向かふから、白い軍手をはめた學生らしき男の子がやって来た。そして、駐車場に停めた自家用ワゴン車から段ボール箱を両手で抱へると、軽快な足取りで元来た道を歩いて行った。ワゴン車には生活用具がまだいろいろと積んであり、父親らしき男性が荷台に頭を突っ込んでゐる。ワゴン車のナンバープレートから、ここから数百キロ北にある地方よりはるばるやって来たのがわかった。「“新生活”、か……」これも、春の景色ᦀ . . . 本文を読む
今年もしっかりと見ておかなくてはと、はや若葉が顔を見せ始めた櫻を見上げる。櫻の許では、作業員の方が散った花びらを掃き集めてゐる。しかし、掃けども掃けども尽きぬ花びら。作業員は時おり手をとめて、櫻を見上げる。私は頭の下がる思ひがした。街を汚すも綺麗にするも、ニンゲンなり。 . . . 本文を読む