Kinema DENBEY since January 1. 2007

☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

さくらん

2019年09月15日 17時59分53秒 | 邦画2007年

 ▽さくらん(2007年 日本 111分)

 監督/蜷川実花 音楽/椎名林檎

 出演/土屋アンナ 椎名桔平 成宮寛貴 木村佳乃 菅野美穂 小泉今日子 永瀬正敏

 

 ▽安野モヨ子『さくらん』より

 つまらん。

 スタッフやキャストはサブカルの代表を網羅したような風味で、なんとなく女郎屋をおしゃれな空間に仕立てた感じにしてみたっていう受け止め方しかできない。

 これ、いったいなにがおもしろいとおもって撮ったんだろう?

 原作を知らないから勝手なことをいってるんだけど、でもこの映画については、映像だけは綺麗なんだけどそれ以上でもそれ以下でもなかった。

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DESTINY 鎌倉ものがたり

2019年09月14日 12時31分45秒 | 邦画2017年

 ◇DESTINY 鎌倉ものがたり(2017年 日本 117分)

 監督・脚本/山崎貴 音楽/佐藤直紀

 出演/堺雅人 高畑充希 堤真一 要潤 鶴田真由 薬師丸ひろ子 田中泯 三浦友和

 

 ◇西岸良平『鎌倉ものがたり』より

 ふ~ん、山崎貴って昭和時代が好きなんだね。単純にそうおもってしまった。たぶん、ぼくと同時代の人なんだろうけど。

 ま、それはともかく、黄泉の国へ向かう江ノ電が「げんせ」っていう駅から浜辺をゆくんだけど、ぼくは波打ち際へ向かって線路が途切れてるから、その先は波を越えて行くんだとおもってた。でもちがってたな~。

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暗黒神話

2019年09月13日 12時05分39秒 | 邦画1981~1990年

 ◇暗黒神話(1990年 日本 100分)

 監督/安濃高志 音楽/川井憲次

 出演/佐々木望 鈴木瑞穂 茶風林 川村万梨阿 速水奨 鶴ひろみ

 

 ◇諸星大二郎『暗黒神話』より

 その昔、といっても高校生の頃だったか、この原作はくりかえしくりかえし読みふけった。

 だからといって、もともと日本の古代神話には興味があったものの、実はなんの知識もなく、ただ漠然とした憧れを持っているだけだった。

 もちろん、古代縄文人だの蛇紋縄文土器だの熊襲だの竹内宿禰だの知っているはずもないし、まあ、なんにも知らない学生が胸をときめかせて古代史に憧れるのはごく普通のことなんだとおもうけどね。

 ただ、あらためておもってみれば、古代史は物語には使いやすい。言葉は悪いが自分のおもっている物語に都合よくあてはめてゆけるからで、とはいえ、生半可な知識でそんなことをすればすぐに墓穴を掘ることになるし、顰蹙や失笑を買うことになる。そういうところからいえば、諸星大二郎は凄いな。

 国東半島、行きたいな~。

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大殺陣

2019年09月12日 23時10分27秒 | 邦画1961~1970年

 ◇大殺陣(1964年 日本 118分)

 監督/工藤栄一 音楽/鈴木静一

 出演/里見浩太朗 平幹二朗 大木実 大友柳太郎 三島ゆり子 宗方奈美 稲葉義男 山本麟一

 

 ◇新吉原の戦い

 細かいところは変えてみたものの、結局は『十三人の刺客』の亜流に留まらざるを得ないのがつらいところで、工藤さんも苦労したんだろうけど、ここはやっぱり新吉原が舞台になってるんだから、そこの連中の目撃する甲府宰相襲撃にした方がよかったんじゃないかしら。

 ただ、人物の設定に強引さがあってどうも中途半端な印象は受ける。

 酒井忠清の治世が良くないといい、次期将軍の命をとればその野望を挫くことができると。でも、それは結局、将軍は跡目争いでしかない。

 どこに庶民も納得できるような襲撃理由があるのかわからないし、襲撃する連中の性根もまた善くない。

 唯一のヒロイン三島ひろ子は無残にも斬り捨てられるし、宗方奈美はふたりに犯されちゃったりでなんだか哀れだ。優しさが売り物の大坂四郎は幼な子もふくめた家族全員を惨殺してから襲撃に参加するし、もはや、夢も希望もない。玉砕に向かってなかば発狂状態になってる連中の襲撃でしかない。

 結局、単に引きずられてしまった感じがする里見浩太朗の惨殺されるところをまのあたりにした平幹二朗が、まるで関係なかったはずなのに、一夜を共にしただけの友とも呼べない里見浩太朗の死にざまに突き動かされて、宰相襲撃を果たすっていう最後はわからないではないけれども。

 まあ、半狂乱になった大友柳太郎が、必死になって行列をたてなおし、見せかけの宰相行列が動き出すところで終わるところだけは、なんとなく当時の雰囲気がして、まあまあよかったけどね。

 でも、なんていうのかな、工藤さんのダンディズムっていうか、ちょっぴり斜に構えて、でも正義感はあって、散っていくことに魅力を感じちゃうところはわかるからな~。

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ぼくのおばあちゃん

2019年09月11日 14時36分23秒 | 邦画2008年

 ▽ぼくのおばあちゃん(2008年 日本 123分)

 監督/榊英雄 音楽/榊いずみ

 出演/菅井きん 岡本健一 阿部サダヲ 清水美沙 深浦加奈子 石橋蓮司 柳葉敏郎 桐谷健太

 

 ▽結髪出身の

 髪結いさんをしてきたおばあちゃんの思い出と木下工務店の営業マンが回想していく話なんだけど、だれる。

 しみじみしたものを期待してた。でも、無駄な軽さとおどけが邪魔をして、さらには編集のキレが悪すぎて、かなりきつかったわ。

 原作を読んでないからわからないものの、つらいな。

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早春

2019年09月10日 13時53分12秒 | 邦画1951~1960年

 ◇早春(1956年 日本 144分)

 監督/小津安二郎 音楽/斎藤高順

 出演/淡島千景 池部良 岸惠子 笠智衆 山村聰 杉村春子 浦邊粂子 三宅邦子 加東大介

 

 ◇池部良と岸惠子、唯一の小津作品

 なんとも珍しいのは、移動撮影だ。

 ハイキングで江ノ島に行ったとき、何カットも移動なんだよ。左から右のカットなんだけど、へ~、小津が移動ね~。

 すき焼きをするとき百匁でいいわねと聞くと、淡島千景がうちはいつも五十匁というんだけど、一匁は3.75㌘だから当時はやっぱり肉が高かったんだなあ。戦友仲間の会でつ~れろ節を歌うんだけど、なんだかな。加藤大介らは、朝鮮では犬を殺してすき焼きをやったらしい。この宴会の台詞は、リアルだわ。

 それはそれとして、全体的にちょっとだれるな。

 でもまあ簡単にいってしまえば、岸惠子と不倫する物語なんだけど、けっこうリアルだったりする。

 お好み焼き屋の個室で池部良と岸惠子がキスするんだけど、へ~小津がね~っておもった。

 抜き差しならない関係になると「あたし、あんたのこと、もっと好きになった気がする」となる。で、池部良の方はといえば情事に至る前も後もつっけんどんなんだよね。まあそんなことはともかく、サラリーマンの転勤ってのは面倒で嫌だなとおもってたんだけど、そのせいで不倫が一区切りしちゃうんだね、なるほど。

 もちろん別れたくない場合はまた別な展開なんだろうけど。

 ま、この物語の転勤は、ほぼまちがいなく左遷で、会社に同僚との不倫がばれたってことなんだろうけど、上司の中村信郎はそんなことおくびにも出さない。腹にいちもつある役はほんと上手だ。

 そうおもうと、転勤ってのは人生の節目なんだね。日々の暮らしのリセットっていうか。そのたびごとに新たな出会いと生活になるわけだね。あらためておもったわ。

 しかし蒲田駅のあたりも当時は田舎なんだね。ホームの水抜きから水がだあだあ流れ落ちてて、へ~あんなに水が抜けるんだ~て感心したりもするけど、それにしてもこんなのんびりした国がよく戦争したもんだと、加藤大介たちの兵隊会を見てておもった。

 ま、淡路千景のいうとおりで「あんなんだから、日本負けたのよ」だよね。

 で、山本和子なんだけど『東京暮色』で雀荘の客でやけに綺麗なモダンガールを演じてて、今度はチャコていうあだ名のOLさんだ。いつも軽やかで美人だね。

 それと、山村聡、脱サラして純喫茶を営んでるんだけど、けっこう知的で、のんびりやってる。これはこれで幸せなのかなとおもわせるね。

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東京暮色

2019年09月09日 23時28分18秒 | 邦画1951~1960年

 ◇東京暮色(1957年 日本 140分)

 監督/小津安二郎 音楽/斎藤高順

 出演/原節子 笠智衆 山田五十鈴 有馬稲子 宮口精二 藤原鎌足 浦辺粂子 杉村春子 山村聰

 

 ◇小津版エデンの東

 キネ旬19位とはおもえないがそれでもまだ健闘したのかもしれない。

 有馬稲子が情夫を訪ねてゆくのは大崎広小路の相生荘というところなのだが、東急池上線、当時から高架なのね。有馬稲子の情夫どもの溜まり場になってる満洲チャムス帰りの山田五十鈴と中村信郎の営む雀荘は『壽荘』で荘、荘と続く。原節子の旦那は岸欣三なんだか、ウヰスキーをショットグラスで呑み、日本のウヰスキーも善くなりましたねという。なるほど、そういう時代なのね。

 ちなみに、有馬稲子が深夜喫茶にいるのを宮口精二に補導され、原節子が身元引き受けに行ったとき「申し訳ございません」という。そうか、このまちがった日本語は「申し訳ない」の小津調のいいまわしだったのか。そのあと、家に帰ると笠智衆が炬燵に入ってるんだけど、原節子が「あら、まだ起きてらしたの?」と尋ねる。そうか、い抜き言葉も小津調だったのか。

 してみると、この辺の言葉回しは戦後の山の手言葉といえるんじゃないかな。

 有馬稲子が堕胎するために手術室に入ってゆくんだけど、場面が変わると最初のカットが出戻ってきた原節子の二歳の娘になってる。狙いどおりの繋ぎだね。そこへ有馬稲子が帰ってくる。気分が悪くなるがなにもしらない原節子は「どうしたの?風邪?」と訊く。蒲団を敷いてやるが、待っている有馬稲子の目にまた二歳の娘が入ってくる。有馬稲子は顔をおおって泣く。うまいなあ。

 ここと有馬稲子の本当の母の山田五十鈴のところを原節子が訪ねてゆくところはさすが小津だ。

 あ、それと、下村義平こと藤原鎌足がおやじになってる珍々軒でやけ酒食らって彼氏がやってきて頬っぺた叩いて飛び出して踏み切りに見いられて跳ねられたとき、それを店の奥からとその切り返し、さらに店の立てネオン看板を前傾姿勢に入れ込んだ踏み切りのロングだけで見せるんだけど、このあたりもほんとに上手い。

 ただ、珍々軒から飛び出した有馬稲子が踏切に飛び込んで自殺をはかり、鎌足が「おい、なんかあったのかい」と駆け出していったとき、後に残された彼氏の前に練炭ストーブがあるんだけど、掛けられてるヤカンから蒸気が出てないんだよね。沸騰しててほしかったな。

 ちなみに、踏切番が「小便に行ってる隙をついた」と証言するんだけど、このあたり、まったく時代を感じるね。

 ところで、有馬稲子の死を原節子に知らされた後、居酒屋で「一本つけてちょうだい」という山田五十鈴なんだが、この人差し指を軽く延ばしたままお猪口をかたむける動作がなんともかっこいい。そこへやってきて「おい、どうした?」と隣に腰掛ける中村信郎がまた堂に入ってる。粋だな。

 まあ、病院でも亡くなるところは見せず、山田五十鈴の店の前にやってくる喪服の原節子で語り、八つ当たりのように有馬稲子が死んだと告げ、お母さんのせいとだけいってさっさと帰る原節子の凄さと、そのあとひとりで居酒屋にいる山田五十鈴のところへ麻雀屋に落ちぶれていた中村伸郎が来てそれまで渋っていた北海道行きを承知し、さらにその旅立ちの日、花束を持って原節子を訪ね、別れの後、ひとり泣き崩れる原節子という一連の場面繋ぎは流石といわざるをえない。

 それと、駅で列車に乗り込みながらも、原節子が見送りに来てくれるかどうか諦めきれない山田五十鈴と冷静な中村伸郞のやりとりから、結局、後ろ髪をひかれながらも自宅にいて笠智衆に嫁ぎ先へ帰る決意を口にする原節子というまったく安直さのない展開も悪くない。こうした非情ぶった展開は小津的な非情さで、リアリズムでもあるよね。

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デトロイト

2019年09月08日 23時14分18秒 | 洋画2017年

 ◇デトロイト(2017年 アメリカ 143分)

 原題/Detroit

 監督/キャスリン・ビグロー 音楽/ジェームズ・ニュートン・ハワード

 出演/ジョン・ボイエガ ウィル・ポールター ハンナ・マリー ケイトリン・ディーヴァー

 

 ◇1967年7月23日、12番街暴動

 後味は、決してよくない。

 ただ、暴動の最中、おもちゃの銃を射ったことで狙撃と勘違いされて殺され、またその際に無理難題を吹っ掛けられて殺された黒人たちに対して憐愍があったかなかったかはよくわからないけど、ともかく人種差別が雪だるま式に悲劇を生んでゆく過程はよくわかった。

 キャスリン・ビグローはいったい誰の目を通してこの暴動を見つめていきたかったんだろうと。もちろん、ジョン・ボイエガの演じた警備員メルヴィン・ディスミュークスだとはおもうんだけど、それだったらそれなりの筋立てが書けたんじゃないかしらね。

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未来のミライ

2019年09月07日 01時07分05秒 | 邦画2018年

 △未来のミライ(2018年 日本 98分)

 原作・脚本・監督/細田守 音楽/高木正勝

 出演/上白石萌歌 黒木華 星野源 麻生久美子 宮崎美子 役所広司 福山雅治

 

 △この未来の現実味はどうなんだ?

 いきなりエンドロールみたいな始まりはなるほど題名の意味なのね。

 子役のくんちゃんの声がまったく大人で、ちょいと気持ちが悪い。

 しかし、雪は凄いな。たいしたもんだな。このくんちゃんにいきなり『あなたが生まれてくるまでこの家の王子だった者』とかいうおんぼろな犬男が出てくるんだけど、そいつの台詞は子供に対するものではなくて映画を観ている観客に対するものとしかおもえないのがなんともな~。

 大人目線のくんちゃんなんだよね。この台詞から受ける感覚は外国人にはわからないのかもね。

 てか、良い家族すぎないか。理想的な家族に町、家の中にいるのにいい服着て今どきエプロンして家政にいそしむ主夫、僕にはちょいと息苦しい。しかしこの若夫婦は頭が悪い設定なのかどうかわからないが先に生まれた子をわざとないがしろにしてる感じがし過ぎな気もするのよ。

 それといっていいかな。この雛人形をしまうのは、旧暦なのかしら。

 もひとついえば、このくんちゃん、お母さんの昔の写真見て綺麗とか痩せてるとかいわんだろ普通。いくつだよ。お母さんに鬼婆化した絵上手すぎだし。魚と水のイメージはさすがに上手だな。

 しかし、赤い雨傘の女の子てかお母さんの子供時分だが、どこから見ても頭の良い子が家の中をめちゃくちゃにするかな?しないんじゃないかな。

 単発の飛行機エンジンを作ってたひいじいさんと馬で駈けるのと、ミライに連れられてファミリーツリーに飛び込んでからのイメージの羅列は良い感じで、足の悪いひいじいさんとひいばあさんの駆けっこはまあ想定内ではあるけど、これもまた良い感じだった。

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バイス

2019年09月06日 00時21分31秒 | 洋画2018年

 ◎バイス(2018年 アメリカ 132分)

 原題 Vice

 監督・脚本/アダム・マッケイ 音楽/ニコラス・ブリテル

 出演/クリスチャン・ベール エイミー・アダムス サム・ロックウェル エディ・マーサン

 

 ◎史上最強にして最悪の副大統領

 実際、ディック・チェイニーはそんなふうに呼ばれていたらしい。

 まあ、この題名の「バイス」も掛詞になってるみたいだし、そういうところからして、この作品がブラックユーモアに満ちたものだってことは想像がつく。最後のタイトルもチェイニーの趣味のフライフィッシングのフライが出てくるんだけど、そこに心臓を模したものがあったり、ブッシュの誘いを優柔不断に受けながら自分の意のままにしていかにもしぶしぶ副大統領になるのを承諾したように見せかけたときもこのフライは上手にインサートされてた。

 ただ、ラスト、心臓の移植手術を受けて復活したチェイニーのインタビューの後、これでエンドロールかとおもいきや、また市民討論会がぶりかえしてこの後のアメリカを匂わすような展開になってるんだけど、これは蛇足だね。

 ま、それはさておき、特殊メイクは見事だった。役作りのために18㌔も太ったクリスチャン・ベールの相変わらずの役者魂には脱帽するけど、同時にメイクの妙は大したものだった。クリスチャン・ベールだけでなく、ブッシュをまぬけぶりを見事に演じてみせたサム・ロックウェルのメイクも実に大したものだった。エイミー・アダムズの小皺もそうだし、こういうところ、ハリウッドは徹底してるね。

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ひろしま

2019年09月05日 00時39分41秒 | 邦画1951~1960年

 ◇ひろしま(1953年 日本 104分)

 監督/関川秀雄 音楽/伊福部昭

 出演/岡田栄次 山田五十鈴 月丘夢路 加藤嘉 信欣三 原保美 梅津栄 下條正巳

 

 ◇広島市民のエキストラ

 なんてまあ数なんだろう。

 当時、どのようにして人を集めたのかわからない。もしかしたら学校動員みたいな形だったのかもしれないし、日教組の製作だからおそらくそんな感じで集められたんだろうけど、それにしても凄い数だ。なんとなく木下恵介の『陸軍』をおもいだした。まるで制作側の立場が違うけれども、人間が動員されるとき、なにやらとてつもないことが起きないと雲霞のようなエキストラは集まらない。

 この映画は、当時、日教組によるプロパガンダだといわれた。でも、それから半世紀以上も経った今、左右どちらのプロパガンダにしてもそういう色眼鏡で映画を観たところで仕方がない。少なくとも僕はそうおもう。要は、この作品が映画として面白かったかどうかっていうだけのことだ。

 信欣三が、戦争継続をうそぶく軍人から目をそらして、会議室の窓に蛾が飛んでいるのを見つける。飛んで火に入る夏の虫って意味だろうか。象徴として、関川秀雄はそう考えたんだろうか。

 見ていて、なんだか後半の方向性がちがうなって感じた。戦災孤児の話に焦点が移っていっちゃって、まあそれはそれで製作の意図のひとつなんだろうとおもったけどね。

 ただ、その孤児の描き方なんだけど、兄妹が母親の死に際に対面したとき、そのあまりの悲惨さに妹が目を背け、いきなり走り出しちゃうんだけど、まっすぐに走るんだよね。ひたすら、まっすぐ。

 子供ってのはそうで、左右がまったく目に入らなくなっちゃって、もう止まらない。で、この妹もそのまま行方知れずになっちゃうんだけど、昔から神隠しに遭う子供の何割かはどうやらこういう状況らしい。

 もしもそれがほんとうなら、関川秀雄、さすがだわ。よく子供の習性を研究してから撮影に入ってるわ。

 それはさておき、被爆して死んだ人の遺骨を防空壕から掘り出して「ハロー」とかれらが呼んでいる米兵や外国人に売ろうとするのは凄いな。宮島の蛇の絡み付いた髑髏の土産物の場面がこの伏線になってるとはおもわなんだけど「人類の歴史上最大にして最高の栄光この頭上に輝く、1946年8月6日」という文章の英訳を髑髏の額に貼りつけて売ろうとするんだから戦後を生き抜いていこうとする連中の逞しさだね。

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私はシベリヤの捕虜だった

2019年09月04日 00時03分05秒 | 邦画1951~1960年

 ◇私はシベリヤの捕虜だった(1952年 日本 86分)

 監督/阿部豊 志村敏夫 製作/シュウ・タグチ

 

 ◇CIAによるプロパガンダ

 事実かどうかは知らないし、この映画が制作された当時、たしかに東西冷戦は始まっていた。

 映画にはいろんな映画があって、公開された時代によって製作意図も効果もちがっていたんだろうけど、今になって観てみれば、なんでこれくらいな暴露にアメリカもソ連も目の色を変えてたんだろうって気も湧いてくる。

 なるほど、いかにも、まことしやかに、当時、シュウ・タグチに対してCIAが働きかけて、日本の赤化を阻止しようとして、ソ連はシベリア抑留っていうこんなに非人道的なことをしでかし、さらには民主化とかうそぶいて洗脳まで施していたのだっていう、映画による宣伝工作を仕掛けたとされた。

 うそかほんとか、ぼくは知らない。

 でもまあ、当時の観客の心を逆撫でしたのは事実かもしれないし、この映画に描かれていることの何倍も、抑留者は苦労したにちがいない。

 実際、ぼくの伯父は、シベリアに抑留されていたし、実家のとなりの歯医者のおじちゃんもそうだった。学徒出陣で関東軍に配属された父親は命からがら逃げ帰ってきたようだけれど、そういう境遇からすれば、シベリア抑留とソ連侵攻は決して他人事じゃないんだな。

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運び屋

2019年09月03日 17時11分47秒 | 洋画2018年

 ◇運び屋(2018年 アメリカ 116分)

 原題 The Mule

 監督・主演/クリント・イーストウッド 音楽/アルトゥロ・サンドバル

 出演/ブラッドリー・クーパー ローレンス・フィッシュバーン ダイアン・ウィースト アンディ・ガルシア

 

 ◇The Sinaloa Cartel's 90-Year-Old Drug Mule

 2014年のニューヨーク・タイムズの記事は、そんなタイトルだったらしい。

 高評価なのは、イーストウッドへの賛辞を呈したということになるんだろう。

 主人公が頑固で偏屈でこだわりが強くて利かん気という設定は『グラン・トリノ』と同じっていうか、まあいつものイーストウッドなんだけれども、これまでと違うのは違法を犯しているかどうか、さらにそれを気づきながらもまだ続けてゆくという設定だ。これがどうにも腑に落ちない。

 イーストウッドは周りの誰が認めようとも、自分が違法を犯してしまうことに堪え切れないほどの嫌悪を抱き、そのくそったれにちかいような根性が最後に爆発するところがいいと、個人的にはおもってる。だから、このたびも前評判が良かったからなおさら、あ~これは最後には、この白いブツを運び続けた車でパトカーを先導あるいはわざと追跡させ、自分の命を懸けても麻薬カルテルを撲滅させるか、そこまで行かないながらも一発食らわしてくれるんだろうなって期待したんだけど、はずれた。

 被告人席に立ったイーストウッドの「ギルティ」っていう苦み走ったひと言だけだ。なんだかな~。

 たしかに、描かれてる麻薬密売組織は、この実際の運び屋に園芸家のエル・タタことレオ・シャープ爺さんがどうかしたところでびくともしなかったろうし、ここで嘘っぱちの展開をさせることに作り手は躊躇したかもしれないけれど、そこはそれ、映画なんだから、もう少し別な展開があってもいいんじゃないかっておもうんだけどね。

 でも、90歳の主人公の映画ってなかなかないし、そうしたところからすれば、たしかにイーストウッドは凄いとはおもうけどさ。それにひきかえ、アンディ・ガルシアの太ったことといったら、なんだか悲しくなったわ。

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葛根廟事件の証言

2019年09月02日 18時04分19秒 | 邦画2019年

 ◇葛根廟事件の証言(2019年 日本 74分)

 監督・撮影・録音・編集・製作/田上龍一

 出演/大島満吉

 

 ◇葛根廟の悲劇

 昭和20年8月14日、葛根廟で1000名を超える邦人が犠牲になったことを知る日本人は少ない。

 それを仕出かしたのはソ連の侵略にほかならない。もちろん、すべてがソ連の銃爆撃をまともに蒙ったわけではなく、中にはみずから命を絶たざるを得なかった人々もいる。だが、その引き鉄になったのは日ソ中立条約を一方的に破棄したソ連の、満洲や樺太や千島列島への侵攻にある。

 こんな悲劇は繰り返したくないけど、こうしたことに対して日本国政府はどのような声明を発しているんだろうね。ぼくは聞いたことがないな。ほかの国はどうなんだろう。いずれにせよ、悲しい記憶だけど、実際にこの2019年、この無情きわまりない非道の仕打ちを経験された大島満吉さんはご存命で、上映会場にも足を運ばれ、その場で証言もされた。

 でもこの先、こうした記憶と語りはどうなっていくんだろうね。

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タリナイ

2019年09月01日 18時27分39秒 | 邦画2018年

 ◇タリナイ(2018年 日本 93分)

 監督/大川史織 プロデューサー/藤岡みなみ

 出演/佐藤勉

 

 ◇母親ニ孝行シテ下サイ

 人間、2歳のときの記憶はほとんどない。

 74歳になる佐藤勉さんもそうで、でも、佐藤さんの場合、それがとても悲しい。なぜなら、父親の出征と戦死のために再会することが叶わなかったからだ。佐藤さんはそんな父親の面影を追いかけて、遙かマーシャル諸島のウォッゼ島へ赴いてゆく。

 で、いろいろあって、短パンにTシャツという南の楽園を旅するような恰好だったこともあって、猛烈な日差しに全身が焼け焦げてしまったりして、けど、お父さん、勉は来ましたよ~という呼び掛けで、すべてが洗われていくんだね。

 なんていうか、21世紀の20代の女の子たちがどうしてこんな重い主題に目を向けたのかわからないんだけど、撮り方は硬質なドキュメンタリー映画っていうよりも不慣れな若い人達の目線をまったくぶれることなく撮られた紀行映画って感じがした。上手いとかどうとかいう話ではなくて、こういうほんわかした戦跡訪問映画があってもいい。

 よくやったな、がんばったな、と、素朴におもう。

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