一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『おとうと』 ……この世で一番大切なもの……

2010年02月18日 | 映画
私事だが、
①一ヶ月後に二女の結婚式を控えている。
親である私の方も、私や配偶者の兄弟姉妹、親戚などに連絡をとったりしなければならず、何かと忙しい。
②週末ごとに長女が孫の顔を見せにやってくる。
もうすぐ2歳になるこの孫は悪ガキで、台風来襲を思わせるほどに我が家を荒らしていくのだが……可愛い。
③毎週木曜日に、認知症の両親に会いに佐世保に行く。
両親はまだわずかに私のことを憶えているが、いずれ私のことも忘れ去ってしまうだろう。
……やがてくる家族との別れ、そして新しい家族との出会い。
いろいろなことがあり、家族の絆を強く感じる今日この頃。
この世で一番大切なものは、やはり「家族」なんだろうと思う。
違う、と答える人もいるかもしれないが、少なくとも私の場合はそうだ。
どんなことをやらかしても、
どんな境遇になっても、
何があっても、
最後まで味方でいてくれるのは「家族」だと思うからだ。
だからだろう、今の私は、「家族」を描くドラマには心を激しく揺さぶられる。

『家族』、『幸福の黄色いハンカチ』、『息子』、『学校』、
そして『男はつらいよ』シリーズで、
日本の家族の姿をずっと描いてきた山田洋次監督が、
「家族」をテーマに、新たに作品を生み出した。
現在公開中の映画『おとうと』である。

東京の郊外で、夫亡きあとの小さな薬局を営む高野吟子(吉永小百合)は、女手ひとつで一人娘の小春(蒼井優)を育てながら、義母の絹代(加藤治子)と三人暮らし。

小春とエリート医師の結婚を控え、吟子の唯一の気がかりは、昔から問題ばかり起こし、大阪で音信不通になっていた弟・鉄郎(笑福亭鶴瓶)の存在だった。
結婚式の当日、その鉄郎が突然現れ、酔っぱらって大騒ぎし、披露宴を台無しにしてしまう。
激怒する身内の中、鉄郎をかばうのは吟子だけだったが、ある出来事がきっかけで、吟子は絶縁を言い渡してしまうのだった。
小春の結婚生活は長くは続かず、高野家で再び三人の暮らしが始まった。

幼なじみの亨(加瀬亮)が何かと顔を出すようになり、小春の表情にも明るさが戻ってきた。

だが、ある日、消息不明だった鉄郎が救急車で病院に運ばれたという連絡が入る――。
           (ストーリーはパンフレットから引用し構成)

たぶん、吉永小百合主演というだけでは見に行かなかっただろう。
おとうと役を笑福亭鶴瓶が、
一人娘役を蒼井優が演じていたから、私は映画館へ足を向けたのだ。

笑福亭鶴瓶。
俳優としてけっして巧いとは思わないが、その存在感は抜群。
のっぺらぼうの俳優が多い中、その風貌と表情、それに大阪弁で、強烈な印象を残す。
『ディア・ドクター』に続き、この作品でも、彼あってこその作品と言えた。


蒼井優。
ただ綺麗な女優は多い。
ただ可愛い女優も多い。
だが、美しく、それでいて、その姿の向こうに、風景が見えてくる女優は多くはない。
物語が見える女優は稀だ。
その数少ない、風景や物語が見えてくる女優の一人が蒼井優だ。
彼女を見るだけでもこの映画を見る価値は十分にある。
それほどの美しさと演技力だ。


加瀬亮。
小春の幼なじみで大工の長田亨役。
大袈裟な演技をしない若手実力派。
この作品での彼の演技もなかなか。


蒼井優との実力派同士のツーショットは素晴らしく画になるし、見ていて楽しい。


鉄郎が酔っぱらって大騒ぎし、披露宴を台無しにしてしまうシーン、


吟子が鉄郎にお金を渡すシーン、

佐藤蛾次郎がちょっと顔を出すなど、『男はつらいよ』を思い出させるシーンも盛り込まれていて、いろんな楽しみ方ができる。

血の繋がりは、その絆は、喧嘩しても、憎しみ合っても、断ち切れるのもではない。
そんな感動的な家族の愛を画きつつ、
家族でもないのに無条件で愛する人たちがいること……その存在にも光りを当てているところがこの映画の素晴らしいところ。

石田ゆり子。
民間のホスピスで働く小宮山千秋役。
出番は少ないがとても重要な役で出ている。
この役にはモデルがいるそうで、その人にも会って役作りをしたとか。
こんな女性に看取られて死ねたら本望……と思わせるほどの品の良さと優しさをうまく表現していた。

彼女こそが、この映画の、本当の主役なのかもしれない。

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