三島屋変調百物語事始め
百物語とあるからには もしかしたら シリーズ化するかもしれません
往来での吊るしの振り売りから始めて 住居兼店を構えるまでになった三島屋 その主人 伊兵衛は 川崎宿で旅籠を営む長兄の娘おちかを預かっている
その身近で人死にが出る事件に遭遇した娘は その因 責が己の言動にもあったと 若い娘らしく思い詰めてもいた
伊兵衛の留守に来た客が 庭の曼珠沙華を見た事から始めた話
その後のおちかの様子を見た伊兵衛は 姪の為にある事を思いつく
それは不思議な話を持つ人間に来て おちかにそれを聞き取らせる―というもの
人の世には悲しいこと 恐ろしいこと 不思議なことはたんとある
それは時に どうしようもないものなのだ
叔父は それを気付かせてやりたかったのかもしれない
正しい事を見極めるあったかな心を持った伊兵衛の妻お民
やはり おちかを思いやる古参の女中おしま
「曼珠沙華」
「凶宅」
「邪恋」
「魔鏡」
「家鳴り」
物語の中に出て来る人間に根っからの悪人はいない
強いて悪に近い人間がいるとすれば おちかの殺された許婚者の良助だろうか
この性格では もし無事におちかと夫婦になっていても何処かで躓いたのではないかと危うく思える
本当におそろしいものは 人の心 その動き ありかたではないだろうかと―思いつつ
小泉英里砂さんのイラストが 物語にとてもあっております
恐いかと言われれば 背筋がぞっとするほど恐ろしくはありません
宮部調人情怪談とでも名付けましょうか
時代 語り口 表現方法が違うだけで 「名もなき毒」に共通する主題を感じます
本当に恐ろしい事を起こしちまうのは 人の心 (胸をおさえながら)ここなんでございますと―