『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観てきた。原作者水木しげる(1922-2015)の生誕百年記念作品だという。昨年11月の公開当初は話題にもならなかったが、次第に口コミで評判が広がってきたそうだ。
水木しげるについて、私は格別に親近感をもってきた。それは、晩年の水木しげるが自宅から仕事場(水木プロダクション)に通う姿をしばしば目にしていたからだ。娘さんと一緒に歩く姿は、ごく普通の好々爺で、ほほえましく思われた。
さて、この映画の感想だが、もしかして日本アニメ映画史上の最高傑作かも知れないと思う。正直、アニメは詳しくないが、他の作品には見られないインパクトを持っているのは確かだ。
ラッパーである宇多丸は、「戦後日本が忘れてしまったもの、あるいはフタをして見ないようにしてきたものたちを、鬼太郎というヒーローは見つめ鎮魂する」と言う。
この「無告の民」は、戦前は兵士として、戦後は企業戦士として、国家・企業に忠誠を尽くした。映画には、太平洋戦争の激戦地で兵士に対し「総員、玉砕せよ!」と命令する上官が登場する。実は、その上官自身は「玉砕の報告をするため」と称して敵前逃亡する。これは水木しげる自身の実体験だという。
水木はこのように不条理な命令や抑圧によって「歴史の中に消えていった無告の民」を「幽霊族」となぞらえ、権力と欲望に目がくらんだ醜い人間たちと対置させる。これこそ水木の独壇場だ。
話題になった映画「ゴジラ ー1.0」は特攻隊生き残りの主人公を、戦後再び特攻させる。相手は米軍艦船ではなく、ゴジラだ。しかし、その結末は呆れるばかりのハッピーエンド! 私は、そんな映画を評価する気にはなれない。
「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」はそれとは真逆。見終わってからも、余韻が深く、考えさせられることばかりだ。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を評論:週刊映画時評ムービーウォッチメン【公式】2023年11月30日
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』ファイナル予告