感動する用意は、映画を見る前からすでに出来ていたような気がする。
佐賀県出身の緒方明監督作品。
私の好きな田中裕子、岸部一徳、香川照之などが出演。
長崎が舞台。
繰り返される平凡な普通の毎日を描いた作品。
中年男女の秘められた想い。
これだけ私の好きな条件が揃えば、心を動かさずにはいられないだろう。
事実、鑑賞後には、「これぞ映画だ!」と思った。
映画ファンのための大人の映画だった。
坂道の多い小さな町(長崎でロケはしたが、作品上は架空の町)。
まだ薄暗い夜明け、牛乳配達をしている女。
大場美奈子――50歳、独身。
朝は牛乳を配り、昼はスーパーで働いている。
50年間、ずっとこの町にいる。
毎夜、ひとりのベッドで、読書(それがドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』だったりする)をしたり、ラジオを聴いたりしている。
同じ事の繰り返し。
静かな生活。
だが、彼女には、三十余年秘めてきた想いがあった……
同じ町の市役所に勤務する高梨槐多は、毎朝近づいて来る牛乳瓶の音に、じっと耳を傾けている。
遠ざかる彼女の足音。
槐多はざわめく心を押し殺して、再び目を閉じる。
ある事件をきっかけに美奈子とは言葉を交わさなくなった。
だが、誰よりも大切な人――。
美奈子と槐多。二人は、触れ合うことはおろか、目を合わせることもできずに、幼い恋を胸に秘めたまま、30年以上の時間を別々に生きて来たのだった。
闘病の末、病死する高梨槐多の妻・容子の遺言。
「私が死んだら、どうか夫と一緒になって欲しい……」
溢れ出す美奈子の熱い想い。
槐多は突き動かされるように美奈子を抱き締める。
美奈子は言った――
「いままでしたかったこと、全部して……」
ずっとずっと、あなたに触れたかった。
震える指。
ぎこちない二人の動作が、切なくも美しい。
田中裕子と岸部一徳のラブシーンは、日本映画史に残る名場面だ。
このシーンを見るだけでも、『いつか読書する日』を見る価値は十分にある。
高梨槐多の妻・容子――自分の死後、別の女性へ夫を託す複雑な役を演じているのは、女優として復帰後は、本格的な映画出演は本作が初となる、仁科亜季子。
美奈子とは対照的な、はかなく柔らかい透明感のある素晴らしい演技をしている。
彼女がこれほどうまい女優とは思わなかった。
その他、コミカルな上田耕一の演技も光っていた。
あるインタビューで、緒方監督は次のように語っている。
《いつか、いつかと人は生きる。年をとれば変わるかと思ったら、ぼくは今も「いつかこんな映画が撮りたい」なんて言っている。でも、いつか、があれば人は生きられる。それがぼくと青木研次(原作・脚本)の問題提起、かな》
いつか読書する日――奇妙で魅惑的な題名も、ここに繋がっている。
読書を愛する人にも、ぜひ見てもらいたい作品だ。
佐賀県出身の緒方明監督作品。
私の好きな田中裕子、岸部一徳、香川照之などが出演。
長崎が舞台。
繰り返される平凡な普通の毎日を描いた作品。
中年男女の秘められた想い。
これだけ私の好きな条件が揃えば、心を動かさずにはいられないだろう。
事実、鑑賞後には、「これぞ映画だ!」と思った。
映画ファンのための大人の映画だった。
坂道の多い小さな町(長崎でロケはしたが、作品上は架空の町)。
まだ薄暗い夜明け、牛乳配達をしている女。
大場美奈子――50歳、独身。
朝は牛乳を配り、昼はスーパーで働いている。
50年間、ずっとこの町にいる。
毎夜、ひとりのベッドで、読書(それがドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』だったりする)をしたり、ラジオを聴いたりしている。
同じ事の繰り返し。
静かな生活。
だが、彼女には、三十余年秘めてきた想いがあった……
同じ町の市役所に勤務する高梨槐多は、毎朝近づいて来る牛乳瓶の音に、じっと耳を傾けている。
遠ざかる彼女の足音。
槐多はざわめく心を押し殺して、再び目を閉じる。
ある事件をきっかけに美奈子とは言葉を交わさなくなった。
だが、誰よりも大切な人――。
美奈子と槐多。二人は、触れ合うことはおろか、目を合わせることもできずに、幼い恋を胸に秘めたまま、30年以上の時間を別々に生きて来たのだった。
闘病の末、病死する高梨槐多の妻・容子の遺言。
「私が死んだら、どうか夫と一緒になって欲しい……」
溢れ出す美奈子の熱い想い。
槐多は突き動かされるように美奈子を抱き締める。
美奈子は言った――
「いままでしたかったこと、全部して……」
ずっとずっと、あなたに触れたかった。
震える指。
ぎこちない二人の動作が、切なくも美しい。
田中裕子と岸部一徳のラブシーンは、日本映画史に残る名場面だ。
このシーンを見るだけでも、『いつか読書する日』を見る価値は十分にある。
高梨槐多の妻・容子――自分の死後、別の女性へ夫を託す複雑な役を演じているのは、女優として復帰後は、本格的な映画出演は本作が初となる、仁科亜季子。
美奈子とは対照的な、はかなく柔らかい透明感のある素晴らしい演技をしている。
彼女がこれほどうまい女優とは思わなかった。
その他、コミカルな上田耕一の演技も光っていた。
あるインタビューで、緒方監督は次のように語っている。
《いつか、いつかと人は生きる。年をとれば変わるかと思ったら、ぼくは今も「いつかこんな映画が撮りたい」なんて言っている。でも、いつか、があれば人は生きられる。それがぼくと青木研次(原作・脚本)の問題提起、かな》
いつか読書する日――奇妙で魅惑的な題名も、ここに繋がっている。
読書を愛する人にも、ぜひ見てもらいたい作品だ。