『散歩する侵略者』で素晴らしい演技を魅せた長澤まさみと、
今、最も旬な男優・高橋一生が共演する映画『嘘を愛する女』。
第1回「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM」でグランプリに輝いた企画を映画化したラブストーリーで、
昏睡状態に陥った恋人の名前や職業などが全て嘘だと知った女性が、
彼の正体を探ろうとするさまを描いているという。
監督は、
私の好きなCM「ゆうちょ銀行」などを手がけた中江和仁で、
この『嘘を愛する女』が長編映画デビュー作になる。
映画館で何度か本作の予告編を見ているうちに、なんとなく、
〈見てみたいな……〉
と思うようになった。
で、公開日(1月20日)から数日後に、
時間を作って映画館へ向かったのだった。
食品メーカーに勤め、業界の第一線を走るキャリアウーマン・川原由加利(長澤まさみ)は、
研究医で面倒見の良い恋人・小出桔平(高橋一生)と同棲5年目を迎えていた。
ある日、由加利が自宅で桔平の遅い帰りを待っていると、突然警察官が訪ねてくる。
「一体、彼は誰ですか?」
くも膜下出血で倒れ意識を失ったところを発見された桔平。
なんと、彼の所持していた運転免許証、医師免許証は、すべて偽造されたもので、
職業はおろか名前すらも「嘘」という事実が判明したのだった。
騙され続けていたことへのショックと、
「彼が何者なのか」という疑問をぬぐえない由加利は、意を決して、
私立探偵・海原匠(吉田鋼太郎)と、
助手のキム(DAIGO)を頼ることに。
調査中、桔平のことを“先生”と呼ぶ謎の女子大生・心葉(川栄李奈)が現れ、
桔平と過ごした時間、そして自分の生活にさえ疑心暗鬼になる由加利。
やがて、桔平が書き溜めていた原稿用紙700枚にも及ぶ未完成の小説が見つかり、
そこには、誰かの故郷を思わせるいくつかのヒントと、
幸せな家族の姿が書かれていた。
海原の力を借りて、それが瀬戸内海のどこかであることを知った由加利は、
桔平の秘密を追うことに……
なぜ桔平はすべてを偽り、由加利を騙さなければならなかったのか?
海原と二人、瀬戸内海の灯台を訪ね歩くうちに、
いまだ病院で眠り続ける「名もなき男」の正体が、
徐々に浮かび上がってくるのだった……
医師やパイロットを名乗る男で、
経歴がすべて嘘であった場合は、大抵“詐欺師”であるし、(笑)
パイロットや医師、弁護士に扮した天才詐欺師を描いた『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2003年)や、
堺雅人が米軍パイロットであると詐称する結婚詐欺師を演じた『クヒオ大佐』(2009年)や、
ディーン・フジオカ主演の『結婚』(2017年)など、
そんな映画はこれまでたくさん見てきた。
『嘘を愛する女』における小出桔平(高橋一生)も研究医という設定で、
その医師免許証も偽造されたものであったことから、
てっきり、これまで見てきたような“詐欺師”の映画かなと思った。
ところが……(これ以上は書かない)
桔平役の高橋一生は、
早い段階で“くも膜下出血”で倒れ、
意識のない状態で病院に入院したままになるので、
「高橋一生の出演シーンはこれだけ?」
と思ってしまうが、
高橋一生ファンはご安心を……
由加利(長澤まさみ)の回想シーンで度々登場する仕組みになっているのだ。
だから、冒頭、具合が悪くなった由加利を桔平が助けるシーンがあった後に、
何の説明もなく同棲しているシーンに移るのだが、
なぜそうなったか……など、
由加利が桔平の過去を探っていく段階で、徐々に思い出すようなっており、
高橋一生ファンの期待を裏切らないような工夫がなされている。
高橋一生に代わって、途中から出演シーンが多くなるのは、
私立探偵の海原匠(吉田鋼太郎)だ。
吉田鋼太郎は単なる脇役かなと思っていたら、
途中からは、由加利(長澤まさみ)との二人旅となり、
“バディムービー”の様相を呈してくるのだ。
この私立探偵・海原役の吉田鋼太郎が、すこぶる好い。
海原の私生活まで描かれているので、(そのエピソードがスパイスになっている)
どういう人間か……というのが解るし、
吉田鋼太郎の巧い演技によって、人物がしっかり造形されている。
早くも「一日の王」映画賞(助演男優賞)の候補に……
というレベルの吉田鋼太郎の名演であった。
川原由加利を演じた長澤まさみは、
『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)
『タッチ』(2005年)
『ラフ ROUGH』(2006年)
に出演していた頃は、アイドル女優のような感じで、演技もイマイチだったし、
〈10年後にはいなくなっているかも……〉
と思っていたのだが、ところがどっこい、(古ぅ~)
それこそ10年後の『海街diary』(2015年)の頃からグッと良くなり、
ミュージカル『キャバレー』(2017年)で素晴らしいダンスや歌を披露し、
黒沢清監督作品『散歩する侵略者』(2017年)でも演技の進化が見られた。
本作『嘘を愛する女』でも、見る者を惹きつける演技をしており、
30代になって、益々大人の雰囲気が出てきた。
これからが本当に楽しみな女優である。
『嘘を愛する女』を見る前に、
Yahoo!映画のユーザーレビューや、
私といつも正反対の評価をする(笑)某映画評論家の評を読んでみたのだが、
いずれもそう高い評価ではなかったので、
〈これは案外好い映画かも……〉(爆)
と思って見たら、やはりなかなかの佳作だった。
本作は中江和仁監督と新鋭脚本家・近藤希実の共同オリジナル脚本となっているが、
エンドロールを見ていたら、
脚本協力という形で奥寺佐渡子が参加していることが判った。
奥寺佐渡子は私の好きな脚本家で、これまで、
『しゃべれどもしゃべれども』(2007年)
『パーマネント野ばら』(2010年)
『八日目の蝉』(2011年)
などの(傑作と言われる作品の)の脚本を手掛けており、信頼できる脚本家なのである。
彼女が参加しているので、
物語の構成がしっかりしているし、
瀬戸内海でのシーンに、『八日目の蝉』を想起させる場面があった。
エンドロールで奥寺佐渡子の名を発見できたことで、
納得させられることの多い映画であった。
そういう意味で、
エンドロールはただ漠然と見ているだけでなく、
ひとつひとつを確かめながら見ていると、新しい発見がある。
もちろん、映画の余韻に浸りながら、目をつぶって、
流れる音楽に身を任せているのも悪くはないが……
本作のエンドロールに流れるのは、
松たか子の「つなぐもの」。
作詞を、
松たか子のデビュー曲「明日春が来たら」を手がけ、
TVドラマ『カルテット』(2017年1月~3月、TBS)の脚本も担当していた坂元裕二、
作曲を松たか子が担当している。
この曲が、これまた素晴らしい。
さほどに、見どころ聴きどころの多い作品なのである。
映画館で、ぜひぜひ。