一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

三俣山 ……すべてが美しい山 すべてを愛したい山……

2009年10月18日 | 山岳会時代の山行
長者原からくじゅうの山群に入って行くとき、
長者原からくじゅうの山群に別れを告げるとき、
いつも、
そこで迎え、
見送ってくれるのは、
三俣山である。

美しい姿の山である。
からつ労山の10月の月例山行は、この三俣山。
紅葉の時期ではあるが、それを観賞するだけではもったいない。
今の三俣山のすべてを味わいたい。
そう思って、この日を待っていた。

早朝。
多久IC入口。
空には星々が煌めいている。
オリオン座がとりわけ美しい。
マイクロバスを待つ……この時間が私は好きだ。
〈今日は、どんな山歩きができるのだろう〉
〈今日は、どんなものに出逢えるのだろう〉
そんなことを考えながら空を見上げている……この時間が私は好きだ。


大曲に到着。
狭い駐車場は、当然満杯。
道路脇に列をなして多くの車が駐まっている。
マイクロバスから降り、準備を済ませ、歩き出す。
天気予報は「晴天」と言っていたが、空は雲っていて、三俣山の山頂部は見えなかった。


硫黄山の噴煙もガスにかき消されていた。


すがもり越から三俣山にとりつく。


フクオウソウが咲いていた。


高度を上げるに従って、ガスの中から色づいた木々が姿を現した。


西峰を経て、三俣山本峰に到着。
ここもガスに覆われ、何も見えず。
ガスはすごい勢いで流れており、時折、その切れ目から、色鮮やかな紅葉を垣間見ることができた。


大鍋の底に向かって下りて行く。
皆から、「おお~」という溜息とも歓声ともつかない声がもれる。
言葉にならないといった感じだ。


鍋の底に到着。
ここで昼食。
私は肉うどんを作って食べた。
そして食後の珈琲。
360度の紅葉を眺めながらのランチ。
三つ星レストランでもかなわない贅沢なランチであった。


北峰に向かって登り始める。
下から眺める紅葉も素晴らしかったが、上から眺める紅葉も素晴らしい。


ガスが流れ、薄日が差し、スポットライトが当たったように紅葉を照らし出す。


もはや、神が創ったとしか思えないほどの色彩。


その美の前に、凡夫の私は、ただ立ち尽くすのみである。


長者原の方へ下りてくると、一転、緑の中に彷徨い込む。
色とりどりの鮮やかな世界から、緑一色の世界へ。


極彩色の紅葉に慣れた目に、緑の森は、まるで初めての色を見るように新鮮に映る。


ヤマアジサイがまだ咲いていた。


山頂部の賑わいとは無縁の、まったくの静寂の世界。
これもまた秋の姿のひとつなのだ。


長者原に着くと、そこにはススキ野原が広がっていた。


逆光に照らし出され、銀色に光り輝く。


リンドウの花や、


ヤマラッキョウの花を愛でていたら、


ある女性から、「ヒゴタイが咲いていたよ」と教えられた。
その女性と、ヒゴタイが咲いているという場所に向かった。
「ほら、あそこ」
女性の指さす方向に、すくっと立つ二株のヒゴタイがあった。
「ああ本当だ、美しい!」


目を上げると、そこには、今しがた登ってきた三俣山が……
雲は消え、三俣山の上には蒼空が広がっていた。
私たちは、
ススキ野原と、二株のヒゴタイの花と、その向こうに立つ三俣山を、
飽きることなく、いつまでも見ていた。

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