一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ビブリア古書堂の事件手帖』 ……黒木華と夏帆に逢いたくて……

2018年11月18日 | 映画


この映画を見たいと思った理由は、3つ。

①黒木華と夏帆が出演していること。




②監督が三島有紀子であること。


③古本にまつわる謎解きであること。




黒木華は大好きな女優で、
このブログで初めて彼女のことを書いたのは、
『草原の椅子』(2013年2月23日公開)のレビューであった。
そのとき、私は次のように記している。

遠間憲太郎(佐藤浩市)の娘を演じた黒木華も良かった。
数年前から舞台で活躍していた女優で、
映画やTV ドラマの出演は少ない。
私は、NHK朝ドラ『純と愛』で、彼女を知った。
1990年3月14日生まれというから、
明後日(2013年3月14日)で23歳。
蒼井優を彷彿とさせる容姿と表現力、それに存在感。
これからの活躍を予見させるものを持っている稀有な女優だと思う。
2013年4月13日公開予定の『舟を編む』にも出ているので、こちらも楽しみ。


その『舟を編む』(2013年4月13日公開)でも期待に違わぬ演技を見せ、
翌年公開された山田洋次監督作品『小さいおうち』(2014年1月25日公開)で、
第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞。


日本の女優では左幸子、田中絹代、寺島しのぶに次いで史上4人目であり、
23歳での受賞は日本人最年少となる快挙であった。
同作では第38回日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞も受賞。
また、その年最も活躍し将来の活躍が期待できる俳優に贈られるエランドール賞新人賞も受賞した。
その後も、
主演した『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016年3月26日公開)で素晴らしい演技を
し、
今年公開された
『散り椿』(2018年9月28日公開)
『日日是好日』(2018年10月13日公開)
でも私を楽しませてくれた。



夏帆を初めてこのブログに書いたのは、
映画『天然コケッコー』(2007年7月28日公開)のレビューであった。


サブタイトルを、
……抱きしめたくなるほど愛おしい作品……
としたのだが、
夏帆の可愛さと相俟って、
私にとって忘れられない作品になっている。


その後、TVドラマに、映画にと活躍していたが、
夏帆が素晴らしい女優として認識されたのが、
『箱入り息子の恋』(2013年6月8日公開)においてだった。


奈穂子役の夏帆。
私は彼女を目当てに見に行ったのだが、
まったく期待を裏切らない素晴らしい演技で、感動させられた。
雨に濡れながら佇むシーン、
お見合いのときのシーンなど、
忘れがたい場面が多かったが、
秀逸だったのは、ひとりで行った吉野屋で、牛丼を食べながら泣くシーン。
見ているこちらの人間も、大いに泣かされた。
牛丼を食べるシーンで泣かされたのは、私にとって、おそらく初めて経験。
あのシーンだけでも、この映画を見る価値はあると思う。
『天然コケッコー』とともに、この『箱入り息子の恋』も、
夏帆の出演作として長く私の記憶に残ることであろう。



とレビューに書いたのであるが、
その後も、
『海街diary』(2015年6月13日公開)
『友罪』(2018年5月25日公開)
などの演技に魅せられた。



三島有紀子監督の作品を初めて見たのは、
『しあわせのパン』(2012年1月28日公開)であった。
北海道の洞爺湖のほとりにある町・月浦を舞台に、
パンカフェを営む一組の夫婦とそこを訪れる様々な客たちの人間模様を、
美しい風景とともに描いた春夏秋冬の物語で、
主演は、原田知世と大泉洋。
どちらも私の大好きな俳優だったし、パンも大好きなので見に行ったのだが、
なんだか、ほんわかとした癒し系の映画で、
見終えると、とてもしあわせな気分になる作品であった。
そして、無性にパンが食べたくなったのを憶えている。
小規模の公開ながら、興行収入3.8億をあげるヒットを記録している。


2年後に公開されたのが、『ぶどうのなみだ』(2014年10月11日公開)だ。
『しあわせのパン』と同じく、
舞台は北海道で、(空知地方のワイナリー)
主演は、大泉洋で、(他に、染谷将太、安藤裕子など)
スタッフも『しあわせのパン』と同じだった。
『ぶどうのなみだ』は、三島有紀子監督オリジナルの、
北海道企画第2弾と言えるものであった。


翌年、『繕い裁つ人』(2015年1月31日公開)が公開された。
中谷美紀主演の、神戸を舞台にした映画で、
オリジナル脚本ではないものの、(池辺葵の漫画が原作で、脚本は林民夫)
ほんわかとした空気感は『しあわせのパン』や『ぶどうのなみだ』と同じで、
〈いかにも三島有紀子監督らしいな~〉
と思ったことであった。


三島有紀子監督作品で、
これまでの作風とは明らかに違うなと感じさせたのは、
昨年(2016年)公開された『少女』であった。
『告白』などで人気の作家・湊かなえによる同名小説を、
本田翼&山本美月の共演で映画化したもので、
「人が死ぬ瞬間を見たい」
という願望を持つ2人の女子高生が過ごす夏休みを、
それぞれの視点で描いたミステリーだった。
ほんわかとした癒し系の作品を創り出す監督というイメージだったので、
映画『少女』は本当に意外な気がした。
三島有紀子監督作品が変化し始めたのを感じた作品であった。


そして、前作『幼な子われらに生まれ』(2017年8月26日公開)である。
三島有紀子監督は、この作品で、さらなる変化を遂げた。
原作は、直木賞作家・重松清が1996年に発表した同名小説。
再婚同士の夫婦が、
妻が妊娠したことにより、
妻の連れ子の長女が反抗的な態度をとるようになり、
37歳のサラリーマンである夫が息苦しさを感じるようになるという、
血のつながった他人、血のつながらない家族を題材にした物語で、
ほんわかとした癒し系の映画とは真逆の作品であった。
この作品は本当に素晴らしかったし、私は、
第4回「一日の王」映画賞・日本映画(2017年公開作品)において、
三島有紀子を最優秀監督賞に選出した。



古書店は、私の好きな空間で、
映画『森崎書店の日々』(2010年10月23日公開)のレビューを書いたとき、
次のように記している。

佐世保にいた高校時代から古書店には馴染みがあり、大好きな空間だった。
東京にいた頃は、神保町はもちろん、東京中の古書店を歩き回った。
大学の近くにも小さな古書店があったので、その店には毎日のように立ち寄った。
その古書店の店主はまだ若く、私が通う大学の卒業生でもあったので、すぐに親しくなった。
店主のSさんは、大学卒業後、インドやネパールを放浪し、
帰国後は絵を描いたり版画を彫ったりして過ごしていたが、
古書店を営んでいた知人から、
「ある事情で店を閉めることになった。もしよかったら店を引き継がないか?」
と相談され、
〈古本屋さんて、なんだか楽そうだな~〉
と引き受けたのだそうだ。
そのSさんは、いつもニコニコして楽しそうであった。
大阪出身なので、大阪弁で話す言葉には独特のユーモアがあり、私はこのSさんとの会話を楽しみにその古書店に通っていたようなものだった。
親しくなるにつれ、
「ちょっとビニ本を仕入れに行ってくるさかい、店番しててくれへん?」
と頼まれるようになり、時間がある時は店番をしたりしていた。
ビニ本とは、透明なビニールで密封したエロ本のことで、当時よく売れていた。
(50歳以上の男性ならば御存知のことと思う)
「うちの店の稼ぎ頭やねん」
とは、Sさんの弁。
ある日、ビニ本を仕入れに行ったSさんが、汗をふきふき帰ってきた。
理由を聞いて、思わず笑ってしまった。
Sさんは、仕入れたビニ本を紙袋にギッシリ入れ、両手に持ち、地下鉄の階段を登っていたそうだ。
その時、ビニ本の重みで紙袋が破れ、ビニ本が階段から滑り落ち、ホームに散乱したのだそうだ。
エロい写真が表紙を飾るビニ本が散乱したのだから、ホームにいた女性からは悲鳴も聞こえたそうだ。
「違いまんねん、違いまんねん」
とSさんはビニ本を拾い集め、
「これ店の商品やねん」
と誰に言うともなく弁明していたのだそうだ。
Sさんにはこの手の面白いエピソードがたくさんあり、こうして書きながら今も私は思い出し笑いをしている。


かように古書店は私にとって馴染み深い大好きな空間なのである。

長々と前置きを書いてしまったが、

①黒木華と夏帆が出演していること。
②監督が三島有紀子であること。
③古本にまつわる謎解きであること。


の3つには、もう期待しかなかったのである。
で、公開されてすぐに映画館に駆けつけたのだった。



五浦大輔(野村周平)は、


祖母の遺品から夏目漱石の直筆と思われる署名が入った「それから」を見つけ、
鑑定してもらうため北鎌倉の古書店「ビブリア古書堂」を訪れる。


店主である若い女性・篠川栞子(黒木華)は、
極度の人見知りでありながら本に対して並外れた情熱と知識を持っており、
大輔が持ち込んだ本を手に取って見ただけで、
大輔の祖母が死ぬまで隠し通してきた秘密を解き明かしてしまう。


そんな栞子の推理力に圧倒された大輔は、
足を怪我した彼女のために店を手伝うことに。
やがて大輔は、栞子が所有する太宰治「晩年」の希少本をめぐり、
大庭葉蔵と名乗る謎の人物が彼女を付け狙っていることを知るのだった……




(2018年)11月1日に公開された作品である。
なぜ今日(11月18日)までレビューを書かなかったかというと、
書く意欲が湧かなかったからである。
一体何が駄目だったかというと、
ストーリーなのである。
序盤はまずまずであったが、
中盤からは「見るに堪えない」展開になるのである。
原作を読んでいないので、
原作が駄目なのか、
脚本が駄目なのか分らないが、(たぶん、どちらも……)
古書にまつわる謎を、
篠川栞子(黒木華)に危害が及ぶ事件に無理矢理している感があり、
アクションシーンも稚拙で、
〈本当に三島有紀子監督作品?〉
と、何度思ったことか。
とても期待していた作品だっただけに、
裏切られた感が半端なかったのだ。


一度は「書かないでおこうか……」と思ったレビューを、
こうして(かなり遅れたとはいえ)書いているのは、
作品の出来とは裏腹に、
黒木華と夏帆の印象がすこぶる良かったからなのだ。


「ビブリア古書堂」店主・篠川栞子を演じた黒木華。


古風な顔立ちの黒木華と、古書店主と役柄が、見事にハマっていた。
某インタビューで、
「人生を変えるような本との出会いがあれば教えてください」
との問いに、

『コインロッカー・ベイビーズ』(村上龍)や太宰治など、自分と同じそこはかとなく暗い登場人物の作品が好きですし、岩井俊二さんの『リリイ・シュシュのすべて』はずっと好きです。今まで読んできた本や、見てきた映画で、自分の中身ができ上がっている気がしています。

と答えていたが、
『コインロッカー・ベイビーズ』を真っ先に挙げるとは、なかなかだ。
黒木華の顔立ち、雰囲気は、「文学」がとても似合う。
映画の中に、
夏目漱石の『それから』や、太宰治の『晩年』が出てきたときにも、
まったく違和感がなかった。
(TVドラマでの剛力彩芽には大いに違和感があったが……)
長い黒髪、
眼鏡、
本を読む姿……
愛すべき文学少女(少女ではないが)の雰囲気そのままに、
大きなスクリーンでその姿を見ることができただけでも良しとしなければならないだろう。



大輔の祖母・絹子を演じた夏帆。


夏帆が演じる若かりし頃の大輔の祖母・絹子と、
東出昌大が演じる小説家志望の青年・田中嘉雄との秘密の恋を描いた過去パートは、


現代パートとは違うノスタルジックな映像で楽しめた。


こちらもストーリー的にはやや現実離れしていてリアリティがなかったが、
メルヘンとして捉えれば、これはこれで良かったと思う。


夏帆ファンとしては、
このような古風で大人な雰囲気の彼女を見ることができて、とても満足であった。



三島有紀子監督作品らしさは所々にあるものの、
物語の展開や脚本には「らしさ」がなかった。
三島有紀子監督は、本来、この程度の作品を作る人ではないのである。
本作は角川映画でもあるので、
KADOKAWAの口出しなどがあって凡作になってしまったのかもしれない。
凡作ではあるのだが、
黒木華と夏帆のファンにはある程度の満足を与えてくれる作品になっているし、
彼女たちのファンであるならば、見ておくべき作品だと言える。
映画館で、ぜひぜひ。

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