◎ギルバート・グレイプ(1993年 アメリカ 118分)
原題 What's Eating Gilbert Grape
監督 ラッセ・ハルストレム
◎ギルバートを食っているのはなんだ?
故郷、家族、兄弟、愛人、単純労働つまりしがらみなんだけど、それは結局、ギルバート自身の優しさなんだよね。
家族や故郷を愛している者は誰でも似たような呪縛を受けている。その家族が人前に出られないほど肥えてしまった母や知恵遅れの弟レオナルド・ディカプリオであったりしたら、どうだろう。まわりの連中から同情的な目で見られる環境であれば、なおさらだ。外へ出てみたいという本能的な欲求は、年増の人妻メアリー・スティーンバージェンとの不倫に向けられてるんだけど、それも限界がある。自由でいたいと身悶えるようにおもうけれど、それはできない。たまらない立場だ。
そうしたギルバードことジョニーデップの気持ちは痛いほどによくわかる。
でも、人間はときにはなにもかもを棄てて旅立たないといけない。そんなことはギルバートもわかってるんだけど、それができない。ただ、お母さんもやっぱり母親で、そういうギルバートの重荷になってることをようやく気づくんだよね。それが焼死という結果に追い込まれてしまうのはつらいところだけどさ。けど、物事を理性的に考えられる母親はまだいいけど、知恵遅れの弟はどうしようもない。これ以上おれを食べないでくれと叫びたいよね。
こういう境遇の青年が旅立ちを迎えるのに必要なきっかけになるのは、もちろん、恋だ。放浪の民の娘ジュリエット・ルイスがその相手なんだけど、いやまあ、ほんとに上手に物語が展開していく。ラッセ・ハルストレム、上手だわ。