『お釈迦さまがご在世当時のインドに、コーサラ国という大国がありました。その国の王さまが、あるとき「私がつらつら考えてみるのに、どう考えても自分より愛しいものはない。そなたはどうか」とお妃に尋ねたのですが、お妃も、考えてみるとやはり自分がいちばん愛しい。
それで、お釈迦さまにおうかがいしてみることにしたのです。その王と王妃に対して、お釈迦さまは、
「自分がいちばん愛しいと知ったら、人もまた自分がいちばん愛しいと分かるはず。だから、人を害してはならない」
と教えられたのでした。
私たちはふだん、自分の立場からしかものごとを見られないのですが、そこで一度踏みとどまって、相手の立場に立ってみる。相手の立場に立って考えてみる。すると、同じことが、まるで違って見えてきます。目からウロコが落ちたように、相手の心、ものごとの本当の姿が見えてくるのですね。
人さまの立場に身を置き換えて見直すことができるようになることが、「慈眼」を具えることだといってもいいと思うのです。』
庭野日敬著『開祖随感』より