金髪トサカ頭の竜二は 笑酔亭梅寿の内弟子になることに
本人に自覚はないものの 素質と才能あるらしく やっかんだ梅雨はじとっと彼をいじめるも 他の兄・姉弟子達からは可愛がられ 無茶言うようで 愛情ある師匠の それと分からぬ指導で 少しずつ腕を上げていく
「たちきり線香」
「らくだ」
「時うどん」
「平林」
「住吉駕籠」
「子は鎹」
「千両みかん」
各短編の題は落語の題でもあり
その落語の説明の月亭八天さんの文が大変分かりやすく また楽しいです
金髪トサカ頭の竜二は 笑酔亭梅寿の内弟子になることに
本人に自覚はないものの 素質と才能あるらしく やっかんだ梅雨はじとっと彼をいじめるも 他の兄・姉弟子達からは可愛がられ 無茶言うようで 愛情ある師匠の それと分からぬ指導で 少しずつ腕を上げていく
「たちきり線香」
「らくだ」
「時うどん」
「平林」
「住吉駕籠」
「子は鎹」
「千両みかん」
各短編の題は落語の題でもあり
その落語の説明の月亭八天さんの文が大変分かりやすく また楽しいです
妹が死んだのは小学校の3年生だった
大きくなったら服作る人になるのーと夢見ていた妹は 家庭科の授業用に頼んだ新しい裁縫箱を使う日をたいそう楽しみにしていたのに
手首に留めるゴムつきの針山が嬉しくて 好きな待ち針をいっぱい刺して 取り出してはニコニコしながら見ていた
ひき逃げだった・・・・・
中学へ連絡が入った「妹さんが・・・」
殆ど即死
犯人は捕まらなかった
呆然とした母は3年くらいは妹の部屋に手をつけられず 5年目あたりから荷物を片付け始めた
捨てられるものではない
僕は妹のまっさらの裁縫箱をねだってもらった
宝物のように仕舞ってある
針山だけは布の袋に包んで お守りがわりに持ち歩いている
妹の行けなかった中学 高校 大学
それはこういう所だと せめて針山に見せてやりたくて
それだけの気持ちで深い意味は無かったんだ
大学受験の勉強をしていた深夜 どうしても解けない問題に煮詰まった頭を叩いて
何の気なしに袋から針山出して眺めていた
と 待ち針が一つ動いた ことこと かたかた 揺れて針山から抜ける
カクカク不器用に動き出す
それはぴょこぴょこ跳ねるように近づいてきて 首をかしげるようにこちらを見上げる
指 手首 乗ってきて腕から肩へ
その動きに慰められて ・・・・不思議とも思わず・・・・僕は問題に再び取り組んだ
と・・・ああこうすればよかったんだーと解き方がひらめいたんだ
そうしたことが幾度かあって 僕にはその待ち針が妹のように思えてきた
誰もいないと待ち針は散歩する
机の上 僕の背中
つんつん ちく つんつん ちく
可愛かった
無事に大学へ合格し 運転免許を取り おっかなびっくりハンドルを握るようになった
渋滞にかかった夏休み
隣の車線にはタクシー
とあの待ち針が 飛び出してきた
運転席の横の窓にぶつかる こつんこつん
何か言いたげだ
僕は 僅かに停まった時に その車のナンバーをメモしておいた
思うところがあって 運転手の名前を調べ
その運転手を呼び出し 電話した
妹が事故にあった場所と月日を言い「貴方が運転している車でした 先日貴方の運転するタクシーに偶然乗り 気がついたのです」
そこまで話すと 相手は 誤解があるようだから会いたいーと場所を指定してきた
僕は録音する道具を用意し 気のおけない友人にそこへ来てくれるよう事情を説明し頼んだ
余り人のこない潰れた工場の裏側
車を停めて降りて待っていた
遅れてやってきたタクシーから降りた男は・・手に何かさげていて・・それをこちらへぶっかけた
ガソリン?!
火を投げようとする
何かが男に向かって飛んだ 男が目を押さえる
あの待ち針だった
友人が駆けてくる
「大丈夫か」
待ち針はすぐに僕の服のポケットへ戻ってきた
友人が警察を呼んだらしくーサイレンの音が聞こえてきた
そのままを警察へ言うわけにはいかず 僕はその運転手を妹の死んだ場所で幾度か見かけ 何か不審に思ったのだと言った
そこでカマをかけてみたのだと
そんなことがあってからも助手席に針山を積んで運転していたのだが
ある日 車に乗ろうとすると 声をかけられた
いまどき珍しいあねさん被り 白い顎 被りものに隠れて目は見えない
「売って頂きたい品があるのです 」
と女は言った
「わ道具屋の者です いわくありの道具を集めてございます
人の情念(おもい)がこもると 時々道具は化けます うちはそうした品が世間様に迷惑かけないように ひきとってまいります」
「僕は持っていて困る道具は持たない」
「それでも この世に在(あ)ってはいけない品をお持ちです」
女は凛とした声で言った
「貴方のお持ちが品は悪いモノではありません ですから ワタクシ 話し相手としてほしいのです
大事に致しますから その道具に訊いてみてはもらえませんか」
唇噛んで 妹代わりに思える待ち針へ尋ねてみた「どうする?」
待ち針は ゆらゆら揺れて迷っているようだったが ぺこりとお辞儀をすると女の肩にささった
「有難うございます 」
そう言って財布を出そうとする
「お金はいらない いらないんだ ただ大事にしてやってくれ 大切な妹なんだ
時々会いに連れてきてくれ」
「いい妹さんですね 自分のこの世への未練が 貴方にはよくないと 分かっているのです」
わ道具屋の女は 盆じぶんになると姿を見せる
不思議なのは わ道具屋の女は年をとらないように見えることだ
待ち針は いつ会っても可愛い
永見緋太郎の事件簿・1
シリーズ第2作
「辛い飴 永見緋太郎の事件簿」も発売されています
ジャズバンドを率いる唐島はバンド・メンバーの若い永見を可愛がっている
彼には謎を解く才能もあるのだった
著者によるおすすむジャズCD レコード紹介もある ミステリ好き音楽好きな人間には 楽しい一冊
「落下する緑」逆さまに飾られていた抽象画
永見の閃きが謎を見破る
「揺れる黄色」すり替えられた楽器の謎
ジャズの魂持つ演奏家と
コピーしかできない人間と
「反転する黒」才能あるトランペット吹きは ある事の為に 大切なモノを失った
「遊泳する青」作家の死後 発見された原稿
それは偽物か 本物か
永見は気付く
「挑発する赤」無責任な評論家の記事により自殺した人間すらいると言う
その評論家に一矢報いんとした人間がいて
「虚言するピンク」 早合点が得意なデイヴ 尺八の師匠から破門された?!
「砕けちる褐色」 性格の悪い片桐がフランソワと名付けて大事にしている楽器が壊れた
永見が読んだ真相とは
誠子(せいこ)はブランコを漕ぐのが好きだった
朝一番に登校し授業始まるまでブランコを漕ぎ 放課後は先生に叱られるまで校庭でブランコを漕ぐ
家の近所の公園で誰もいなくなるまで漕いでいる
誰よりも早く高く漕げるのが自慢だった
ブランコを漕いでいると自由になれる気がした
青空が夕焼けになり 夕焼けが茜色から灰紫色になり 藍の色が勝ってきても・・・まだ漕いでいた
誠子は余りに高く漕ぐので 他の子供は嫌がる
横で漕ぐのを怖がるのだ
それでも誠子は漕ぐのをやめなかった
その日もそろそろ帰ろうと思いながら漕ぐのをやめられずにいた
と横のブランコが動いた
キッキッキ・・・・キィィィ・・・揺れ始める
すぐに勢い持って動き始めた
長い髪の大人の女性らしい
長い足を伸ばす曲げる 伸ばす曲げる
風の音がする
誠子の漕ぐブランコよりも速く高く揺れているのだ
ギッギッギッギ・・・・・・・・
ブランコの上の棒を飛び越え一周するくらいの勢いで漕いでいる
誠子は初めてブランコを怖いと思った
そんな誠子を横から見下ろすように勢いつけて ブランコ漕ぎながら その女性は言う
「ほ~~~~ほっほほほほ・・・ブランコ競争なら負けなくてよ」
楽しげな高笑い
誠子は怖くなった
ブランコを降りようとするのだが ブランコが止まってくれない
「逃がすものですか 一緒にブランコを漕ぐのよ ずっとずっと漕ぐのよ」
ブランコの揺れる速度はどんどんどんどん速くなる
「ブ~ランコ ブ~ランコ 楽しいブ~ランコ」
横の女は 変な抑揚つけて不気味に歌いだすのだ
ブランコのロープを持つ誠子の手はぶるぶる震えた
大怪我してもいい もう飛んで降りよう・・と思った
「だ~めよ 降りるのなしよ ずるなしよ」
と女はまた歌うのだ
「誠子何してるの 危ないわよ 帰っていらっしゃい」
誠子の母親の声だった
と 横の女は「ずるい」と言った
「おかあさん迎えに来るなんてずるい・・」
誠子の母が近づいてきてブランコのロープを持って止めた
「もう5年生なんだから 遅くまで遊んでいてはダメよ」
「・・」言いかけて横を見ると 大きく揺れるブランコがあるだけ
誰も乗っていないー
誠子はほっとして泣き出した「おかあさん ごめんね ごめんね おかあさん これからきちんと早く家に帰るから」
「怒ってるんじゃないのよ おかあさん とても心配しただけよ さあ一緒に帰りましょ
今日はね誠子の好きな海老フライにしたのよ」
それから誠子が中学生になった頃だったか あの公園のブランコで遊んでいた子供が落ちて・・・死んだ・・というニュースを見た
誠子は あの心細い夕暮れの公園でいつのまにか横にいた女を思い出す
ー死んだ子はお母さんが迎えに来てくれなかったんだ だからー
夕飯の用意をする母親に「お母さん わたし手伝う」と声をかける
その背中に飛びついて誠子は言っていた
「お母さん大好き 有難う」