觀世流能樂師で、最晩年に宗家から許しを得て“祥雪”と號した関根祥六師追悼のラジオ番組を聴く。
生前には現代の能樂を代表する名人であり、重鎮であり、有望株の息子に先立たれる悲運に見舞はれながらも、強い心を以て長命を保ち、最晩年まで現役を貫く。
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十年ほど前に渋谷區松濤にあった舞薹で一度だけ仕舞を觀たことがあり、大柄で安定感のある姿だったことを憶えてゐる。
腹の底から絞り出すやうな聲柄は、今回放送された「安宅」の勸進帳讀み上げでいよいよ光るが、現在ではシテの辯慶が一人で謠ふその件り、もともと山伏に扮したツレ(義經の家来たち)と共に謠ふ連吟であることを、解説者の話しで初めて知る。
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情の勝利で關所を通過する歌舞伎十八番の「勸進帳」とは全く趣きが異なり、強引に關所を突破する趣向の曲なれば、宗教的威力に恃んで相手を圧倒しやうとする必死さがよく表れる面白い演出であり、一度は觀てみたいものだと思った。