連休明けの先日、大学に聴講に行った。連休中ホーチミンに出かけていた先生から、学生たちにコーヒーの差し入れがあった。授業が行われる教室は、専攻語毎の共同研究室。20人も入ればいっぱいの部屋に、原語の本・雑誌類が多数収納されていて、PCやTVも備わっている。一学年の学生数が13名なので、まさにクラブの部室のような感じ。ここで先生や先輩・後輩との交流がおこなわれるのだから、信じられないほどの恵まれた環境だ。
私の学生時代を思い出すと、学生用のロッカーなどもちろんあるはずもなく、特定学部専用の建物もなかった。ケータイもない時代だったから、友人と待ち合わせるのも大変だった。もっとも、小さく貧弱なキャンパスだったから、たむろするところは限られていたが…。私の世代では、母校というモノに全く愛着を持っていない人が結構多い。
まあ、そんなことはともかく、いまの受講科目がベトナム関連なので、先日ホノルルに行ったときも、まずベトナム料理店を探してみようと思った。私たちが立ち寄ったのはビーチに近い「Old Saigon」という店で、サトウキビにポークを巻いた料理、フォーなどを満喫した。翌日、チャイナタウンに行ったときは、さらにベトナムらしい(古く汚れた感じの…)レストランがあったが、残念ながらオープン時間前だった。
(「オールド・サイゴン」という目抜き通りのレストラン。味はまあ合格点。「シャム Siam」というタイ料理店の方が美味だった。)
これらのベトナム料理店は、ベトナム戦争以前からあったものなのか、それとも南ベトナムから亡命してきた人が生業のため始めたものなのか、どちらなのか。
ベトナム戦争というと、当時の学生は、岡村昭彦という元祖・戦場カメラマンと本多勝一(朝日新聞)の著書に大きな影響を受けた。米国は間違っていて、民族解放戦線(ベトコン)は正義という、一方的な観念を植え付けられたのだ。だが、今や、彼らの著書など誰も信じない。岡村については、はったり屋の嘘がばれてしまった。本多勝一は、異様な自己顕示欲と左翼思想の持ち主で、彼の記事の多くが著しく客観性に欠けていることが明らかになった。本多が岡村の虚偽を暴くという内輪もめのエピソードを覚えている人ももうそう多くはないだろう。
いま、ベトナム戦争を知るためには、近藤紘一「サイゴンのいちばん長い日」(文春文庫 1985年)が最適だと先生は学生に薦める。著者は、産経新聞のサイゴン特派員だった人。当時の学生は、産経新聞記者の書くことだからといって、読もうとしなかった本だ。
文化大革命をレポートした新聞記者の著作の中で、今なお読むに値するのは、産経新聞・柴田穂(故人)のものだけ。
ベトナム戦争も文革も、いまや歴史の一部となってしまい、当時書かれた書物(情報)は大方忘れ去られて、読むに値する本物だけが残った。今年大学に入った19歳の学生は、その本物だけを読む。これが歴史の流れというものか。
サイゴンのいちばん長い日 (文春文庫 (269‐3)) | |
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