東京都港区南青山の根津美術館で開催中の企画展、「酒呑童子絵巻──鬼退治ものがたり──」を見る。
源頼光と四天王の一行が山伏に姿を変へて酒呑童子に接近し、毒酒を吞ませて見事に討ち取る話しは、謡曲「大江山」をはじめ様々に藝能化され、よく知られたところ。
酒呑童子の棲み家は大江山と伊吹山の二ヶ所が伝へられ、今回全八巻が公開された“住吉弘尚(すみよし ひろなお)版”は後者。
前半、酒呑童子の生ひ立ちが四巻にわたって詳細に描かれてゐるのが特徴。
かつて素戔嗚尊に退治され、のちに伊吹明神となった八岐大蛇の霊魂と、郡司“須川某”女との間に生まれた童子は、三歳にして酒を覚へ、しだいに酒乱となったため、比叡山へ禁酒修業に出される。
しかし、宮中の祝ひ事で「鬼踊り」を披露した労ひの酒によって再び狂気がよみがへった童子は、乱暴を働き比叡山を追はれる。
そしてつひには夢枕に現れた父•伊吹明神の戒めすらも破り、童子は人食ひ鬼と化す──
それから百年後、かの有名な鬼退治へと話しはつながっていくわけだが、全巻を通して見ると、なかなか壮大かつ緊密な構成をもつ、見応へある物語であることがわかる。
そして、荒唐無稽のやうでじつは人間の性(さが)を鋭く抉った物語であることを、住吉弘尚はその華麗な筆遣ひで余すことなく描ひてゐる。
酒呑童子の背が高く肥へた体を、織物の着物と緋袴で包み、髪は子どものやうに肩の高さで切り揃へた姿──
奇怪のやうで、しかしよく見れば、大酒飲みの実際を写実にとらへたものであることは、その弛(たる)んだ瞼を見れば瞭然である。
家来の鬼“おこう”が、
「客人(まらうど)は いかなるあしの迷ひにて 酒や肴に今宵なるらん」
と歌ひ踊れば、
「年を経し 鬼の岩屋の雲霧も 風も夜の間に吹き払ふべき」
と、四天王のひとり坂田金時は返して歌ひ踊る──
歌を書き留めてゐた私も、
いつしか妖しい酒に酔ひしれ、
血のしたたる白腕を前に、
手拍子をうつ……。
源頼光と四天王の一行が山伏に姿を変へて酒呑童子に接近し、毒酒を吞ませて見事に討ち取る話しは、謡曲「大江山」をはじめ様々に藝能化され、よく知られたところ。
酒呑童子の棲み家は大江山と伊吹山の二ヶ所が伝へられ、今回全八巻が公開された“住吉弘尚(すみよし ひろなお)版”は後者。
前半、酒呑童子の生ひ立ちが四巻にわたって詳細に描かれてゐるのが特徴。
かつて素戔嗚尊に退治され、のちに伊吹明神となった八岐大蛇の霊魂と、郡司“須川某”女との間に生まれた童子は、三歳にして酒を覚へ、しだいに酒乱となったため、比叡山へ禁酒修業に出される。
しかし、宮中の祝ひ事で「鬼踊り」を披露した労ひの酒によって再び狂気がよみがへった童子は、乱暴を働き比叡山を追はれる。
そしてつひには夢枕に現れた父•伊吹明神の戒めすらも破り、童子は人食ひ鬼と化す──
それから百年後、かの有名な鬼退治へと話しはつながっていくわけだが、全巻を通して見ると、なかなか壮大かつ緊密な構成をもつ、見応へある物語であることがわかる。
そして、荒唐無稽のやうでじつは人間の性(さが)を鋭く抉った物語であることを、住吉弘尚はその華麗な筆遣ひで余すことなく描ひてゐる。
酒呑童子の背が高く肥へた体を、織物の着物と緋袴で包み、髪は子どものやうに肩の高さで切り揃へた姿──
奇怪のやうで、しかしよく見れば、大酒飲みの実際を写実にとらへたものであることは、その弛(たる)んだ瞼を見れば瞭然である。
家来の鬼“おこう”が、
「客人(まらうど)は いかなるあしの迷ひにて 酒や肴に今宵なるらん」
と歌ひ踊れば、
「年を経し 鬼の岩屋の雲霧も 風も夜の間に吹き払ふべき」
と、四天王のひとり坂田金時は返して歌ひ踊る──
歌を書き留めてゐた私も、
いつしか妖しい酒に酔ひしれ、
血のしたたる白腕を前に、
手拍子をうつ……。