今年も、
けっこう多くの映画を見ているのだが、
見た映画のすべてをこのブログで紹介しているわけではない。
本当は、見たすべての映画を紹介したいのだが、
レビューを書く時間がない。
〈いつか……〉
〈そのうち……〉
と思っているうちに、
書く機会を逸してしまっている。
映画の上映期間が終わり、
とうとう書かずじまいになった作品のなんと多いことか。
そんな私だが、時に、
どうしても皆さんに紹介したいと思う映画に出くわすことがある。
寝る時間を削ってでもレビューを書いておきたいと思う作品がある。
先日見た映画『鍵泥棒のメソッド』が、まさに、それ。
監督は、『運命じゃない人』『アフタースクール』の内田けんじ。
劇場用長編デビュー作『運命じゃない人』(監督・脚本)で、
2005年カンヌ映画祭・批評家週間にて、
●フランスの作家協会が最も優れた脚本に贈る「フランス作家協会賞」。
●高校生が選考する「最優秀ヤング批評家賞」。
●ドイツ批評家によって選考される「最優秀ドイツ批評家賞」。
●シネフィルのフランス鉄道員たちが選ぶ「鉄道賞(金のレール賞)」。
の4賞を受賞。
また、国内でも、ブルーリボン賞、毎日映画コンクール、キネマ旬報ベストテン、報知映画賞などで、最優秀監督賞、新人監督賞、脚本賞など8賞を受賞している。
この作品は、DVDでしか見ることができなかったが、
次作の『アフタースクール』は、映画館で見ることができた。
そのとき、私は、ブログ「一日の王」に、
【とにかく映画館へ】と題し、こう書いている(2008年05月29日)。
今日、スゴイ映画を見てしまった!
内田けんじ監督の『アフタースクール』である。
この内田けんじ監督、ある映画評論家に、
「日本映画界において彼を上回る才能は、ここ10年は出てきていない」
とまで言わしめている日本映画界最強の新星なのだ。
前作『運命じゃない人』と同様、
内田けんじ監督ならではの細部まで練りこまれた脚本、
そして抜群の構成力は、
今作にもしっかりと受け継がれている。
(中略)
とにかく映画館に行って、見て欲しい。
途中までは、何だか違和感のある場面が続く。
居心地悪い感じがつきまとう。
それが、三分の二を過ぎたあたりから、快感になってくる。
そして最後にカタルシスを味わうことに……
後味も良く、見終わった後に、もう一度最初から見たくなること請け合い!
こういう映画は、日本で、日本人の監督の下で、助監督をしながら地道に学んできた監督からは絶対に生まれてこない作品のような気がする。
サンフランシスコ州立大学芸術学部映画科に入学し、映画制作技術から脚本技術まで学んできた監督だからこそ作ることができた映画ではないか。
以上の感想、『鍵泥棒のメソッド』にも、そのまま当て嵌まる。
凝りに凝った前2作に比べ、
今回の『鍵泥棒のメソッド』は解りやすい内容だが、
細部まで練りこまれた脚本、抜群の構成力は、一層磨きがかかっている。
銭湯ですべって頭を強打し、記憶を失った金持ちそうな男(香川照之)。
その場に居合わせた貧乏役者の桜井(堺雅人)は、
ちょっとした出来心からロッカーの鍵をすり替え、彼になりすます……
が、その男は、誰も顔を見たことがないという伝説の殺し屋・コンドウだった。
コンドウに成りすました桜井のもとに、大金が絡む危険な仕事の依頼が舞い込み、
やむなく引き受けてしまった桜井は、大ピンチに……
一方、記憶を失い、自分を桜井だと思い込んでいるコンドウは、
一流の役者となることを目指して真面目に努力する。
そんなひたむきな姿に胸を打たれた婚活中の女性編集長・香苗(広末涼子)は、
なんと彼に逆プロポーズする。
失われた記憶、大金の在りか、結婚の行方……
三者三様の事情が複雑に絡み合い、ときめくラストへとなだれ込んでいく。
面白い。
とにかく面白い。
4年ぶりの新作は、文句なしの傑作だった。
脚本がイイから、骨格がしっかりしているし、
安心して最後まで見ることができる。
ハラハラドキドキさせられて、
ラストでキュンとさせられる。
私は少し涙ぐんだ。(笑)
堺雅人。
前作『アフタースクール』に続いての出演。
「芝居が下手な役者の役」という難しい役柄で、
芝居が下手な役者を、そう見えるように巧みに演じなければならないという(笑)、
矛盾する内容の演技を、実に巧く演じていた。
七変化も面白いぞ。
香川照之。
記憶を失っている時の男(桜井)のおどおどした様子と、
記憶を取り戻した時の男(コンドウ)の怖さの対比が、ハンパなかった。
さすが、香川照之。
広末涼子。
広末涼子の出演している作品はかなり見ているが、
今回の『鍵泥棒のメソッド』での彼女がいちばん良かったように思う。
〈真面目に努力すれば結婚できる〉との信念で、
超真面目に婚活中の女性編集長という役であったが、
ほとんど笑顔なく演じているのに、とても可笑しく、実に魅力的だった。
内田マジック?
荒川良々。
佐賀県出身の個性派俳優。
便利屋でヤクザの工藤純一役だったが、
いつもとぼけたような役が多い荒川良々だが、ヤクザの親分のような役をやると、
これが、なかなかイイのだ。
ふだん優しそうなイメージの俳優が怖い人物を演じると、
怖いイメージの俳優より、一層怖い感じがする。
内田監督のキャスティングが光る。
森口瑤子。
『八日目の蝉』での熱演が印象に残っているが、
今作でも素晴らしい演技をしている。
現在、NHK「よる☆ドラ」の『眠れる森の熟女』(NHK総合 火曜22:55~)にも出演していて、私も欠かさず見ているのだが(草刈民代さんも出てるし)、このドラマでも彼女は輝いている。
こういう映画を見ると、
映画を見続けてきて良かったな~と思う。
映画を見る歓びをじんわり感じる。
皆さんも、映画館で、ぜひぜひ。
エンドロールの時にも仕掛けがあるので、
館内が明るくなるまで席を立たないようにね。
じゃ