9月になると海水浴客は海岸からいなくなるが、実は9月こそマリンスポーツの最盛期だ。
というのも8月では、日差しが強くとても表にいられる状態ではないから日焼けするのは海水浴に任せて、こちらはせっせと稼ごうというのが海の家の経営者感覚だ。
そんなわけで、翼君がバイトをしている海の家でも、積丹ではダイビングが盛んだし、銭箱海岸では、札幌からの近場ということもあり、こんな時期でも週末は休日の散策に訪れるビジターが多い。夏も終わりといったら、海際で暮らす人間達は笑っているだろう。それに北海道は、比較的台風の影響が少ないので、まあ短い期間だけれど夏の延長なのである。
だから、まだ夏本番の翼君がバイトしている海の家へ出かけた。
「おや店の前にウッドデッキをつくったね!」
翼「俺がいるならカフェでもやろうよというので、7月一寸オーナーが大工仕事でつくっていた。下敷きを引いたぐらいだけど」
「それでも、少し束をたてて床を持ち上げているなんて本格的じゃん」
翼「廃材でつくったから、見栄えは今ひとつだけど、海沿いだから1年ぐらい持てばいいほうだよ」
「なんだよ、この看板?」
営業中と書かれた裏には人命救助中と書いてある。
翼「ボートで海へでていったお客さんの船が転覆しておぼれたら、即看板をひっくり返して救助にゆくわけさ」
だからテラスにキッチンをだして、お客さんがボートに乗ってるときはいつも海を監視しているわけ。
「泳いでゆくの?」
翼「下にジェットスキーを係留してあるから、即バルルルーンと駆けつけるよ。1分は持ちこたえていてねという感じ」
「なんだウェイターではなくて監視員か」
翼「海で営業しているときは、そっちが本職。まあ週末は光凛がアルバイトでくるし・・・」
海にせり出したウッドデッキでビールを飲む。
つまみもとろう。
翼君の店の売り上げに貢献しないとね。
まだ強い夏の日差しを感じながら、心地よく寝てしまった。
映画「ヴェニスに死す」みたいだ。
でもポックリとくたばる気分ではない。
・・・
夏の日差しで、少し焼けたようだ。
小樽では最後の夏だけど、アチキの気分は夏真っ盛りだ。