何の前触れもなく、突然に訪れる永遠の別れ。愛するものを失う哀しみ。
人間としてこの世に生まれてきたからには、受け入れるしか仕方のない、辛い淋しい「別れ」という現実と向き合わなければならないこともある。
親・兄弟・親族・親しい友・仲間・さらには共に過ごしてきた犬・猫などのペット。
老少不定我や先人や先。やがて別れなければならない時が来ることは分かっている。
理屈では「世の摂理」として理解している。
ところが、現実に昨日まで元気にまとわりついていた愛くるしいペットが、まさに晴天の霹靂、突然の死。受け入れろと言われてもすぐにはどうしても納得いかない。
だからといって、受け入れないわけではない。そこに時間の流れという、打ちひしがれた気持ちを立ち直らせてくれる妙薬みたいなものも授けてくれる。
『ハークンよ、君の「限りなく従順な性格」が、主人夫妻のどれほど大きな癒しになって来たのだろう。ときにうるさく思うことはあっても、君の愛くるしい瞳で訴える「甘え上手」は、その都度君の思い通りに、主人夫妻は動いてくれたよね。他人の私が訪ねても、真っ先に玄関先に出てきて、決して長くない尻尾を振って歓迎してくれる。主人と話を始めると、君はいつも「主人を見上げて」自分にも話かけてよといった素振りを見せる。奥様から出されたお菓子があまりにもおいしそうなときは、ついテーブルに手がかかりそうになる。そんなとき主人は厳しく態度でNGを出す。主人からひとかけらお菓子を渡されるまで「受動的」でただひたすら待っている。欲しくてたまらなくてもジッと待っている。そこは、そんじょそこらの犬とは訳が違う。歴とした血統保証書付きアメリカンコッカーズパニエル。血筋の良さは、ペット素人の私にも分かる。垂れ下がるようなまぶたの奥で、クリッとしたつぶらな瞳や、優しさがあふれる「愛くるしい動作」は、主人夫妻にはかけがえのない家族の一員に間違いなし。垂れ下がった大きな大きな特徴的な耳故に定期的な耳の掃除、ヘアードレッサー、定期健診、腫瘍健診などなど、ともすれば主人夫妻以上に医療費をかけ、大切に大切に守られてきたことは、岡目八目、この私がよーく見せて頂いた。なにをするのもどこに行くのも一緒。君のよろこぶ姿のすべてが主人夫妻の喜びだった。あと少しで丸10年を迎える記念日を待たず、突然別の世界へ旅立った君を少し恨めしく思う気持ちはあるが、それ以上の大きな大きな喜びと、人間と動物でも愛し合えば通じることの大切さを教えてくれた君に心から感謝したい。 言葉足らずで言い尽くせないもどかしさを感じながらも、主人夫妻に最高に愛された幸せを忘れず、安らかに眠って下さい。』
差し出がましいことは承知で、初めて体験する弔辞をここに述べさせて頂く。