久しぶりに、國立能樂堂の主催公演を觀に行く。
會場の電灯をすべて消して、蝋燭の灯りだけで演能會を催す企画で、番組は狂言が大藏流「八尾」、能が寶生流「楊貴妃」、いずれもそれらしく冥界が舞薹の曲。
舞薹上では幽冥でも、見所(客席)はしょせん令和の俗界、いかにもお能見物客らしい澄ましこんだ面々から絶え間なく谺する咳、咳、咳、飲食禁止の場所からなぜか奏でらるる飴の包みを剥く調べ──
本當に静まり返ったのは、曲が終はってシテが揚幕へ入り始めてから。
隣席の高齢男性が、上演中の大半を冥界へ假死旅行してゐた可笑味が、今日いちばんのお土産。