友人からご尊父の遺稿をまとめた詩集を送ってもらいました。
市井の老詩人が書き溜めた多数の詩の中から選択、三回忌に合わせて、『老鶯哀惜』と題して発行されたものです。
題名の老鶯とは夏うぐいす。あの美しい囀りで私達を喜ばしてくれます。老詩人にふさわしいよきタイトルとなりました。
詩集冒頭には書斎で寛ぐ黒眼鏡の温顔の写真、そこは膨大な蔵書の棚に囲まれた谷間みたいな和室です。お父さんにとっては最高の居心地の空間で、安らぎと創作の現場だったのですね。
写真の蔵書を虫眼鏡で拡大して確かめるとあの歴史的大辞書『大言海(だいげんかい)』が。これで市井の文人だと理解しました。有名な句を思い出しました。
大言海割つて字を出す稿始め 鷹羽狩行
詩集のなかで感動を呼ぶベスト作品は長男である友人への短詩です。
「願う」
息子よ
私が死んだなら
遺骨は、
読みたくて
読み切れなかった、
本棚の
隅に、
暫くは置いてくれ
気が向いたなら
寂しがりやだった、
父の遺骨の前で、
酒をのんでくれないか、
酒好きだった
父と
遺骨と酒を酌み
言葉を交わしてくれるか。