読売新聞の書評で、ゆったりとした作品という言葉につられて読んでみた。
十時半睡事件帖のシリーズの7巻目、最終巻らしい。著者の絶筆でもあるらしい。
事件帖とあるが、この巻については、事件らしい事件があるわけではない。
海洋ものに比べるとかに、ゆったりとした作品だ。
丁度、三島近辺に旅行に行ってきて、箱根八里の街道を知ったばかりのせいか、小田原ー三島ー元箱根ー沼津といった地名や、その街道が、身 . . . 本文を読む
ようやく、米澤穂信の「黒牢城」を読めた。
直木賞を受賞して、図書館では、長らく、待ちが続いていた。
読んでみて、驚いた。時代小説的なのだが、ミステリー小説でもある。
織田信長に反旗を翻し、有岡城に籠城した荒木村重の物語だ。
大きな合戦が描かれているわけではないが、籠城している中で、種々の事件が起こり、その一つ一つの事件を解決せねば、士気にかかわると、村重が推理を働かせるのだ。
緊迫感もあ . . . 本文を読む
葉室麟の「草雲雀」を読んだ。
葉室麟の作品にしては、少し、軽めの奇想天外な物語だ。
主人公は、師範代を務める剣客なれど、兄の世話になり、結婚もできず、女中を妾として、同居している。
一方、道場仲間から、用心棒になってくれと、頼まれるのだ。元家老の妾腹の子供であることがわかり、もし、家老になれたら、藩の剣道指南役にして、結婚できるようにするというのだ。
引き受けたのは良いが、次々に刺客が現れ . . . 本文を読む
池波正太郎の鬼平犯科帳の番外編とも言える本書を読んでみた。
ちょっと、不思議な作品と言えるのではないか。
主人公は、「お松」という薄幸の女性だが、美人でもなんでもないのだ。しかも、亡父から顔に傷を付けられている。
捨てられた亭主にも、「不作の生大根」などと怒鳴られていたのだ。
この作品では、その「お松」の数奇な人生が描かれていく。
並行して、鬼平の盗賊の捕物が描かれていくのが、中々、接点 . . . 本文を読む
池波正太郎の剣客群像を読んだ。8篇の短編からなる剣客の物語なのだが、決して、著名な剣客をとりあげているのではないことが面白い。
名もなき剣客、創作上の剣客なのだ。
池波正太郎は、女性の剣客が好きなのか、2編は、女性の剣客も取り上げている。
どれも、剣技だけでなく、人として、人生として一味も二味もある物語となっているのが、面白い。
このシリーズは、忍者群像とか、仇討ち群像もあるようなので読ん . . . 本文を読む
久しぶりに宮部みゆきの時代劇の小説を読んだ。
岡っ引きの親分に拾われた孤児で、本業である文庫(本や小間物を入れる箱)売りで生計を立てる少年の物語だ。
親分がフグに当たって亡くなってから、周りの人に助けられながら、事件を解決していくのだ。
4編からなる中編小説だが、最初の2編は、やや、ゆっくりとした展開だったが、3編から、もう一人のキタさんが登場し、4編目は、スピード感も出てきて、面白く読めた . . . 本文を読む
佐江衆一氏の「江戸職人き譚」を読んでみた。
9編からの江戸時代の職人などを主人公にした短編集だ。
錠前師、凧師、葛籠師、人形師、大工、化粧師、桶師、女刺青師、引札師などを描いており、そのユニークさに感嘆した。
もともと、純文学から初めて、時代小説に移っていったとのことで、文章も素晴らしかった。
特に、抑えたエロチシズムとでも言うのであろうか、男女の想いが良く描けていた。
気に入ったのは、 . . . 本文を読む
葉室麟の「大獄」を読んでみた。
西郷さんと言えば、維新前後の話が多いところだが、そこまで行く前の若かりし頃の物語だ。
新将軍に一橋慶喜を推し、徳川慶福を推す井伊直弼一派の暗躍に敗れ、月照とともに海に飛び込んで死んだことにされ、奄美大島に名前を変えて隠される。
井伊直弼は、安政の大獄の反動で、桜田門外の変で、暗殺される。そういった時代の話だが、面白く読めた。
それにしても、島津斉彬という人物 . . . 本文を読む
「蜩の記」続く羽根藩シリーズ第二弾を読んだ。
蜩の記との繋がりは、まったく無いように感じた。
役目をしくじっって、無頼暮らしに落ちた主人公が、家督を譲った義理の弟が、切腹したことから、弟の無念を晴らすべく、立ち上がる物語だ。
主人公は、剣にも優れているのだが、今回は、あまり、剣劇は見るものがなかった。
むしろ、どうやって、いったん落ちた花を咲かせるのか?
ぼろぼろになった人間が再生するの . . . 本文を読む
先日読んだ「恋牡丹」の続編である本作を読んでみた。
時代劇の中には、歴史小説的なものもあれば、剣劇活劇的なものもあれば、人生劇場的なものもある。
しかし、この連作は、時代劇ミステリーというちょっと違った雰囲気がある。謎解きがあるのだ。
ということで、読んでみて、さすがに前作の新鮮な驚きに比べれば、ちょっと、驚きも新鮮さも軽減されたというのが感想だ。
作者は、エラリークイーンの作品に感銘して . . . 本文を読む
池波正太郎の直木賞受賞作、「錯乱」を読んだ。
5つの短編からなる。4作品は、どんでん返し的な展開もあり、中々、面白かった。
最後の「賊将」は、歴史小説的ではある。
一番、気に入ったのは、一番長かったが、一気に読んでしまった「秘図」だ。
主人公は、若い時分に放蕩三昧をしたのち、こころあらためて、盗賊討伐のため、火付け盗賊改めの責任者になるのだ。それと、秘図と、どういう関連があるのかは、読んで . . . 本文を読む
葉室麟の「峠しぐれ」を読んでみた。
何を読んだらよいか迷ったときには、葉室麟の未読の作品を
選ぶことが多くなっている。
裏表紙には、真摯に生きる夫婦の姿が胸を打つ傑作時代小説と
あるが、ちょっと、違和感があった。
峠の茶屋の夫婦の物語だ。
主人は、実は、あまり聞きなれない流派の剣の達人だ。
また、妻は、「峠の弁天様」と呼ばれる、お金のない旅人には、
タダで、茶や団子 . . . 本文を読む
戸田義長の「恋牡丹」を読んでみた。
裏表紙に、心地よい人情と謎解きで綴る四編とあるが、なるほどと読んでいると、えっと驚くミステリーのトリックと謎解きが描かれているのだ。
主人公は、北町奉行所に勤めるが、早々と引退して息子にあとを継がせる。
その親子2代の同心が事件を解決するのだが、普通の時代劇の同心ものと思って読んでいると違うのだ。
それが、新鮮でもあり、面白く読めた。 . . . 本文を読む
新田次郎の「新田義貞」を読んでみた。
新田次郎と言えば、山岳ものの小説が多いが、武田信玄などの歴史小説も書いており、面白い。
ひとりの作家で、過去、一番読んだのが、おそらく新田次郎の作品だと思う。その中で、最近、新田義貞について、興味を持ち、本作品を読んでみた。
新田義貞が、鎌倉を攻め、足利尊氏が、京を攻め、鎌倉幕府の北条氏を滅ぼしたのだが、そのあとに、足利氏の反乱により、足利氏の室町幕府へ . . . 本文を読む
何とも、物騒な表題だ。10篇からなる短編集だが、ほとんど、どれも、十分楽しめた。
有名な剣客の話だけでなく、むしろ、あまり知られていない剣客の話が面白かった。
例えば、「抜き、即、斬」では、11歳で果し合いをした若武者が描かれる。果し合いを申し出た者が、ほとんど、討たれるとのことだが...
最後の2編も、ちょっと、吉村昭を想起させる作品もある。「剣光、三国峠」の戦闘場面は、素晴らしかった。
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