棚田の周辺は羽化直後の中型のトンボが目立つようになった。展開してまだ硬化しきらない羽は水に濡れたように輝いていてなんとも美しい。
邪魔する心算はないけど、足元からゆらゆらと頼りなげに飛び立つトンボに出会うと「悪い、悪い」とついツイッターだ。
その中に何匹か茶色のトンボがいた。「ウスバキトンボか?」と思ったのだが、渡りのトンボだし、この時期に羽化するわけも無いから別種なのだろう。ウスバキより大きめだ。
でも光を浴びて飛翔する色合いは「アカトンボ」の雰囲気なのだ。
このトンボの右後羽の根元に白い網目模様が確認できたが左には無かった。固有のものなのか特有のものなのか、こういう感じ方をすると検索・確認につい夜更かしをする羽目になる。とは言え、検索して解決するのは半分程度だ。
野に嬉し虫待つ宵の小行灯 重頼
田で過ごす虫見ず小鳩昼行灯
にょっぽりと秋の空なる富士の山 鬼貫
しょんぼりと飽きて空なる鳩の山
さればここに談林の木あり梅花 宋因
されどまた悋談の危あり擬似の堂
一昨年に侵入竹を除伐した斜面に細い竹の「ひこ生え」が茂ってきて、見通しも風通しも悪くなってきた。何より林床への日射を妨げるのが一番の弊害なので、二日を掛けて刈り払った。
刈り払うのが進むと、突然に風が渡り始める時が来る。この一瞬は何回体験しても清々しいし「やった!」と感じる瞬間でもある。
ただ、竹だけでなくヒサカキなどの常緑樹も背丈を越える高さにまで伸びているから、これらを含めてもう一度林内を整備しなければならなくなった。
手入れをしても一回で完結することはなく、何年にも渡って植生誘導や遷移が安定するまで継続しなければならないのが里山の手入れだ。「次」をしないと数年を経ずして「元の木阿弥」になってしまう。
その意味では「自転車操業」でもあるし、範囲が広がれば二次・三次の手入れに追われるのは宿命みたいなものである。つまりは「不断の手入れ」は欠かせない。
「貧乏暇なし」全く持ってその通りだが、寝る場所があるだけでも「良し」とせねばなるまい…と言いつつも「方丈記」のような胸中にいたるのは無理である。
昨年ごろから目立つようになったクローバが、今年は花を一杯つけている。その中に立っていると花の香りが微かに漂ってくる。それにも増してミツバチの羽音が賑やかだ。こうなるとさすがに四つ葉を探そうとする人影は無い。
しゃがみこんで待っていると、直ぐ目の前の花に次々と飛んでくる。後ろ足の花粉玉が「仕事しています」を主張している。
見とれていたらモソモソと動くバッタがいた。背筋は白で残りは黒っぽい。初めてなので撮影してみた。
クローバの群落の中にイヌガラシも疎らに生えているのだが、食草の一種だと言うことを思い出して幼虫を探してみたら一匹発見できた。
モンシロチョウでもスジグロシロチョウでもない幼虫だ。5ミリほどの体長だがさーて・・・詮索は止めたのだった。
棚田と脇の水路の間隔が二メートル程あって、湿地状態でまことに歩きにくかった。それもそのはず、元は田んぼだった部分だ。復元するとき刈り払った葦草を集積したので田んぼに出来なかった部分が、葦草が朽ちてきて泥地になったという訳である。
田起こしも済んだし、本来の棚田の大きさにまで拡幅して畦の強度も保てるようにと、思い切って手を掛けて改修した。これで土手と畦が合体して歩き易く、かつ強化された。まだ上部にはアラカシの枝が広がっていて、雨だれで畦を侵食してくるが、一体化したから畦の破壊による漏水のリスクも減ったことになる。
都合三枚の棚田の拡幅と畦の強化が終わった。これで水路と棚田の間を歩くのに支障が無くなる。俯瞰的に見つめれば、随分と「無用の用」でもあり「無要の要」でもあるのだが、自己満足の世界だとしても「まっ、いいか」の世界でもある。全ては自分次第だ。
草の中にぽつぽつと赤いイチゴの実が目立つようになった。赤い実は同じようでも何種類かあるので正しい区分など夢のまた夢だが、どうもバライチゴのようだった。美味しくも不味くも無いというところだろうか、ヘビイチゴのモソモソとした口内感触に比較すれば「おいしい」。
近くにも赤い球があって、ノイバラの葉に付いていたのだが「これが本当のバライチゴじゃん!」と独り戯けを言いながら見てみたら真っ赤な嘘だった。
ノイバラにイチゴが実るわけは無い。端的には「虫瘤」だった。図鑑で調べたらバラタマバチの幼虫がつくる「のいばらまるたまふし」と言うものだった。きれいな球体でスグリの実の様な感じだ。
ノイバラには手を焼いているが初めて見た代物だった。ナイフが無かったから、まだ割って中をみていない。
日あたりのよいところはあざみの花が目立つようになった。湿った半日陰のところではコアジサイが満開となっている。
アザミには昆虫が多く訪れている様子だが、コアジサイはひっそりとしたままだ。園芸種の派手なだけのアジサイよりコアジサイや山アジサイのほうが個人的には好感がもてる。
林道脇や林縁には白い花を満開にしたウツギやガマズミの類が、つる性ではスイカズラやテイカカズラの花が咲いて、これは風向きによっては香りが漂ってくる事もある。高所で咲いている事が多いから、地面に敷いたように落ちている花びらで存在を知るのが、この二種なのだ。
白い十字形の花びらが一面に敷き詰められた上を歩くのは「もったいない」の気分があるが、バージンロードではなく「婆爺廊土」だ。
1日、山も草刈りのシーズンなら里も草刈りシーズンだ。近くの土手の草丈がうっとおしいので、山は中止して一部だけ刈り取った。飼い犬がいた頃の散歩コースだ。
刈り払っている途中、黒い虫が葉の裏から出てきたが蛍だと直感した。とりあえず確認のため作業を中断して自宅で撮影する。日中に蛍を手に取るなんて子ども時代以来の出来事である。体長は約16mm、ゲンジボタルだ。
夜、光るのを確認してから川辺に放ったが、念のためしばらく川原を見ていたら数箇所に光が見えた。この地点では20年ぶり位だが、昨年度は雨が多くて流れが枯れなかったのが良かったのだろうか…。自宅から100歩足らずのところに位置する川である。
これに勢いづいてフイールドまで確認に出かけた。3匹ほど飛んでいる。主流に連なる上流の沢まで足を運んだのだが先客がいた。高齢者施設の入居者がスタッフと共に見物に来ていた。
聞けば毎年見えるのだそうな。ここは拠点とする駐車場周辺よりも数が多かった。とは言っても、ここに一匹、あっちに二匹と言うくらいで、幼年時代の農道を走れば顔に当たるなどは夢の世界だ。