夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「不幸を呼ぶモノ達」わ道具屋

2008-08-31 02:08:28 | 自作の小説

その旅館は新幹線の駅から半時間ばかり走った山の麓の温泉街の入り口にあった
少し先にはロープウェイもある

近くには大きな川が流れており 賑やかではないが 自然は街から近い割に豊かだ

静かで料理も美味しいと評判で 温泉の質も良かった

さして大きくは無いがそこそこに繁盛している旅館であった

その旅館の様子が変わったのは いつからだろう

旅館の入り口を彩っていた季節の草花も枯れがちになり
客の数が減り 何やら悪い評判が立ち始めた

一人二人と従業員が辞めていき 人の揃っていた板場も活気が無くなっていく

大女将の人脈で それでも何とかもっていたのに―頼りの大女将は倒れた

嫁いできて数年の若女将には いったん傾きかけた旅館の経営立て直しは無理で
若女将を支えるはずの彼女の夫は これが坊ちゃん育ちの道楽者
判りもしない骨董に 女 おだてられあちこち通いつめるのだ

若女将は情けない亭主の他に悪夢にも悩まされていた

夢の中で座敷に座っていると 肘から下だけの白い手が肩に触れてくる

こった肩をほぐすように優しくもんできて 声がする
囁く声が聞こえる

「殺しておしまいなさい あんな男」

夢の中で声は囁き続ける

大女将の「頼みましたよ」その声と

―もう どれだけ頑張っても無駄だわ―投げ出したい 自由になりたい―

そんな思いとで 若女将は疲れきっていたのだ

そこへ仲居達が言ってくる

出るのだと

部屋へ入る足を見て 追いかけると誰もいない

確かに消したはずの電気がついている

深夜 無人のはずの風呂で 水音が聞こえる

畳んだ半纏が 部屋を漂っていた

湯飲みのお茶が勝手にカラになる

若女将はどんどん痩せていった

若女将がおとなしいのを良い事に 亭主は女を連れ込むようになる

空いた座敷で昼間から好き放題

そんな女の一人が馬鹿な若旦那を唆したらしこむ

「お前 出ておいき」若旦那は言った

―もう駄目だ この男の為にこれ以上 苦労はしたくない

若女将は そう思った

健気な若女将を支える為に残っていた従業員の殆ども 旅館に見切りをつける

板場を支えた料理人も ひそかに想いを寄せていた若女将がいなくなっては残る意味が無かった

仲居もいない

料理人もいなくなった旅館は 若旦那が連れ込んだ女房気取りの女の浅知恵で 曖昧宿―連れ込み旅館になる

どちらも飽きやすい男好きと女好き

女は昔からの腐れ縁の男を呼び寄せる

男は若旦那の浮気の現場の写真を見せ 慰謝料を請求する

人を踏み付けにして―と板場から包丁持ち出した若旦那は逆に男に殺される

若旦那の死体は裏山へ埋められた

それから何があったか いつしか人の出入りが絶えた旅館のあちこちに死体が散らばっていたと言う

いずれも殺し合っていたようだと

かなりな大騒動になったのだ

暫くすると 二つ三つ 頼りなげに鬼火が飛んでいたとか

旅館の入り口に黒い影が立っているとか

様々な噂が立ち
面白がったテレビ局が取材に 旅館の中へ入った

カメラマン二人死亡
売り出しかけてたタレントは一時的に精神錯乱 後に芸能界を引退

それでいて何があったか 誰も覚えていないのだ

カメラの画面は真っ黒で 騒ぐ悲鳴しか入ってない

その騒ぎの時に通報で駆け付けた警官の一人は言った

旅館から出てきた人間達全員の頭の上に 小さな黒い鼠を見たのだと

わけありな品を集める わ道具屋の女は 旅館の入り口で 白銀のオーラ持つ若い娘を見た
軽々と邪気を退治する刀を使いこなす

娘が邪気祓いをしてくれた為 わ道具屋の女は簡単に目指す品を見つける事が出来た

肘から先が無い女の幽霊画の掛け軸

殺した男の骨ごと混ぜ焼き上げた陶器

よくこれだけと思うほど 旅館の若旦那が集めた いわくつきのわけあり品を わ道具屋の女は風呂敷にしまい 旅館から姿を消した