横浜市保土ケ谷区の岩間市民プラザで、恒例となった坂本頼光による「サイレントシネマ&活弁ワールド」を樂しむ。
昨年七月に同じ横浜市内でヒドヰ活辯イベントに出くはしたおかげで、却って坂本頼光の良さを再認識しただけに、十回目になる今回の上映会は特に樂しみにせり。
この上映会で特に好きなのは、挨拶と作品解説はマイクを使はず、肉聲で行なふこと。
──マイクに唇をくっ付けなければ何も人に聞かせられない見られたがりは、よく見習ふべし。
今回の映画は邦画と米画の二編で、共通点は“男前”。
初めの「一心太助」は昭和六年(1931年)の正月映画として封切られた、若き日の片岡千恵蔵の主演作。
この“御大”は忠臣蔵の大石内蔵助、遠山の金さん、そして晩年にTV時代劇「大岡越前」に大岡忠高役で出演してゐるのをいづれもリバイバルで観てゐるが、剣戟シーンの印象はない。
それは、本人があまりチャンバラが得意ではなかったから、と云ふことを坂本頼光の解説で初めて知る。
この映画はいくつかの挿話をつなげた市井劇で、劇中で何度も魅せる溌剌とした笑顔は、まさに“若さの特権”なり。
二本目は「ロイドの要心無用」(1923年 米)で、チャップリン、キートンと並ぶ喜劇王ハロルド・ロイドの最高傑作のひとつ。
近頃、男女問はず、そして大して似合ひもしないのに大きな丸メガネを掛けてゐる者をよく見掛けるが、そんな無個性者たちのメガネの原型が、この喜劇王のトレードマークだった“ロイドメガネ”だとしたら、當人に失礼だらうか。
ロイドが演じる“THE BOY”は都会的な美男子で、次々に襲ひかかる災難にもみくちゃにされながら、しかし機転を利かせて切り抜けていく展開が面白くて飽きさせない。
大時計の針にぶら下がる有名なシーンもさることながら、デパートのバーゲンセールに乞食同士の奪ひ合ひの如く殺到する御婦人方、そしてロイドが禿げ頭を鏡に見立てて髪を整へるシーンに痛烈な皮肉を感じ、思はず笑ふ。
ロイドのルームメイト役の俳優がなかなかの好助演、それを坂本頼光の活辯が樂しく引き立て、大出来大出来!