6月が終わった。
今年(2015年)も半分が終わった。
私ほどの年齢になると、月日は駆け足で過ぎてゆく。(笑)
以前、このブログで、
今年前半の邦画ベスト3として、
『駆込み女と駆出し男』(5月16日公開)
『あん』(5月30日公開)
『海街diary』(6月13日公開)
を挙げた。
この3作の中で、
『駆込み女と駆出し男』と『海街diary』のレビューはすでに書いているが、
『あん』はまだ書いていなかった。
何とはなしに後回しにしているうちに、
書く機会を逸してしまっていた。
で、今日、書いておこうかなと思い、
こうして書き出しているのである。
暗い過去をもつ千太郎(永瀬正敏)は、
縁あって、どら焼き屋「どら春」の雇われ店長となり、
単調な日々をこなしていた。
ある日、「どら春」の求人募集の貼り紙をみて、
そこで働くことを懇願する一人の老女、徳江(樹木希林)が現れる。
彼女をいい加減にあしらい帰らせた千太郎だったが、
手渡された手作りのあんを舐めた彼は、その味に驚く。
業務用の缶詰のあんを使っていた千太郎は、
徳江を採用し、あん作りを徳江に任せることにする。
すると、徳江が作る粒あんが評判となり、店は大繁盛となる。
そんな中、徳江は、つぶれたどら焼きをもらいに来ていた女子中学生のワカナ(内田伽羅)と親しくなる。
ところがある日、
かつて徳江がハンセン病を患っていたことが近所に知れ渡り……
映画『あん』は、
樹木希林のための映画であった。
今年前半の邦画ベスト3として挙げた
『駆込み女と駆出し男』『あん』『海街diary』
の3作すべてに、樹木希林は出演している。
中でも『あん』は主演である。
しかも、素晴らしい演技をしている。
「樹木希林のための映画であった」と言う所以である。
私の若き頃、
主役を張れる美しい女優がたくさんいた。
あれから幾星霜。
その中で、現在でも主役を張っているのは、
吉永小百合や八千草薫など、ごくわずかの女優だけになってしまった。
美しかった女優は、
その多くはそうでなくなり、(コラコラ)
主役以外はやりたくないのか、映画にも出なくなった。
その代わりといってはなんだが、
かつて個性的な脇役をしていた女優が、
年老いて、実に好い味を出すようになり、
主役として素晴らしい演技をしている。
その筆頭が樹木希林ではあるまいか……
樹木希林は、かつて、
悠木千帆(1977年より樹木希林)という芸名であった頃から、老け役が多かった。
1974年にTBSで放送されたドラマ『寺内貫太郎一家』で、
小林亜星が演じた主役の貫太郎の実母を演じたときも、
実年齢は小林より10歳以上若く、当時まだ30代前半であった。
その頃は偽物の老婆であったが、
最近は、実年齢と、役の年齢が合致し、
「老いる人」を演じさせたら右に出る人がいないほど存在感のある女優になった。
昔から老け役が多かったという意味では、
女・笠智衆と呼んでもあながち間違いではないような気がする。
ここ数年の出演作を見てみると、
『半落ち』(2004年)島村康子 役
『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(2007年)オカン 役
『歩いても 歩いても』(2008年)横山とし子 役
『悪人』(2010年)清水房江 役
『わが母の記』(2012年)伊上八重 役
『そして父になる』(2013年)石関里子 役
『駆込み女と駆出し男』(2015年)三代目柏屋源兵衛 役
『あん』(2015年)主演・徳江 役
『海街diary』(2015年)菊池史代 役
など、とても充実しているし、
質の良い映画を制作しようと思ったら、欠かせない女優になっている。
で、映画『あん』であるが、
原作は、20年来の構想を経て2013年2月に刊行されたドリアン助川の同名小説『あん』。
ハンセン病を描いた作品ということで、一度は出版社から断られたものの、
心ある編集者によって世に出ることになったとか。
原作者からの「映画化するならぜひ河瀬直美監督に」という要望を受け、
監督は河瀬直美に、
主人公の徳江役も、原作者が樹木希林を思って書いたということで、
これまた樹木希林に決定。
だが、出資者がなかなか見つからなかったそうだ。
原作と同じく、ハンセン病を扱った作品ということがネックになったようだ。
私もいくつかお話を持っていったのですが、断るようなある意味の何かがあるんですね。事実そういうことがある中で、今回出資してくれた各社は純粋に作品として素晴らしいということで協力して頂けたので、その意味で言うとハンセン病を前面に押し出す作品にするのではなく、ハンセン病じゃない人たちにも起きてしまう差別意識や、生きる意味を失うような出来事の中で、勇気を持って私たちの命を私たち自身が愛でてあげるというか。そんな作品になればいいなと思いました。
と河瀬直美監督は某インタビューで語っている。
そして、映画を作る上で特に意識したこととして、次のようなことを挙げている。
ハンセン病患者であることを徳江さん自身の口から言わせないということですね。周りの人間はそれを感じ、ある種差別し、ある種後悔している。永瀬正敏さん演じる千太郎は徳江さんを守れなかったと後悔するんですけど、徳江さん自身は変わらず生きることを全うした人という風に描きました。
ハンセン病への無理解や差別を声高く叫ぶ映画ではなく、
日常生活に潜む差別意識や、生きる意味をさりげなく問いかける作品になっているのは、
そんな河瀬直美監督の思いがあったからだろうと思われる。
映画を見て、このレビューを書くまでに、少し時間が経ち過ぎていることもあって、
映画『あん』の印象が、私の中で、
なんだか樹木希林と永瀬正敏の二人芝居のようなものに変化していて、
また二人の演技を見てみたいという思いが強くなっている。
樹木希林の演技は、
演技というより、徳江という女性になりきっている感があって、
よりリアルで、なんだかドキュメンタリーを見ているようであった。
それは河瀬直美監督の
「カメラが回っていないところでも役に成り切ってもらう」
という演出法も関係しているかもしれない。
「河瀬組では、いつカメラが回って、撮られているのかわからない」
と言われているそうで、
常に役になりきっていないといけないからだ。
演じるというより、なりきることが必要なのだ。
河瀬組ではいつカメラが回って、撮られているのかわからないんですよ(笑)。その中で樹木さんはずっと徳江さんでいてくれるので、徳江さんを見ているだけでうれしくなったりかわいいなと思ったり、いろんな感情が芽生えてくる。そこでうそをつくとバレちゃうので、その感情が自然なものになるまで待っていただける現場というのは、役者としてもすごく貴重でしたね。
こう語るのは、永瀬正敏である。
永瀬正敏もまた、樹木希林を相手に、さすがの演技をしている。
いや、先ほどの言葉を借りるならば、千太郎になりきっていたと言えるだろう。
永瀬正敏の映画出演作では、
第15回日本アカデミー賞で新人俳優賞や最優秀助演男優賞を受賞した『息子』(1991年)、
第7回高崎映画祭で最優秀主演男優賞を受賞した『死んでもいい』(1992年)、
第20回日本アカデミー賞で優秀助演男優賞を受賞した『学校Ⅱ』(1996年)、
第28回日本アカデミー賞で優秀主演男優賞を受賞した『隠し剣 鬼の爪』(2004年)、
第29回ヨコハマ映画祭で助演男優賞を受賞した『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007年)
などが印象に残っているが、
ここ数年で感心したのは、
第66回日本放送映画藝術大賞(映画部門)で優秀助演男優賞を受賞した、
『スマグラー おまえの未来を運べ』(2011年)(←クリック)であった。
ブログ「一日の王」のレビューで、
万人受けする映画ではないので、年末の賞レースに絡んでくるかは判らないけど、
私の中では、今年後半NO.1の作品かも……
と私は書いているが、
心配した通り、あまり賞レースにはからまなかったものの、
私は今でも2011年におけるベスト3に入る傑作だと思っている。
永瀬正敏。
目の据わりがハンパじゃなかった。
やさぐれ感プンプン。
主人公を食った演技のようでありながら、寸止めでそれは抑えられている。
主人公を引き立てつつ、己の演技はいかんなく発揮している。
神業の演技。
スゴイの一言。
先程の『スマグラー おまえの未来を運べ』のレビューで、
私はこのように書いているが、
永瀬正敏は常に進化していて、
見る者を落胆させるようなことはまったくない。
「神業の演技。スゴイの一言」は、
今回の作品にも当てはまっていたように感じた。
樹木希林や永瀬正敏についてばかり書いているが、
「どら春」の常連客で、
母親と二人暮らしの中学3年生・ワカナを演じた内田伽羅も素晴らしかった。
祖母・樹木希林の薦めにより本作のオーディションを受けたそうだが、
俳優としてのDNAがそうさせるのか、ナチュラルな演技に好感がもてた。
是枝裕和監督作品『奇跡』(2011年)(←クリック)のレビューで、私は、
この作品には、
樹木希林の孫で、
本木雅弘・内田也哉子夫妻の長女である、
内田伽羅(うちだ・きゃら)も出ている。
樹木希林みずから孫にオーディションを受けることを勧めたそうで、
子役たちの中にあって、もうすでに動かしがたい存在感があった。
11歳だそうだが、とても11歳には見えないほど大人びていて、
他の共演者の子供と比較すると、その違いはあきらか。
小学5、6年生の頃は、女子の方が身長も高かったりして、
男子よりも大人びているものだが、
内田伽羅の場合は、中学生といってもおかしくないほどであった。
本当に将来が楽しみな女優の誕生である。
と書いているが、
あれから映画では彼女を見ることがなかったので残念に思っていたのだが、
再び、祖母・樹木希林の薦めでオーディションを受けての出演で、
「佳い作品に出てよかったな~」
と思ったことであった。
この他、
徳江の親友を演じた市原悦子、
「どら春」のオーナーを演じた浅田美代子、
ワカナの母を演じた水野美紀などが、
確かな演技で作品をしっかり支えていた。
この映画を見終わって、
樹木希林や永瀬正敏の素晴らしい演技と共に思い出されるのは、
映画の中の様々な「音」であった。
音にもすごくこだわっています。あずきの音や朝遠くで聞こえる電車の音、細かいところまで音のデザインをすることで、かつて私たちが経験したようなリアリティの中に連れていってくれる。実はそれをやっているのはフランス人なんですよ。言語が分からないからこそ繊細に音を作ることが出来るのだと思います。
と河瀬直美監督が語るように、
今回の映画はフランスとドイツの出資もあって、
編集仕上げのスタッフはほとんどがフランス人で、
最終音編集はドイツのスタジオで行ったそうだ。
フランスのサウンドデザイナーによって生み出された「音」が、
よりリアルに映像を彩る……
ことに、あずきの煮える音には感心させられた。
匂いや味までもが感じられるような気がしたからだ。
あの映像と「音」で、
食欲をかきたてられた人も多いのではないかと思う。(笑)
この映画では、
河瀬直美監督作品では珍しく、
エンディングに秦基博の「水彩の月」が流れる。
この曲がすこぶるイイ。
評判になっている映画なので、
もうご覧になった方も多いと思うが、
まだ見ていない方がおられたら、ぜひぜひ。
女優・樹木希林の代表作になるであろう傑作です。
今年(2015年)も半分が終わった。
私ほどの年齢になると、月日は駆け足で過ぎてゆく。(笑)
以前、このブログで、
今年前半の邦画ベスト3として、
『駆込み女と駆出し男』(5月16日公開)
『あん』(5月30日公開)
『海街diary』(6月13日公開)
を挙げた。
この3作の中で、
『駆込み女と駆出し男』と『海街diary』のレビューはすでに書いているが、
『あん』はまだ書いていなかった。
何とはなしに後回しにしているうちに、
書く機会を逸してしまっていた。
で、今日、書いておこうかなと思い、
こうして書き出しているのである。
暗い過去をもつ千太郎(永瀬正敏)は、
縁あって、どら焼き屋「どら春」の雇われ店長となり、
単調な日々をこなしていた。
ある日、「どら春」の求人募集の貼り紙をみて、
そこで働くことを懇願する一人の老女、徳江(樹木希林)が現れる。
彼女をいい加減にあしらい帰らせた千太郎だったが、
手渡された手作りのあんを舐めた彼は、その味に驚く。
業務用の缶詰のあんを使っていた千太郎は、
徳江を採用し、あん作りを徳江に任せることにする。
すると、徳江が作る粒あんが評判となり、店は大繁盛となる。
そんな中、徳江は、つぶれたどら焼きをもらいに来ていた女子中学生のワカナ(内田伽羅)と親しくなる。
ところがある日、
かつて徳江がハンセン病を患っていたことが近所に知れ渡り……
映画『あん』は、
樹木希林のための映画であった。
今年前半の邦画ベスト3として挙げた
『駆込み女と駆出し男』『あん』『海街diary』
の3作すべてに、樹木希林は出演している。
中でも『あん』は主演である。
しかも、素晴らしい演技をしている。
「樹木希林のための映画であった」と言う所以である。
私の若き頃、
主役を張れる美しい女優がたくさんいた。
あれから幾星霜。
その中で、現在でも主役を張っているのは、
吉永小百合や八千草薫など、ごくわずかの女優だけになってしまった。
美しかった女優は、
その多くはそうでなくなり、(コラコラ)
主役以外はやりたくないのか、映画にも出なくなった。
その代わりといってはなんだが、
かつて個性的な脇役をしていた女優が、
年老いて、実に好い味を出すようになり、
主役として素晴らしい演技をしている。
その筆頭が樹木希林ではあるまいか……
樹木希林は、かつて、
悠木千帆(1977年より樹木希林)という芸名であった頃から、老け役が多かった。
1974年にTBSで放送されたドラマ『寺内貫太郎一家』で、
小林亜星が演じた主役の貫太郎の実母を演じたときも、
実年齢は小林より10歳以上若く、当時まだ30代前半であった。
その頃は偽物の老婆であったが、
最近は、実年齢と、役の年齢が合致し、
「老いる人」を演じさせたら右に出る人がいないほど存在感のある女優になった。
昔から老け役が多かったという意味では、
女・笠智衆と呼んでもあながち間違いではないような気がする。
ここ数年の出演作を見てみると、
『半落ち』(2004年)島村康子 役
『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(2007年)オカン 役
『歩いても 歩いても』(2008年)横山とし子 役
『悪人』(2010年)清水房江 役
『わが母の記』(2012年)伊上八重 役
『そして父になる』(2013年)石関里子 役
『駆込み女と駆出し男』(2015年)三代目柏屋源兵衛 役
『あん』(2015年)主演・徳江 役
『海街diary』(2015年)菊池史代 役
など、とても充実しているし、
質の良い映画を制作しようと思ったら、欠かせない女優になっている。
で、映画『あん』であるが、
原作は、20年来の構想を経て2013年2月に刊行されたドリアン助川の同名小説『あん』。
ハンセン病を描いた作品ということで、一度は出版社から断られたものの、
心ある編集者によって世に出ることになったとか。
原作者からの「映画化するならぜひ河瀬直美監督に」という要望を受け、
監督は河瀬直美に、
主人公の徳江役も、原作者が樹木希林を思って書いたということで、
これまた樹木希林に決定。
だが、出資者がなかなか見つからなかったそうだ。
原作と同じく、ハンセン病を扱った作品ということがネックになったようだ。
私もいくつかお話を持っていったのですが、断るようなある意味の何かがあるんですね。事実そういうことがある中で、今回出資してくれた各社は純粋に作品として素晴らしいということで協力して頂けたので、その意味で言うとハンセン病を前面に押し出す作品にするのではなく、ハンセン病じゃない人たちにも起きてしまう差別意識や、生きる意味を失うような出来事の中で、勇気を持って私たちの命を私たち自身が愛でてあげるというか。そんな作品になればいいなと思いました。
と河瀬直美監督は某インタビューで語っている。
そして、映画を作る上で特に意識したこととして、次のようなことを挙げている。
ハンセン病患者であることを徳江さん自身の口から言わせないということですね。周りの人間はそれを感じ、ある種差別し、ある種後悔している。永瀬正敏さん演じる千太郎は徳江さんを守れなかったと後悔するんですけど、徳江さん自身は変わらず生きることを全うした人という風に描きました。
ハンセン病への無理解や差別を声高く叫ぶ映画ではなく、
日常生活に潜む差別意識や、生きる意味をさりげなく問いかける作品になっているのは、
そんな河瀬直美監督の思いがあったからだろうと思われる。
映画を見て、このレビューを書くまでに、少し時間が経ち過ぎていることもあって、
映画『あん』の印象が、私の中で、
なんだか樹木希林と永瀬正敏の二人芝居のようなものに変化していて、
また二人の演技を見てみたいという思いが強くなっている。
樹木希林の演技は、
演技というより、徳江という女性になりきっている感があって、
よりリアルで、なんだかドキュメンタリーを見ているようであった。
それは河瀬直美監督の
「カメラが回っていないところでも役に成り切ってもらう」
という演出法も関係しているかもしれない。
「河瀬組では、いつカメラが回って、撮られているのかわからない」
と言われているそうで、
常に役になりきっていないといけないからだ。
演じるというより、なりきることが必要なのだ。
河瀬組ではいつカメラが回って、撮られているのかわからないんですよ(笑)。その中で樹木さんはずっと徳江さんでいてくれるので、徳江さんを見ているだけでうれしくなったりかわいいなと思ったり、いろんな感情が芽生えてくる。そこでうそをつくとバレちゃうので、その感情が自然なものになるまで待っていただける現場というのは、役者としてもすごく貴重でしたね。
こう語るのは、永瀬正敏である。
永瀬正敏もまた、樹木希林を相手に、さすがの演技をしている。
いや、先ほどの言葉を借りるならば、千太郎になりきっていたと言えるだろう。
永瀬正敏の映画出演作では、
第15回日本アカデミー賞で新人俳優賞や最優秀助演男優賞を受賞した『息子』(1991年)、
第7回高崎映画祭で最優秀主演男優賞を受賞した『死んでもいい』(1992年)、
第20回日本アカデミー賞で優秀助演男優賞を受賞した『学校Ⅱ』(1996年)、
第28回日本アカデミー賞で優秀主演男優賞を受賞した『隠し剣 鬼の爪』(2004年)、
第29回ヨコハマ映画祭で助演男優賞を受賞した『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007年)
などが印象に残っているが、
ここ数年で感心したのは、
第66回日本放送映画藝術大賞(映画部門)で優秀助演男優賞を受賞した、
『スマグラー おまえの未来を運べ』(2011年)(←クリック)であった。
ブログ「一日の王」のレビューで、
万人受けする映画ではないので、年末の賞レースに絡んでくるかは判らないけど、
私の中では、今年後半NO.1の作品かも……
と私は書いているが、
心配した通り、あまり賞レースにはからまなかったものの、
私は今でも2011年におけるベスト3に入る傑作だと思っている。
永瀬正敏。
目の据わりがハンパじゃなかった。
やさぐれ感プンプン。
主人公を食った演技のようでありながら、寸止めでそれは抑えられている。
主人公を引き立てつつ、己の演技はいかんなく発揮している。
神業の演技。
スゴイの一言。
先程の『スマグラー おまえの未来を運べ』のレビューで、
私はこのように書いているが、
永瀬正敏は常に進化していて、
見る者を落胆させるようなことはまったくない。
「神業の演技。スゴイの一言」は、
今回の作品にも当てはまっていたように感じた。
樹木希林や永瀬正敏についてばかり書いているが、
「どら春」の常連客で、
母親と二人暮らしの中学3年生・ワカナを演じた内田伽羅も素晴らしかった。
祖母・樹木希林の薦めにより本作のオーディションを受けたそうだが、
俳優としてのDNAがそうさせるのか、ナチュラルな演技に好感がもてた。
是枝裕和監督作品『奇跡』(2011年)(←クリック)のレビューで、私は、
この作品には、
樹木希林の孫で、
本木雅弘・内田也哉子夫妻の長女である、
内田伽羅(うちだ・きゃら)も出ている。
樹木希林みずから孫にオーディションを受けることを勧めたそうで、
子役たちの中にあって、もうすでに動かしがたい存在感があった。
11歳だそうだが、とても11歳には見えないほど大人びていて、
他の共演者の子供と比較すると、その違いはあきらか。
小学5、6年生の頃は、女子の方が身長も高かったりして、
男子よりも大人びているものだが、
内田伽羅の場合は、中学生といってもおかしくないほどであった。
本当に将来が楽しみな女優の誕生である。
と書いているが、
あれから映画では彼女を見ることがなかったので残念に思っていたのだが、
再び、祖母・樹木希林の薦めでオーディションを受けての出演で、
「佳い作品に出てよかったな~」
と思ったことであった。
この他、
徳江の親友を演じた市原悦子、
「どら春」のオーナーを演じた浅田美代子、
ワカナの母を演じた水野美紀などが、
確かな演技で作品をしっかり支えていた。
この映画を見終わって、
樹木希林や永瀬正敏の素晴らしい演技と共に思い出されるのは、
映画の中の様々な「音」であった。
音にもすごくこだわっています。あずきの音や朝遠くで聞こえる電車の音、細かいところまで音のデザインをすることで、かつて私たちが経験したようなリアリティの中に連れていってくれる。実はそれをやっているのはフランス人なんですよ。言語が分からないからこそ繊細に音を作ることが出来るのだと思います。
と河瀬直美監督が語るように、
今回の映画はフランスとドイツの出資もあって、
編集仕上げのスタッフはほとんどがフランス人で、
最終音編集はドイツのスタジオで行ったそうだ。
フランスのサウンドデザイナーによって生み出された「音」が、
よりリアルに映像を彩る……
ことに、あずきの煮える音には感心させられた。
匂いや味までもが感じられるような気がしたからだ。
あの映像と「音」で、
食欲をかきたてられた人も多いのではないかと思う。(笑)
この映画では、
河瀬直美監督作品では珍しく、
エンディングに秦基博の「水彩の月」が流れる。
この曲がすこぶるイイ。
評判になっている映画なので、
もうご覧になった方も多いと思うが、
まだ見ていない方がおられたら、ぜひぜひ。
女優・樹木希林の代表作になるであろう傑作です。