だと思った。
本作では、唯一、ロマンス的なシーンがあり、


彼女がいるだけで、各シーンが華やかになった。




今年(2019年)の冬に公開予定の『"隠れビッチ"やってました。』で、


映画初主演を務めることになっているようなので、こちらも楽しみ。



山岡正子(戸越保育所保母)役の三浦透子。


『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018年3月17日公開)での演技が素晴らしく、
山戸結希監督の企画・プロデュースによるオムニバス映画『21世紀の女の子』(2019年2月8日公開)の中の「君のシーツ」でも好演していたし、
『天気の子』(2019年7月19日公開)では、
主題歌『グランドエスケープ(Movie edit)feat. 三浦透子』でボーカルを担当するなど、
最近、その才能を見せつけられている。
今、私が、最も注目している女優だ。
本作でも、地味な役柄ながら、しっかりと存在感を示している。



堀之内初江(愛育隣保館保母)役の堀田真由。
NHK連続テレビ小説『わろてんか』(2017年10月9日~2018年3月31日、NHK)で、
主人公・藤岡てんの妹・りんの役を演じて話題になった。
『チア☆ダン』(2018年7月13日~9月14日、TBS)
『3年A組-今から皆さんは、人質です』(2019年1月6日~3月10日、日本テレビ)
でも好演し、私のとっても気になる女優になった。
本作では、美しい顔立ちに眼鏡という特徴のあるキャラクターであったが、
自然体の演技で我々を楽しませてくれた。



森静子(愛育隣保館保母)役の福地桃子。
現在、NHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年4月1日~9月28日〈予定〉、NHK) で、
柴田夕見子役で活躍しており、毎日観ているが、
今年(2019年)は、
スクリーンデビュー作となる主演映画『あまのがわ』(2月9日公開)など、
飛躍の年になっている。
父は哀川翔で、最初は「親の七光り」的な部分も感じられたが、
最近は堂々とした演技で、女優としての独自の地位を確立しつつある。
本作でも、その演技は、安心して見ることができる。



江川咲子(愛育隣保館保母)役の白石糸。
映画初出演作は、中村義洋監督の『白ゆき姫殺人事件』(2014年公開)であったが、
TVドラマ『コウノドリ』(TBS)
第1シリーズ(2015年10月16日~12月18日)
第2シリーズ(2017年10月13日~12月22日)
の平井沙織役で一躍有名になった。
清楚で、美しい顔立ちの女優で、
最近は、『プレバト!!』(MBS)などバラエティ番組でも見かけるようになり、
「白石糸」の名を見つけると、必ず観るようにしている。
本作では、出演シーンはそれほど多くないが、
印象に残る演技をしていて感心させられた。



大沢とみ(疎開保育園・賄い担当)役の奥村佳恵。
蜷川幸雄演出の『音楽劇 ガラスの仮面』のオーディションに応募し、
2330名の応募者の中から蜷川によって見出され、
ヒロインの一人・姫川亜弓役に抜擢されて、2008年8月に女優としてデビュー。
以降、長塚圭史、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、白井晃などが演出する舞台作品に次々に出演し、
2014年2月には、野田秀樹作の一人芝居『障子の国のティンカーベル』で毬谷友子と並んで主演を務めている。
舞台では文句なしの活躍であるが、映画の方は、
大塚祐吉監督作品『スープ〜生まれ変わりの物語〜』(2012年公開)で映画デビューし、
映画出演はこれまで(本作を含め)5作のみ。
本作『あの日のオルガン』でも小さな役だったので役不足だったかもしれないが、
確かな演技は本物だったし、
映画界でも知名度を上げるきっかけになったのではないかと思われる。



このように、
佐久間由衣、三浦透子、堀田真由、福地桃子、白石糸、奥村佳恵といった、
今後の映画界を牽引するであろう期待の新鋭女優たちが多く出演し、
戸田恵梨香と、大原櫻子を含めた若い女優たちの競演も見所のひとつとなっており、
“女性映画”としても価値のある作品になっている。




また、
平松恵美子監督が長年、山田洋次監督作品での共同脚本、助監督を務めていた関係から、
山田洋次監督作品『家族はつらいよ』シリーズに出演している、
橋爪功(南埼玉郡平野村 世話役・近藤作太郎役)


夏川結衣(愛育隣保館の主任保母・柳井房代役)


林家正蔵(健一郎の父親・藤木勝男役)
などが脇を固めているのも安心をもたらしているし、楽しめる。



その他、
田中直樹、山中崇、田畑智子、陽月華らも出演しており、
とにかくキャストが豪華。






この映画のラスト近く、
終戦後に、最後の園児を親に引き渡した後、
戸田恵梨香が演じる板倉楓が、号泣するシーンがある。
泣きたいのを我慢し、ずっと怒ってばかりいた楓が、
最後の最後、張り詰めていたものが切れたように泣くのである。
このシーンの戸田恵梨香の演技は素晴らしかったし、
女性や子供たちを悲しませたり泣かしたりする国は、
やはり二等国だということを再認識させられた。
防衛の名のもとに、戦争の影がチラつく現代において、
この庶民戦争映画が上映される意味は大きい。


今年(2019年)の2月22日に公開された作品なので、
冒頭に、佐賀での上映は「遅れ過ぎ!」……と書いたが、
この映画を見るのに一番ふさわしいのは、案外、
戦争のことを考えることの多い“夏”なのかもしれない。
本作の公式サイトで【劇場情報】を見たら、
8月、9月、10月に上映を予定している映画館がまだたくさんあった。(コチラを参照)
近くの映画館で上映していましたら、
お子さんやお孫さんと一緒に、ぜひぜひ。

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