ラジオ放送で、觀世流銕仙會の「鵺」を聴く。
「平家物語」から取材した世阿彌の自信作で、夜な夜な近衞天皇を苦しめて驕った氣でゐたモノノケ──鵺に下った天罰と、その鵺を仕留めて文武両道の譽に浴した源頼政の、勝者と敗者の明暗の妙を、觀世銕之丞一派ならではの重厚かつ迫力ある謠で樂しむ。
私は以前にこの能を水道橋の能樂堂で觀たとき、鵺は本當はミカドに直接訴へたいことがあって御所でその機會を窺ってゐたが、モノノケの悲しさで退治され、“口封じ”されてしまった──と、自分で勝手に秘話をつくってみたことがある。
いま思へば見當外れな秘話もあったものだが、しかしこのときに能を樂しむひとつの方策を見出したことは事實だ。
この曲では“鵺”として象徴された浮世の魑魅魍魎は、その人の解釈次第で、何にでも化けられる。
ニンゲンとて、その魑魅魍魎が化けたひとつであることは、まず間違ひのないところだ。