Kinema DENBEY since January 1. 2007

☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

ひろしま

2019年09月05日 00時39分41秒 | 邦画1951~1960年

 ◇ひろしま(1953年 日本 104分)

 監督/関川秀雄 音楽/伊福部昭

 出演/岡田栄次 山田五十鈴 月丘夢路 加藤嘉 信欣三 原保美 梅津栄 下條正巳

 

 ◇広島市民のエキストラ

 なんてまあ数なんだろう。

 当時、どのようにして人を集めたのかわからない。もしかしたら学校動員みたいな形だったのかもしれないし、日教組の製作だからおそらくそんな感じで集められたんだろうけど、それにしても凄い数だ。なんとなく木下恵介の『陸軍』をおもいだした。まるで制作側の立場が違うけれども、人間が動員されるとき、なにやらとてつもないことが起きないと雲霞のようなエキストラは集まらない。

 この映画は、当時、日教組によるプロパガンダだといわれた。でも、それから半世紀以上も経った今、左右どちらのプロパガンダにしてもそういう色眼鏡で映画を観たところで仕方がない。少なくとも僕はそうおもう。要は、この作品が映画として面白かったかどうかっていうだけのことだ。

 信欣三が、戦争継続をうそぶく軍人から目をそらして、会議室の窓に蛾が飛んでいるのを見つける。飛んで火に入る夏の虫って意味だろうか。象徴として、関川秀雄はそう考えたんだろうか。

 見ていて、なんだか後半の方向性がちがうなって感じた。戦災孤児の話に焦点が移っていっちゃって、まあそれはそれで製作の意図のひとつなんだろうとおもったけどね。

 ただ、その孤児の描き方なんだけど、兄妹が母親の死に際に対面したとき、そのあまりの悲惨さに妹が目を背け、いきなり走り出しちゃうんだけど、まっすぐに走るんだよね。ひたすら、まっすぐ。

 子供ってのはそうで、左右がまったく目に入らなくなっちゃって、もう止まらない。で、この妹もそのまま行方知れずになっちゃうんだけど、昔から神隠しに遭う子供の何割かはどうやらこういう状況らしい。

 もしもそれがほんとうなら、関川秀雄、さすがだわ。よく子供の習性を研究してから撮影に入ってるわ。

 それはさておき、被爆して死んだ人の遺骨を防空壕から掘り出して「ハロー」とかれらが呼んでいる米兵や外国人に売ろうとするのは凄いな。宮島の蛇の絡み付いた髑髏の土産物の場面がこの伏線になってるとはおもわなんだけど「人類の歴史上最大にして最高の栄光この頭上に輝く、1946年8月6日」という文章の英訳を髑髏の額に貼りつけて売ろうとするんだから戦後を生き抜いていこうとする連中の逞しさだね。

コメント