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私にとって、山戸結希監督との出会いは、
『溺れるナイフ』(2016年11月5日公開)においてだった。
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原作は、累計発行部150万部以上を誇るジョージ朝倉原作の同名人気コミック。
小松菜奈と菅田将暉のW主演。
「10代の少年少女たちの挫折と再生を、激しく、儚く、美しく描いたラブストーリー」
そんな映画と聞けば、誰しも軟弱な青春映画を想像しがち。
だが、まったく違っていた。
案外、骨太の、神話的な作品だったのだ。
舞台は浮雲町という架空の町だが、
撮影は、和歌山県新宮市を中心に、南紀・串本などで行われており、
私のような古い人間には、
なんだか中上健次の作品世界を描いた映画のようにさえ思えた。
中上健次の小説で、映画化されている『火まつり』や『軽蔑』などよりも、
より中上健次の作品に近いように感じた。
結論から言うと、映画『溺れるナイフ』は傑作であった。
それも、ビックリするような傑作であったのだ。
山戸結希監督、畏るべし。(全文はコチラから)
山戸結希の映像世界は衝撃であったし、
第3回「一日の王」映画賞・日本映画(2016年公開作品)ベストテンでは、
山戸結希監督を最優秀監督賞に選んだ。(コチラを参照)
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かように私がその実力を評価した山戸結希監督であったが、
次作がなかなか公開されなかった。
そして、ようやく公開されたのが、
山戸結希監督が企画・プロデュースを手がけ、
自身を含む1980年代後半~90年代生まれの新進女性映画監督15人がメガホンをとった短編オムニバス映画『21世紀の女の子』(2019年2月8日公開)であった。
15編通して見ると、
やはり山戸結希監督作品が圧倒的であった。
他の14編とは、明らかに力の差があった。
私としては、やはり山戸結希監督作品を2時間じっくりと見たい気がした。
その願いが、もうすぐ叶う。
次作『ホットギミック ガールミーツボーイ』が、
1週間後(2019年6月28日)に公開されるからだ。
とレビューを書いたが、(全文はコチラから)
先日、やっと、その『ホットギミック ガールミーツボーイ』を見ることができたのだった。
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都内のマンションに住む女子高生・成田初(堀未央奈)は、
優しい兄・凌(間宮祥太朗)、元気な妹・茜(桜田ひより)と両親と、ごく普通の家庭で暮らしていた。
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ある日、茜に頼まれて内緒で購入した妊娠検査薬を、
同じマンションに住む橘亮輝(清水尋也)に知られてしまう。
バラされたくなければ“奴隷”になれ、という条件を突き付けられ、
その日を境に初は亮輝の無茶な命令に振り回されるようになる。
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そんな時、小学校の時に突然転校してしまった幼馴染・小田切梓(板垣瑞生)がマンションに帰ってくる。
今や人気雑誌モデルとして第一線で活躍する梓が、
昔と変わらず自分を守ろうとしてくれるその姿に初は自然と心惹かれ、
二人は遂に付き合うことに。
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幸福感に溶けてゆく初だったが、ある夜、彼の本当の目的を知ってしまう。
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動揺し、深く傷ついている初を心配し、常に寄り添い愛情を注いでくれたのは兄の凌だ。
昔から兄としての優しさも絶やさず、しかし凌も知られざる秘密を抱えていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/6c/7234bdc33ba0fbc9c4d1fd93222bc9fd.jpg)
3人の男性との恋に揺れ動きながら、少しずつ自分の中に芽生える本当の気持ち。
初は悩みながらも、ひとつの答えに辿り着く。
喜び、痛み、迷いの先にある、
物語の最後に彼女が見出した、その想いとは……
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原作は、相原実貴の同名コミック。
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現在の少女漫画表現の先駆けとなる胸キュン描写で人気を博し、
累計販売部数450万部を超える伝説的少女コミックとのことだが、
私は読んでいなかった。
だから、映画の前半は、少し戸惑った。
主人公の初が、あまりにも“おバカ”だからだ。
簡単に男の言いなりになり、奴隷のように従う。
好きな男には、ヒョコヒョコ付いて行き、薬を入れた酒を飲まされ、意識を失う。
その飲み屋でバイトしていた兄に助けられるが、
こんな“おバカ”が主人公で、本当に物語が成り立つのか……と、イライラさせられた。
山戸結希監督の映像世界に酔いながらも、
あまりにもストーリーが軽く、嫌気がさしてしまったのだ。
だが、上映開始から45分くらいが経過した頃からだろうか、
それまでたたみかけるように発せられていた言葉や、
美しく流れるような映像の上に、
「エリーゼのために」などのクラシック音楽をアレンジした曲が流れ出すと、
急に、これまであまり見たことのない青春映画の様相を呈し、
山戸結希監督独自の映像世界となる。
この変化が見事。
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映画の後半は、
それまで、成田初を扱いやすい単なる“おバカ”としか見ていなかった男たちが、
初の純朴さ、純真さに触れているうちに、変化してくるのだ。
いや、変化させられてくるのだ。
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〈最近、同じような体験をしたな~〉
と考えつつ見ていたら、
〈ああ、そうか、この映画は、女子高生版『町田くんの世界』なんだ!〉
ということに気が付いた。
石井裕也監督作品『町田くんの世界』(2019年6月7日公開)は、
……細田佳央太と関水渚が素晴らしい石井裕也監督作品……
というサブタイトルを付けて6月29日にレビューを既に書いているが、(コチラを参照)
善人を絵に描いたような純粋な心を持つ(ある意味“おバカ”な)町田くんが、
その“人を愛する力”によって、
周囲の人たちに変化をもたらす物語であった。
本作『ホットギミック ガールミーツボーイ』もまた、
純粋な心を持つ(ある意味“おバカ”な)成田初が、
その“人を愛する力”によって、
周囲の人たちに変化をもたらす物語であったのだ。
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悪意に満ちた世界から、純真な心を見つけ出すような、
汚泥の中から、一粒のダイヤモンドを探し出すような、
そんな物語を、
天才・石井裕也監督と、天才・山戸結希監督が、
同時期に手掛けていたという不思議。いや奇跡。
成田初を演じた堀未央奈。
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言わずと知れた「乃木坂46」のメンバーであるが、
山戸結希監督が、乃木坂46の「ハルジオンが咲く頃」のMVを手掛けたときに、
堀未央奈に対し好印象を抱いていたとか。
「ハルジオンが咲く頃」のMVでご一緒した時に、堀さんは人としてすごく真摯な方だなということをほとばしるように感じて、その存在が自分の胸の中に強く残っていたんです。今回、東映さんと『ホットギミック』を作るとなった時に、記憶の矢が刺さっていた堀さんのことがすぐに頭に浮かび、「これは堀さんなんじゃないか」と直感的に感じて、私のほうから堀さんを主演に提案させていただきました。
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山戸結希監督にこう言わしめた堀未央奈であったが、
石井裕也監督も『町田くんの世界』で主役の町田くんをオーディションで選ぶ際、
けっして野蛮な作品にはしたくない、という思いが僕の中にはありました。なぜなら、この映画で僕は若い人のみずみずしさであったり、青春期の身体的な躍動を撮りたかったからです。そうなると、自ずと新人を起用するという発想に着地するんですね。しかも、町田くんというキャラクターは特殊で、彼には恋というものが何であるかわからない。その上、神様みたいだし、見返りを期待せずに他者に奉仕する。じゃあどういう人に演じてほしいかなと考えた時、「こう芝居すれば、神様みたいになるよね」とテクニカルなアプローチをされるのはイヤだし、あり得ない。むしろ芝居について何もわからない、ものすごく無垢な人にしかできないのではないかと。多少の経験にかぶれた僕から見ると、何も色がついていない若い俳優は崇高に映るんですよ。美しいとさえ思えてくる。そういう人にしか町田くんというキャラクターは演じられないと信じてオーディションした結果、細田(佳央太)くんに出会えたというわけです。(『キネマ旬報』2019年6月下旬号)
と、語っていたが、
堀未央奈もほとんど同じ理由で選出されているような気がした。
無垢で、何も色がついていない堀未央奈に、
山戸結希監督は、次々に言葉を発しさせ、音楽に乗せ、自在に動かす。
それは、あたかも、『21世紀の女の子』の世界の続きを見ているかのようであった。
そういえば、
『21世紀の女の子』の唐田えりかと、
『ホットギミック ガールミーツボーイ』の堀未央奈とは、
話す声がそっくりであった。
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山戸結希監督は、
助監督などの経験を経ずして監督になっており、
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男社会の邦画界からは、妬みや誹りを受けやすく、
「Yahoo!映画」のユーザーレビューなどでは、
コメントなしの1点が大量に投下されている。
『溺れるナイフ』のときもそうであったし、
本作『ホットギミック ガールミーツボーイ』も評点が低くなっている。
だが、これに惑わされてはいけない。
自分の目で確かめ、自分の目で判断してもらいたい。
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7月2日には、「7RULES」(セブンルール)という番組で、山戸結希監督を採り上げていたし、(TVer)
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『ユリイカ』の最新号(2019年7月号)では、山戸結希を特集している。
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どんなに貶めようとしても、
もう時代は“山戸結希”という女性監督を無視できなくなってきているのだ。
山戸結希監督の新作にして傑作『ホットギミック ガールミーツボーイ』。
映画館で、ぜひぜひ。