一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『Diner ダイナー』 ……藤原竜也と玉城ティナの覚悟が傑作を生んだ……

2019年07月23日 | 映画

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蜷川実花監督作品『ヘルタースケルター』(2012年7月14日年公開)を見たのは、もう7年前になる。
沢尻エリカが主演ということで見た作品であった。
映画『パッチギ!』(2005年)で初めて沢尻エリカを見てファンになった私であったが、
2007年9月29日、
彼女が主演する映画『クローズド・ノート』の舞台挨拶で、不機嫌そうな振舞いを行い、
世間・マスコミなどによりバッシングを浴びせられ、それ以来、
映画、TVドラマ、TVCMなどでは彼女を見ることができなくなり、
たまにスキャンダルな話題でワイドショーなどで採り上げられるだけになってしまっていた。
『ヘルタースケルター』が久しぶりの主演作だったのだ。


見る前は少し恐かった。
〈とんでもない駄作だったらどうしよう〉
という心配。
【YAHOO!映画】での評価も低かったので、
かなり覚悟して見に行った。
で、どうだったかというと……
これが、とんでもない傑作だったのだ。
安心するとともに、
〈やはり一般の評価はアテにならないな~〉
と思ったことであった。

(中略)
蜷川実花監督の極彩色の映像美、
それにクラシックを主体とした音楽、
ミュージックビデオのような編集で、
最初から最後までガンガン突っ走る。
〈こんな調子で最後まで大丈夫か?〉
と心配したが、
後半にやや冗長な部分があったものの、
ラストまでの2時間7分を、
実に鮮やかに疾走してみせた。
蜷川実花監督、畏るべし。


とレビューに書いたのだが、(全文はコチラから)
沢尻エリカと寺島しのぶの熱演と、
蜷川実花監督の優れた演出力が発揮された素晴らしい作品であった。
その『ヘルタースケルター』から7年、
蜷川実花監督の次作がようやく公開された。
それが本作『Diner ダイナー』なのである。


元殺し屋の天才シェフ、ボンベロ(藤原竜也)が店主をつとめる、


殺し屋専用の食堂「ダイナー」。


孤独な女性オオバカナコ(玉城ティナ)は、
日給30万円の怪しいアルバイトに手を出したばかりに、
闇の組織に身売りされてしまい、


ボンベロに買われ、ウェイトレスとして働くことになる。


ボンベロが「王」として君臨するダイナーには、
全身傷だらけの孤高の殺し屋スキン(窪田正孝)や、


子どものような姿をしたサイコキラーのキッド(本郷奏多)、


不気味なスペイン語を操る筋肉自慢の荒くれ者のブロ(武田真治)ら、


ひと癖もふた癖もある殺し屋たちが次々とやって来る。
オーダーは極上の料理か、それとも殺し合いか……
店主、ウェイトレス、殺し屋たちによる新たな殺し合いが、
今、始まろうとしていた……




原作は、『「超」怖い話』シリーズなどが映画化されたホラー作家で、監督としても活動している平山夢明の第13回大藪春彦賞受賞作。


主演は、藤原竜也。


原作がハチャメチャな話なので、役作りが難しかったと思われるが、
演劇的な話し方と、振り切った演技で、
作品をグイグイと引っ張っていた。


正直なところ、本当にこのボンベロという役がわからなくて。これは、やっちまったな……とも思ったんですが。だからこそ、真面目に本と向き合って集中力を継続していかないと、太刀打ちできない現場だなと思いました。スタッフも一流の人たちが揃っているのに、主演の僕がボンベロがわからない。そうしたら、実花さんが初日に「私もわからないところがあるから、いろいろ試してみない? 5回でも10回でも撮ってみて、最後に編集で繋ぐこともあり?」と提案されたので、何通りも撮らせてもらったんです。それが、救われましたし、楽しかった。そういうやり方をしたのが、今回は正解だったのではないかなと思います。

と某インタビューで語っていたが、
「ボンベロという役がわからなくて……」
とは、意外な言葉ではあるが、
本作を見終わって感じるのは、
藤原竜也以外では務められなかったボンベロ役だった……ということだ。



オオバカナコ役の玉城ティナ。


蜷川実花監督の前2作『さくらん』『ヘルタースケルター』共に、
女性が主役の物語であったが、
本作『Diner ダイナー』は天才シェフ・ボンベロが主役。
演じているのも藤原竜也なので、
玉城ティナは脇役的な位置関係なのかなと思っていたら、
なんとなんと、
オオバカナコ(玉城ティナ)が主役なのではないかと思われるほどの活躍で、
ビックリ。
しっかり、オオバカナコという若い女性の成長物語になっており、
〈さすが蜷川実花監督!〉
と思ったことであった。


蜷川さんの作品でヒロインを演じるということは、『さくらん』の土屋アンナさんや『ヘルタースケルター』の沢尻エリカさんと並ぶことにもなるので、これはもうすごいことだなとプレッシャーもありました。ただあまり考えすぎていても仕方ないなと思ったので、撮影に入ってからはとにかくカナコを演じ切ることだけを考えていました。

と、玉城ティナも語っていたが、
蜷川実花監督の期待に応え、玉城ティナも熱演し、


殺し屋ばかりという登場人物の中で、
可憐な美しい花としての存在していた。


弱々しい花で終わるかと思いきや、
次第に強く逞しくなっていき、
最後にはボンベロを鼓舞する存在となる。
その成長過程が素晴らしく、
蜷川実花監督の手腕も冴え、
本作の大きな見どころのひとつとなっている。


蜷川実花監督は、
「ティナとなら心中してもいい」
と語っていたというが、


そのことに対し、玉城ティナも、

その「心中できる」という言葉は、私にとってこれまでにないほどインパクトが強くて、撮影を終えた今でも思い返します。蜷川さんの覚悟がひしひしと伝わってきたから、私もその意思に沿うように演じ切りたいと強く思いました。

と、蜷川実花監督の覚悟が感じられたからこそ、自らも覚悟をもって撮影に挑んだことを明かしている。





本作に登場する殺し屋たちも、それぞれ特色があって面白く、


スキンを演じた窪田正孝、


キッドを演じた本郷奏多、


ブロを演じた武田真治、


マテバを演じた小栗旬、


マリアを演じた土屋アンナ、


無礼図を演じた真矢ミキ、


コフィを演じた奥田瑛二など、


振り切った演技で楽しませてくれた。

出てくる役者もスタッフもいい意味でバカばっかで(笑)。メチャクチャで突き抜けてる現場でした。

とは、藤原竜也の弁。
楽しく、熱気あふれる現場だったようだ。


ボンベロに忠実な唯一の相棒・菊千代も活躍するぞ。


巨大な体と凶悪な顔に似合わず、苺が大好物というのがカワイイ。


蜷川実花監督の父は、
言わずと知れた蜷川幸雄(演出家・映画監督、1935年~2016年)であるが、
藤原竜也とも師弟関係にあり、
この作品にも、殺し屋たちの大ボス・故デルモニコ役として登場する。


蜷川幸雄はすでに亡くなっているので、井手らっきょが演じているのだが、
これがエンドロールを見て初めて、
〈ああ、井手らっきょだったのか……〉
と驚嘆するほどよく似ていた。(笑)


主題歌は、DAOKO×MIYAVIコラボ曲“千客万来”。


『ヘルタースケルター』と同様、『Diner ダイナー』も傑作であった。
蜷川実花監督作品としては、今後、
『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019年9月13日公開)や、


Netflixオリジナルシリーズ『Followers』(2020年より配信予定)などが控えている。


これからの作品を楽しむためにも、
本作『Diner ダイナー』は見ておくべき作品と思われる。
映画館で、ぜひぜひ。

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