一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

最近、驚いたこと(24) …渡邊直子さん、日本人女性初8000m峰全14座登頂…

2024年10月20日 | 最近、驚いたこと


カテゴリー「最近、驚いたこと」の24回目は、
看護師で登山家の渡邊直子さん。



10日ほど前、嬉しいニュースが飛び込んできた。
ヒマラヤ8000m峰全14座登頂をめざしていた看護師の渡邊直子さん(42)が、
10月9日に最後のピーク・シシャパンマ(8027m)に登頂し、
日本人女性として初めて14座制覇に成功したというのだ。



渡邊直子さんのInstagramより。

遂に日本人女性初8000m峰14座制覇することができました。
2024年10月9日午前8:30、シシャパンマ8027m登頂しました。
マカループルバと撮影担当のミンマに、まずはありがとう♡♡
2人の力なしには、この登頂は無理でした。
昨日、7095mからベースキャンプまで降りてきて、
今日、ベースキャンプからティングリ(4332m)の街までトレッキングと車移動してきました。
朝8:30からトレッキングの予定だったのに、8時にとび起きて、
とりあえず急いで荷造りして、今に至るので、まだ頭がぼーっとしています。
ネパールの洪水の影響で、元のルートで帰れないので、
ラサから飛行機でネパールに戻ります。
ラサからの飛行機代、1300ドル自費と言われて、
シェルパたちは、別ルートで何日もかけて帰るというので、
最後までマカループルバとミンマとは一緒に戻りたいし、
ラサってすごい景色がきれいなところと聞いたことがあるので、
2人にもラサを見せたいと思ったし、
ミンマにラサのきれいな映像を撮ってほしいと思ったので、
2人の飛行機代、私が出すことにしました。
シェルパたちはなかなか世界を知る機会がないので、色んな経験をしてほしいです。
将来、ラサを一緒に見たことを一生思い出話として2人と話していけるとも思ったので。
金ないのに。どーしよ。
現在21:30。私の荷物は、まだ届きませんが、明日、ラサに行けるかどうか。
最後まで、ハラハラドキドキです。




私が渡邊直子さんを知ったのは、
「第6回 夏山フェスタin福岡2023」(2023年6月24日~25日)においてだった。


このときは、登山YouTuberのかほさんの講演会に行ったのだが、
渡邊直子さんも、かほさんの後に講演をされており、そのプロフィールを見て、
〈日本女性にも「ヒマラヤ8000m峰14座制覇」を目指している人がいるんだ~〉
と、驚いたことを憶えている。




なぜなら、その時点で、日本で「ヒマラヤ8000m峰14座制覇」をした人は、
竹内洋岳さんという男性の登山家ただ一人しかいなかったからだ。



その後、2023年09月10日(日) 放送の「情熱大陸」や、




2024年9月2日(月)の放送の「クレイジージャーニー」に出演されたので、
番組を観て渡邊直子さんのことを知った人も多かったのではないだろうか。




【渡邊直子】
1981年、福岡県大野城市生まれ。
2000年、福岡県立春日高等学校卒業。
2004年、長崎大学水産学部水産学科卒業(2003年韓国済州大学交換留学)
2009年、日本赤十字豊田看護大学看護学部看護学科卒業


【自身のHPでの(8000m峰14座制覇前の)自己紹介】
私の冒険は3歳から始まった。
両親の付き添いなく、障害児たちと登山やサバイバルキャンプに参加。
小学生になってからは、アジアの子ども達といっしょに、
中国にある無人島でのキャンプやモンゴル草原縦走などを経験した。
小学校でいじめに遭うも、
冒険仲間のコミュニティがあったことや、その大人達にも守られ、
不登校やぐれることもなく、引っ込み思案だったところからも強くなれた。
冒険では登ることの楽しさよりも長期間の仲間との生活が楽しかった。
それはさまざまなハプニングを楽しめる考え方へと変わり、
何事にもチャレンジできる人間になれた。
小学4年生の時には、初体験した雪山登山に魅了された。
中学1年生でパキスタンの4700m登山を経験したことで、高所登山の面白さを知った。
登山をしながらバドミントンにも熱中し、
長崎大学では全日本学生選手権出場を果たした。
大学生になり、登山と正反対のことをしてみようと水産学部を専攻、
韓国済州島で海女の研究をした。
大学3年生の時には、6000m峰でチームで登山に挑戦。
保健係を担当したことで、看護師の仕事に興味を持った。
それから現在に至るまで、看護師をしながら資金を貯め8000m峰を26回登り、
うち13座登頂を達成する(1座を3回登頂したので、延べ17回登頂)。
気がつくと「日本人女性初」の記録が並んでいた。
年々、精神的に不安定な子どもや、病んでいる大人が増えていると感じている。
ある時、人生に疲れていた友人をヒマラヤに連れて行った。
日本に帰る頃にはすっかり元気になっていた。
私自身もヒマラヤが精神的支えになっており、
このヒマラヤでの登山が精神的ケアの大きな役割を果たすのではないか。
同時に、私が経験したように、子どもの時の体験は、
ユニークな人間を作る大きな可能性を持っているのではないかと思いだした。
時代は変わり、子どもに体験させることが危険だと臆する親が多くなった。
預ける先に不安があるのも理由のひとつだと思う。
これまでの実体験がある私であれば信頼し、
安心して預けてもらえるような組織が作れるのではないかと考えている。
その場所で、日本だけではなく世界中の子どもたちに冒険を経験してもらいたい。
エベレストは登山だけではない楽しいことがたくさんあることを知ってもらいたい。
そのためにまず、私がアジア人女性初8000峰全14座登頂を果たし、
より多くの方に私を知ってもらう必要がある。
今までこつこつと積み重ねた経験は自分の趣味のひとつだった。
これからはこの経験を活かした社会に貢献ができるようにしていかなければならないと思っている。
アジア人女性初8000m峰全14座登頂は私にとっては、あくまでも通過点であり、
その先にもっと大きな夢がある。
どんな人にも可能性がある。私の挑戦が、誰かの挑戦につながったら嬉しい。



【Record】
日本人女性初 8000m峰14座登頂
日本人女性初 世界トップ3座(エベレスト、K2、カンチェンジュンガ)登頂
日本人初 1年間8000m峰6座登頂
日本人女性初 カンチェンジュンガ登頂
日本人女性初 アンナプルナⅠ峰登頂
アジア人女性初、日本人女性初 マカルーに2回登頂
アジア人女性初、日本人女性初 K2に3回登頂


【登山歴】
2000年、マルディヒマール(5587m)登頂。世界最年少(19歳)。
2002年、アイランドピーク(6189m)登頂。
2006年、世界6位チョオユー(8201m)登頂。
2008年、メラピーク(6476m)登頂。
2011年、世界1位エベレスト8700mにて断念。
2013年、世界1位エベレスト(8848m)登頂。
2014年、世界5位マカルー(8463m)登頂。日本人女性2人目。
2015年、世界10位アンナプルナI峰7900mにて断念。
2016年、世界10位アンナプルナI峰7500mにて断念。
2016年、世界8位マナスル(8163m)登頂。
2017年、世界3位カンチェンジュンガ8150mにて断念。
2017年、世界9位ナンガパルバット7300mにて断念。
2018年、世界3位カンチェンジュンガ8300mにて断念。
2018年、世界2位K2(8611m)登頂。日本人女性2人目。
2019年、世界10位アンナプルナI峰(8091m)登頂。日本人女性初。
2019年、世界3位カンチェンジュンガ(8586m)登頂。日本人女性初。
2019年、世界8位マナスル(8163m)登頂(2回目)。
2019年、世界7位ダウラギリ7200mで断念。
2021年、春、世界7位ダウラギリ6500mで断念。
2021年、世界4位ローツェ5935mで断念。
2021年、秋、世界7位ダウラギリ(8167m)登頂。
2022年、世界4位ローツェ (8516m)登頂。
2022年、世界9位ナンガパルバット (8126m)登頂。
2022年、世界13位ガッシャブルムⅡ峰(8035m)登頂。
2022年、世界12位ブロードピーク (8051m) 登頂。
2022年、世界11位ガッシャブルムⅠ峰(8080m) 登頂。
2022年、世界8位マナスル(8163m)登頂 ※登頂位置変更の為、メインピーク登頂。
2023年、世界5位マカルー二度目登頂。
2023年、世界2位K2二度目の登頂。
2023年、秋、世界14位シシャパンマ(8027m)断念。
2024年、世界2位K2三度目の登頂。
2024年、世界14位シシャパンマ(8027m)登頂。



渡邊直子さんが凄いのは、
スポンサーなしで、登山の資金のほとんどを「自分で稼いだお金」で賄ってきたこと。
そのことについて、渡邊直子さんは次のように語っている。

私はこれまで、8000mm峰27回も登ってきました。その資金はほとんど看護師の資金で工面してきました。総額すると「億」近くはかかっていると思います。女性でこれだけ8000m峰を登った人を私は知りません。(2023年1月28日時点)
私は、夜勤を連勤したり、夜勤の前に半日の仕事を入れたり、日本にいるときは毎日数時間しか寝ない生活で休みなし。家と職場の往復のみ。友人と食事に行く時間も買い物に行く時間もありませんでした。ヒマラヤに行って帰ってきたら0円。そんな生活を何年も続けてきました。借金もしました。
それは、自分がスポンサーを集めたり、寄付を集めたりする発想がなかったからです。スポンサーは有名人しかつかないものだと思っていたし、寄付を集めるなんて滅相もないと思っていました。
それが、ここ数年で大企業をスポンサーにつけた女子や大富豪の令嬢などが一気に数年で14座に近づいてきているのを見て、この子たちには負けたくないと思ったんです。私は20数年かけて汗水たらして働いてこの記録まで来ました。簡単に追い越されたくありません。
始めは14座なんて無理無理と思っていたけど1座1座楽しいから登っていたら7座。これは日本人女性では「初」と知り、そこから14座登頂を意識しました。8座になった2021年、なにがなんでも1年で6座登頂して14座制覇すると決めました。
しかし、どうしても看護師の資金だけでは間に合わないので、2022年、スポンサー集めや寄付集めをしました。それでも足りないので、2023年、『マクアケ』サイトで資金を集めることにしました。
日本人女性初8000m峰14座制覇するため、応援お願いします!!!

(2023年1月28日のInstagramより)

こうして渡邊直子さんは日本人女性として初めてヒマラヤ8000m峰14座登頂を達成したのだ。
渡邊直子さん、おめでとうございます。


【補足1】
2010年4月27日、韓国の女性登山家・呉銀善さんが、アンナプルナの登頂に成功し、
世界で21人目、女性としては世界初の8000メートル峰全14座制覇を発表したが、
2009年に登頂したとされるカンチェンジュンガに実際には登頂していないのではないかという疑惑が持ち上がった。
厳弘吉をはじめとした韓国国内のカンチェンジュンガ登頂者6人が出席した精査会議の結果、大韓山岳連盟が呉のカンチェンジュンガ登頂を否定したため、
8000メートル峰全14座制覇の記録は国際的公認を得ることが難しくなった。 


【補足2】
2022年7月、8000メートル峰の情報を集めた山岳情報サイト「8000ers.com」(英語)は、
それまで14サミッターと思われていた登山家の大半が頂上の位置を間違っており、
実際に14座の「本当の頂上」を踏んだのは男性4人しかいないという研究結果を発表し、
世界の登山界に大きな衝撃を与えた。
これまで女性の達成者は欧州勢の3人とする説が有力で、
渡邊さんは「アジア人初」を目指していた。
だが、この研究結果によれば、3人とも頂上を間違えた山が含まれており、
女性14サミッターは現状いないことになる。
8000メートル峰の登頂は、管轄する国の政府が認定するが、
誤認や誤差も多く、一括してデータを管理している公的機関はない。
「8000ers.com」は政府発表のデータなどを元に登山家やシェルパなどへの聞き込み、
写真や動画を精査してドイツ人男性らが管理しているデータベース。
運営しているのは個人だが、情報の網羅性と正確性はかなり高く、
世界の登山メディアが参考にしているサイト。
今後、多くの人の検証が必要になるだろうが、
もしかすると、渡邊さんは、女性世界初の「完全」達成者とみなされる可能性もある。




実は、渡邊直子さんのヒマラヤ8000m峰14座制覇の直前に(10月4日に)、
写真家で登山家の石川直樹さんが、渡邊直子さんと同じシシャパンマに登頂して、
8000m峰14座制覇に成功しており、
石川直樹さんが日本人としては2人目、
渡邊直子さんは日本人としては3人目(日本人女性としては初)の達成者になった。

石川直樹さんについても、すこし紹介しておこう。


【石川直樹】
1977年6月30日生まれ。写真家、登山家。
東京都渋谷区出身。
祖父は芥川賞作家の石川淳。
2002年、早稲田大学第二文学部卒業
2005年、東京芸術大学大学院美術研究科修士課程修了
2008年、東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了(博士号取得:美術)
人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、
辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。
2001年、23歳で七大陸最高峰を(当時の)最年少記録で制覇した。
2024年、日本人として2番目となる8000メートル峰全14座登頂を達成した。

➀エベレスト(標高 8848m)登頂日:2001年5月23日・2011年5月20日
➁マナスル(標高 8163m)登頂日:2012年9月30日・2022年9月28日
③ローツェ(標高 8516m)登頂日:2013年5月17日
④マカルー(標高 8463m)登頂日:2014年5月25日
⑤ガッシャーブルムII峰(標高 8035m)登頂日:2019年7月25日
⑥ダウラギリ(標高 8167m)登頂日:2022年4月9日
⑦カンチェンジュンガ(標高 8586m)登頂日:2022年5月7日
⑧K2(標高 8611m)登頂日:2022年7月22日
⑨ブロードピーク(標高 8051m)登頂日:2022年7月29日
⑩アンナプルナ(標高 8091m)登頂日:2023年4月15日
⑪ナンガパルバット(標高 8126m)登頂日:2023年7月2日
⑫ガッシャーブルムI峰(標高 8068m)登頂日:2023年7月26日
⑬チョオユー(標高 8201m)登頂日:2023年10月2日
⑭シシャパンマ(標高 8027m)登頂日:2024年10月4日

石川直樹さんのことは、23年前(2001年)に、
『この地球を受け継ぐ者へ―人力地球縦断プロジェクト「P2P」の全記録』 (講談社)
という本を読んで知った。


2000年、カナダの冒険家マーティン・ウィリアムスが企画したプロジェクト「Pole to Pole2000」で、日本の代表に選出されて参加し、世界7カ国の若者と共に、
4月5日から12月31日まで9ヶ月間かけて、北極点から南極点を、
スキー、自転車、カヤック、徒歩などの人力で踏破したときの記録なのだが、
これがすこぶる面白く、以来、石川直樹さんの本や写真集は読んだり見たりしてきた。
特に、『最後の冒険家』という本は、何度読んでも鳥肌が立つ、凄い本だ。


こんな知的でタフな冒険家(自分では否定)、登山家を、私は他に知らない。


最後の14座目(シシャパンマ)への登頂をめぐるルポルタージュ『最後の山』が、
2025年に新潮社より刊行されるそうなので、楽しみに待ちたい。


今年(2024年)は、渡邊直子さん、石川直樹さんという日本人2人が、
ヒマラヤ8000m峰14座制覇という大記録を樹立した記念すべき年として、
私の中で強く記憶されることだろう。

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