△櫻の園(2008年 日本 102分)
監督 中原俊
△奇蹟は二度起きない
1990年に『櫻の園』が撮られたとき、ぼくはその面白さにびっくりした。
実をいえばまるで期待していなくて、なかば偶然に観ただけだったのだけれども、上映が終わって席を立つ段になって「いや~すごいおもしろかった」とおもわず声を洩らしたくらいの出来映えだった。中原俊がここまで抒情的な映画を撮り上げるとはおもってもみなかったし、このままこういう方向で映画を撮っていってくれればいいのにとおもったりもした。その中原俊がふたたび『櫻の園』を撮ったという。期待しない方がおかしいだろう。
ところが、この2008年版だが、ぼくはその出来にびっくりした。
出来が良かったか悪かったかについて書くのはやめよう。ものをつくる人間にとって悪口を書かれることほど嫌なものはないだろうし、その映画がどうして現在のような仕上がりになってしまったかは、監督がいちばんよくわかっているはずだから。映画は、雑に作ろうとか、冗漫に仕上げようとか、美しさを否定しようとか、そんな気持ちで撮っているはずはないんだけれども、ときに、その女優の起用について監督の意見など歯牙にもかけられないことはままある。というより、そういう場合は、演出よりも出演者の方が先に決まっていたりする。この作品がどんな経緯でどうして制作されたのかは知らないけれど、ともかく、1990年のような奇蹟は起きなかった。それだけのことだ。