◇早春(1956年 日本 144分)
監督/小津安二郎 音楽/斎藤高順
出演/淡島千景 池部良 岸惠子 笠智衆 山村聰 杉村春子 浦邊粂子 三宅邦子 加東大介
◇池部良と岸惠子、唯一の小津作品
なんとも珍しいのは、移動撮影だ。
ハイキングで江ノ島に行ったとき、何カットも移動なんだよ。左から右のカットなんだけど、へ~、小津が移動ね~。
すき焼きをするとき百匁でいいわねと聞くと、淡島千景がうちはいつも五十匁というんだけど、一匁は3.75㌘だから当時はやっぱり肉が高かったんだなあ。戦友仲間の会でつ~れろ節を歌うんだけど、なんだかな。加藤大介らは、朝鮮では犬を殺してすき焼きをやったらしい。この宴会の台詞は、リアルだわ。
それはそれとして、全体的にちょっとだれるな。
でもまあ簡単にいってしまえば、岸惠子と不倫する物語なんだけど、けっこうリアルだったりする。
お好み焼き屋の個室で池部良と岸惠子がキスするんだけど、へ~小津がね~っておもった。
抜き差しならない関係になると「あたし、あんたのこと、もっと好きになった気がする」となる。で、池部良の方はといえば情事に至る前も後もつっけんどんなんだよね。まあそんなことはともかく、サラリーマンの転勤ってのは面倒で嫌だなとおもってたんだけど、そのせいで不倫が一区切りしちゃうんだね、なるほど。
もちろん別れたくない場合はまた別な展開なんだろうけど。
ま、この物語の転勤は、ほぼまちがいなく左遷で、会社に同僚との不倫がばれたってことなんだろうけど、上司の中村信郎はそんなことおくびにも出さない。腹にいちもつある役はほんと上手だ。
そうおもうと、転勤ってのは人生の節目なんだね。日々の暮らしのリセットっていうか。そのたびごとに新たな出会いと生活になるわけだね。あらためておもったわ。
しかし蒲田駅のあたりも当時は田舎なんだね。ホームの水抜きから水がだあだあ流れ落ちてて、へ~あんなに水が抜けるんだ~て感心したりもするけど、それにしてもこんなのんびりした国がよく戦争したもんだと、加藤大介たちの兵隊会を見てておもった。
ま、淡路千景のいうとおりで「あんなんだから、日本負けたのよ」だよね。
で、山本和子なんだけど『東京暮色』で雀荘の客でやけに綺麗なモダンガールを演じてて、今度はチャコていうあだ名のOLさんだ。いつも軽やかで美人だね。
それと、山村聡、脱サラして純喫茶を営んでるんだけど、けっこう知的で、のんびりやってる。これはこれで幸せなのかなとおもわせるね。