澎湖島のニガウリ日誌

Nigauri Diary in Penghoo Islands 澎湖島のニガウリを育て、その成長過程を記録します。

ミシェル・ルグラン・コンサートに行く

2012年10月04日 01時51分27秒 | 音楽・映画
 10月2日、「ミシェル・ルグラン・シンフォニック・スペシャル・ナイト」というコンサートに出かけた。コンサートの冠には「生誕80年記念 ジャパンツアー2012」と銘打たれている。




 5年前の春、私は初めて「題名のない音楽会」の公開録画に出かけた。司会が羽田健太郎、演奏が神奈川フィルハーモニーで、映画音楽の特集だった。そのスペシャル・ゲストとして、ミシェル・ルグランが来日した。このとき、羽田健太郎はミシェル・ルグランが秋に来日コンサートを行うと紹介して、二人は再開を誓い合ったはずだった。だが、羽田はその秋を待たずして他界。58歳という若さだった。
 私は、その秋のコンサートにも出かけた。50人ほどのオーケストラを率いての来日だったので、華麗なオーケストラ・サウンドで彼の映画音楽を聴けるのではと期待したが、彼のピアノとヴォーカルをクローズ・アップしたワンマンショーのような印象だった。せっかく同行させたフル・オーケストラが活かされておらず、もったいないなあと思った。

 今回のコンサートは、第一部が「ミシェル・ルグラン・トリオ」の演奏、第二部が「ミシェル・ルグラン with 新日本フィル」の共演という構成。曲目は、次のとおり。


第一部 「ミシェル・ルグラン・トリオ」
1 Ray Blues
2 You musy believe in spring
3 Dingo Lament
4 Dingo Rock
5 What are you doing?
6 Family Fugue
7 The Jazz Pianists

第二部 「ミシェル・ルグラン with 新日本フィル」
1 Suite des Parapluies de Cherbourg 映画「シェルブールの雨傘」組曲
2 La Valse des Lilas リラのワルツ
3 Brian's Song ブライアンズ・ソング
4 L'Ete 42 思い出の夏
5 Yentl 愛のイエントル
6 Les Moulins de Mon Coeur 風のささやき

 第一部は会場(すみだトリフォニーホール)が大きいことからPA(パブリック・アドレス)が使われた。そのため、ジャズ・ピアノのトリオが奏でる繊細な生の音が失われてしまったのが残念。もっとも、これは無い物ねだりだが…。
 M.ルグランのピアノは、八十歳という歳を感じさせない素晴らしさで、5年前の演奏と全く変わらなかった。弱音を弾くときにも、音の濁りは全くなく、テクニックは全く衰えていない。中でも7番目に演奏された「Jazz Pianists」では、デューク・エリントン、アート・テータム、エロール・ガーナー、ジョージ・シアリング、デーブ・ブルーベックという五人のピアニストの代表曲を採り上げ、それぞれの個性を見事に浮き上がらせた。それは、表面上の演奏をなぞった類のものではなく、偉大なピアニスト達へのオマージュであり、彼自身もまたその一員だと自負しているかのような演奏だった。

 第二部は、新日本フィルハーモニー交響楽団との共演。第一曲目の「シェルブールの雨傘」組曲は、ルグラン自身が指揮をした自作自演。これはもちろんPAなど使わない生の音。トロンボーン、ホルン、フルートなどのソロ・パートがクッキリと浮き上がり、豊穣なストリングスが精緻なアンサンブルを聴かせた、申し分のない演奏。ルグランの来日はコンサート前日だったそうで、音合わせもおそらく一回だけ。それなのに、このただならぬ名演。その理由は、二曲目以降を指揮した竹本泰蔵がこの種の音楽を知り尽くしていて、万全の準備をしていたこと。それに加えて、新日本フィルのメンバーのルグランに対する敬意が音として表出したに違いない。
 
 「L'Ete 42 思い出の夏」と「 Yentl 愛のイエントル」には、このツアーに同行したM・ルグランの夫人キャサリン・ミッシェル(Catherine Michel カトリーヌが正しそうだけど…)がハープを奏でた。これも素晴らしい演奏。

 最後の曲が終わって驚いたのは、観客の一部が立ち上がって拍手をしたこと。これまで、数多くのクラシック音楽コンサートを聴いてきたが、朝比奈隆の時でさえ、スタンディング・オベーションをした聴衆は皆無だったのに。立ち上がった人達をつぶさに見ていると、若い人達ばかりだった。多分、ミシャル・ルグランをジャズあるいは映画音楽の音楽家と捉えているので、こういう作法になるのだろうか?

 このコンサートを紹介してチケットまで確保してくれた友人には、心から感謝。近頃稀に見る素晴らしいコンサートだった。