一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『わたくしどもは。』……小松菜奈が美しい、佐渡島を舞台にした幻想奇譚……

2024年06月17日 | 映画


本作『わたくしどもは。』を見たいと思った理由は、ただひとつ。
私の好きな女優・小松菜奈の主演作(松田龍平とのW主演)であるから。


新潟・佐渡島を舞台に、
記憶を失った男女の謎めいた過去と運命を描いたドラマとのことで、
2024年5月31日に公開された作品であるのだが、
佐賀では例の如く遅れて、シアターシエマでの公開日が7月26日だったので、
6月7日に(廣津留すみれさんのコンサートで)福岡に行ったついでに、
福岡の上映館であるKBCシネマで鑑賞したのだった。



佐渡島の金山跡地。


名前も、過去も覚えていない女(小松菜奈)の目が覚める。


鉱山で清掃の仕事をするキイ(大竹しのぶ)は、
施設内で倒れている彼女を発見し、家へ連れて帰る。


女は、キイと暮らす少女たちにミドリと名付けられる。
キイは館⻑(田中泯)の許可を貰い、


ミドリも清掃の職を得る。
ミドリは猫の気配に導かれ、構内で暮らす男、アオ(松田龍平)と出会う。


彼もまた、過去の記憶がないという。
言葉を重ねるうちに、
ふたりは何かに導かれるように、寺の山門で待ち合わせては時を過ごすようになる。


そんなある日、アオとの親密さを漂わせるムラサキ(石橋静河)と遭遇し、


ミドリは心乱される……




「生まれ変わったら、今度こそ、一緒になろうね……」
という(やや陳腐な)言葉から始まる、
記憶も名前もない男女の魂の物語。


主演の小松菜奈、松田龍平の他、
大竹しのぶ、石橋静河、田中泯、内田也哉子など、
私が高く評価する俳優陣も出演していたので、楽しみに観賞したのだが、
想像していたものと違っていたこともあって、思ったほど心に刺さらず、戸惑った。
監督・脚本を手がけた富名哲也が、


江戸時代に佐渡金山で過酷な労働を強いられて命を落とした無国籍者の人々を埋葬した「無宿人の墓」に着想を得て撮りあげた映画……とのことだったが、
これほどまでにアート系の作品とは思っていなかった。
まさに「戸惑った」という表現がピッタリな映画であった。
悪くはないが、私の心にはフィットしなかった……と言える。


今から6年前の2018年6月7日のこのブログで、
映画『恋は雨上がりのように』(2回目の鑑賞)……1回目の鑑賞よりも深い感動……
というタイトルでレビューを書いたとき、
小松菜奈の出演作を分類して、次のように記したことがある。

小松菜奈のこれまでの出演作(全部ではない)を、
むりやり三つのジャンルに分類すると、

【過激青春三部作】
『渇き。』(2014年6月27日公開)
『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年5月21日公開)
『溺れるナイフ』(2016年11月5日公開)

【キラキラ青春三部作】
『近キョリ恋愛』(2014年10月11日公開)
『バクマン。』(2015年10月3日公開)
『黒崎くんの言いなりになんてならない』(2016年2月27日公開)

【純愛青春三部作】
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年12月17日公開)
『坂道のアポロン』(2018年3月10日公開)
『恋は雨上がりのように』(2018年5月25日公開)

となるような気がする。


かつての小松菜奈は、青春映画を中心に活躍していたが、
この6年の間に、
『来る』(2018年12月7日)
『サムライマラソン』(2019年2月22日)
『さよならくちびる』(2019年5月31日)
『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(2019年11月1日)
『糸』(2020年8月21日)
『さくら』(2020年11月13日)
『余命10年』(2022年3月4日)
など、様々なジャンルの作品に出演し、
小松菜奈自身も、結婚、出産も経験し、
女優としても、一人の女性としても成長を遂げている。
そして、ここ数年の傾向として、
『ムーンライト・シャドウ』(2021年9月10日)
『恋する寄生虫』(2021年11月12日)
など、ちょっとマイナーなアート系の映画にも出演するようになった。
そういう意味で、(むりやり分析すると)
本作『わたくしどもは。』は、上記2作と共に、
【アート系三部作】と呼べる作品ではないかと思った。
小松菜奈は、今時珍しい映画女優とも言うべき存在で、
TVドラマにはほとんど出演せず、(最近では2017年のNHKのドラマ「スリル!〜赤の章・黒の章〜」が最後だったような……)
メジャーな映画にも(もちろん)出演するが、
インディーな映画にも多く出演する(一風変わった)女優なのである。
そういう変わった面も小松菜奈を好きな要因のひとつなので、
こういうアート系の作品もぜんぜん嫌いではないのだが、
本作『わたくしどもは。』は私の心にはあまり響いてこなかった。
思いつきで撮ったようなシーンが多く、
まとまりがなく、間延びしたような感じで、メリハリがなかった。
ストーリーもよく解らず、理解不能の点も多かった。
「そこを目指してはいない」
と言われれば、それまでなのだが、
もうちょっと観客のことを思った演出があっても良かったような気がする。
「映画.com」のユーザーレビューで、5点満点の2.8点。(6月16日現在)
「寝落ちした」という感想が多かったのも、それを裏付けているように思う。


そのような感想を抱いた時点で、
〈レビューを書くのはやめよう〉と思ったのだが、
鑑賞して時間が経過するにつれて、私の心にも変化が生じた。
〈いや、小松菜奈の主演作であるし、やはりレビューは書いておこう……〉
と。
私のレビューは、感想だけではなく、画像も多く掲載している。
映画の画像も、10年、20年、30年と経つうちに、ネットから消えていくことが多いので、
〈画像も記録として残しておきたい……〉
という思いから、画像を多く掲載しているのだが、
そういう意味でも、本作の、そして小松菜奈の画像を多く残しておきたいと思った。
なので、この記事では、私の記事(感想)はあまり重要ではない。(コラコラ)


画像でいえば、(髪の)センター分けの小松菜奈は、
本作で初めて見ることができたのではないか……と思った。


これまでの映画では、ほとんど額を髪で隠している。(例外は『ムーンライト・シャドウ』)
センター分けの小松菜奈は新鮮で、貴重映像と言えるし、なにより美しかった。
『ムーンライト・シャドウ』のレビューを書いたとき、
……ただただ小松菜奈の“美”を堪能する……
とサブタイトルを用いたが、
『わたくしどもは。』も同じく、
極私的に「ただただ小松菜奈の“美”を堪能する」映画だったような気がする。



映画としては、イマイチ心に届かなかった作品ではあるが、
小松菜奈もちろんのこと、
他の出演者の演技は素晴らしく、表現者としての才能を遺憾なく発揮しており、
記憶を失った女(小松菜奈)を助ける金山跡地の掃除婦キイ役の大竹しのぶ、


ジェンダーに悩む高校生の透役の(歌舞伎界ホープの)片岡千之助、


謎のバスガイド・ムラサキ役の石橋静河、


あの世とこの世の狭間の番人をする館長役の(舞踊家・俳優の)田中泯、


透の母親役の内田也哉子、


爛れた男役の(ダンサー・演出家の)森山開次、


能楽師役の(重要無形文化財保持シテ方宝生流能楽師の)辰巳満次郎、


そして、劇中音楽を手掛けたRADWIMPSの野田洋次郎の音楽も、
観客を神秘の世界へと導く役割を果たしていたように思う。


一度見ただけなので、私の理解が追いついていないだけだったかもしれない。
小松菜奈の美はもちろんのこと、佐渡の風景も美しかったし、すごく魅力的だった。
機会があればもう一度見たいと思っている。

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