ノーベル文学賞候補に何回も推され、文化勲章受賞の谷崎潤一郎氏は、軍部財閥の支配する日本帝国の暗黒時代に生まれが早すぎた小説作家である。仄暗い畳と襖と卓袱台の昭和の生々しい情念を吐露し続けた文豪です。
港の見える丘公園からじきの神奈川県近代文学館において没後50年の展覧会が開催中。
まず、目にとまるのは熱愛した3番目の妻、松子御寮人への熱きラブレターです。ほとんどが親展、航空便の印のついた毛筆の封書だ。巻物の長い長い手紙もある。まさに、昭和的な湿って粘りつくような情念の恋文です。
『今日より召し使ひにして頂きますしるしに、御寮人様より改めて奉公人らしい名前をつけて頂きたいのでございます』には衝撃を受けました。昭和の初めのこのハレンチ、破天荒に平成の私にはゾクッとする刺激です。
『我といふ人の心はただひとり、我より外を知る人はなし』。
憲兵の跋扈するがんじがらめのニッポン帝国主義社会で、倒錯的情念を燃やし続けた文士が存在したことは素晴らしい。モラル監視のあるど田舎育ちの私は彼の超不良的小説を読んだことはありません。今になってから関心が向き始めた次第です。
是非この展覧会へお運び下さい。5月24日までです。