長く忘れていたオヤジの背中。というか、実際にはあまり意識して見たことがなかった、というのが正直なところだろうか。
自分が幼いころの父親、お父ちゃんは、どちらかというと反面教師的なイメージが強く、少し抵抗を感じる部分が多かった。その分、おふくろが頑張ってくれているなぁという記憶の方が強い。「大きくなったらお母ちゃんに楽をさせたい」と思う子供であったようだ。
それでも、晩年のオヤジの背中は、やはりどことなく切なくて「色々あったけど、あんたはあんたなりの一生を精一杯生きて来たんだよね~」と言いたくなる、男の哀愁を感じていたような気がしないでもない。キザな言い方かもしれないが。それは、やはりこちらも段々大人になっていく中で、男の生き方について少しは周りが見えてきて、得体の知れない寛容さというものが芽生えてきたせいなのかも。
いずれにしても、12月も押し迫って店頭に「しめ飾り」が並び始める季節を迎えると、どうしてもオヤジの後ろ姿が思い出されて、ちょっとだけセンチに襲われることがある。
そんな気持ちの一端を、趣味として楽しんでいる252字にまとめてみた。それを昨年暮れに毎日新聞「はがき随筆」に投稿したところ、図らずも久しぶりにお褒めの言葉を頂くことになった。
「こいつぁ春から・・・・・・」 犬も食わない自慢話、手前味噌で恐縮ながら、ちょっとなぞらせて頂くわがままをお許し頂きたい。
「父のボーナス」
「ストーブの火はワラの色を変えるからダメ」と職人気質丸出しの父は、
火の気のない寒い部屋で背中を丸め、しめ縄を綯い上げていく。
母も妹も新婚早々の私の妻も、かじかむ指で一つ一つ丁寧に商品に仕上げる。
100、200とまとまったら私の出番。
会社は有給をもらい、正月準備で賑わう通りの道ばたに露店を張る。
所得倍増の好景気に押されて飛ぶように売れる。
苦労などなかったような父が笑顔で年越しそばをすする。
賞与なんてもらったことのない70才前の父に、家族総出の賞与を贈る。
遠い昭和を思い出せる年の瀬である。
おそまつさま!