一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』……メリル・ストリープ礼賛……

2012年06月01日 | 映画
映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(2011年)は、
日本においては今年(2012年)の3月16日に公開された作品であるが、
当初、佐賀県では上映館がなく、
これまで見ることができなかった。
5月になって遅ればせながらイオンシネマ大和で公開が決まり、
先日、やっと見ることができた。

本作品で、メリル・ストリープが、
第84回アカデミー賞・主演女優賞を受賞。
メリルはこれまで過去最多の17回ノミネートされており、
『クレイマー、クレイマー』(1979年)で助演女優賞、
『ソフィーの選択』(1982年)で主演女優賞を受賞していて、
『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』での主演女優賞受賞で、
オスカー獲得は3度目となった。

ゴールドのドレスに身を包んだメリルは、受賞スピーチで、次のように語った。

オーマイガッ~!オーカモ~ン!(信じられないわ!ウソでしょ?)
ありがとうございます。
本当にありがとうございます。
名前を呼ばれた時にアメリカの半分ぐらいが
「オウ ノー!」
「なぜ? ホントに?」
「なぜ彼女なの? また?」
って声が聞こえたような気がしました。
いいのよそんなこと!(笑)
まずは夫ダンに感謝したいと思います。
最後ではなく最初でないとだめなの。
いつも(スピーチ終了を告げる)音楽が流れてしまうから。
私にとって一番大切なこと、人生にとって大切なこと、あなたが与えてくれました。
そして次に私のもう1人のパートナー、37年前の事、初めてニューヨークの劇に出た時に出逢った、偉大なるヘアスタイリスト、ロン・ヘランド。
私たちは全ての仕事に共に取り組んできました。
『ソフィーの選択』から始まり、そして今夜までずっと繋がっています。
そして30年後、素晴らしい作品『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』で遂に念願のオスカーに輝いてくれました。
37年間全ての作品で組んできたんです!
そしてロイに感謝したいと思っているのですが、本当に二度とここに立てないと思っているので、これだけはお伝えしておきたいと思います。
本当に感謝したいのは私の全ての仲間の皆さん、ここにいる友人の皆さんです。
目の前に私の人生があります。
古い友人から新しい友人まで。
受賞は本当に光栄に思いますが、私にとって一番大切なことがあります。
それは愛する友人たちと共に映画を作れることの歓びです。
皆様本当にありがとうございます。
亡くなった方は今も胸に…。
幸せな俳優人生です。ありがとう。



まず最初に夫への感謝を語っているのが、いかにもメリルらしい。
夫は、彫刻家ダン・ガマー。
1978年に結婚し、
ふたりの間には4人の子供がいる。
ダン・ガマーの作品は、日本にもいくつかあって、九州では、
北九州市の国際村交流センターに、二つの作品が設置されている。(写真はその内のひとつ)


『徹子の部屋』(3月15日、16日放送)でも語っていたが、
平成5年7月30日の除幕式には、夫のお供で極秘来日。
夫婦そろって除幕式に参加したとのこと。
結婚と離婚を繰り返すスターが多い中、
4人の子を産み、夫を大事にしているメリルは、やはり凄い!
私がメリル・ストリープを好きな理由は、こういうところにもある。

メリル・ストリープのことばかり語ってしまった。
映画のことをまだ何も話していない。(笑)

雑貨商の家に生まれたマーガレット(メリル・ストリープ)は市長も務めた父の影響で政治を志すが、初めての下院議員選挙に落選してしまう。
失望する彼女に心優しい事業家デニス・サッチャー(ジム・ブロードベント)がプロポーズする。
「食器を洗って一生を終えるつもりはない」
野心を隠さないマーガレットを、デニスは寛容に受け入れる。


双子にも恵まれ、幸せな家族を築く一方で、マーガレットは政治家としての階段も昇りはじめる。


失墜した英国を再建する。
それは気の遠くなるような闘いだったが、彼女はその困難に立ち向かう。
愛する夫や子供たちとの時間を犠牲にし、マーガレットは深い孤独を抱えたままたった一人で闘い続けた……。


現在のロンドン。
どんなに苦しい時も支え続けてくれた夫・デニスは既に他界した。
だが、マーガレットは未だに夫の死を認識していないのか、時折不可解な行動が目立つ。
思い出の洪水の中で、デニスの遺品を手に取り彼女は「あなたは幸せだった?」とつぶやくのだった……。
(ストーリーはパンフレットより引用し構成)

マーガレット・サッチャーの思想や政策は別として(このことに関しては英国国内でも賛否両論ある)、映画自体はよくできた作品である。
我々がよく知っている権力の頂点にいたサッチャー首相と、
現在86歳で認知症になって引退している我々が知らないサッチャーと、
映画は交互に描き出していく。
主旋律はむしろ認知症である今の彼女で、
回想する形でかつての首相時代の彼女が描かれる。


どこの国でもそうだと思うが、
女性が首相になるのには、相当の苦難がある。
女王がいる英国でさえ、しかり。
前例のないこと。
食料品店の娘だった彼女が、
オックスフォードに奨学金で行って、
その後、次々とバリアを突破していく。
首相になるまでの過程が実にきめ細やかに描かれていて、興味深かった。
サッチャーを演じるメリル・ストリープは、見事の一言。
顔、体型、歩き方、発声、しぐさ……
すべてをサッチャーその人になりきって、完璧に演じている。
やはり、メリル・ストリープはスゴイ!


監督は、メリル・ストリープと『マンマ・ミーア!』(2008年)でも組んだことのあるフィリダ・ロイド。
女性ならではの視点で、
妻として、母として、国のリーダーとして、
力強く歩んで行くひとりの女性の栄光と挫折の物語を、
素晴らしい演出で感動的に描いている。
ことにラストは秀逸。
バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻の第1番(プレリュード)が流れてきたときには、
ものすごく感動した。

メリル・ストリープは1949年6月22日生まれだから、もうすぐ63歳。
彼女の若い頃からずっと見続けてきて、
これまで、たくさんの感動をもらった。
今回の『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』を見て、
彼女と同時代を生きている幸運を、あらためて噛み締めている。

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