夏の炎天下にしておかなければならない仕事があった。しばらく動かしていなかった練習用プリウス30型のバッテリーチャージだ。電流は限りなくゼロだからJAFを呼ぶほかない。そんなメンテナンスをしながら考えていた。
練習用があれば本番がある。それはシルクロードを車で旅して、数多くの世界遺産、古建築、集落を視察する事が本来の目標だった。世界的に未公開の文化財も多く費用には、科研費を申請しよう。基盤Cの500万円か基盤Bの2,000万円コースだが、そんなにいらんだろう。
中国の古都長安からトルコのアンティオキア(アンタキア)迄。中国で日本製中古車を調達し、アンティオキアで売却する。トヨタの中古ピックアップトラックを調達できればマストよね。
そうなるとパーティーは、当然建築の専門家になる。こんな夢話をどこかでしていたら、「是非私も連れて行ってくださいよ。車の運転なら経験も技術もありますから・・・」という輩君が現れた。確かに観光会社企画では先ずゆかないところばかりだからゆきたいだろうね。
だが輩君は全く使えない。理由は建築の研究者ではない事もあるが、運転に求められるのは経験や技術ではないのだ。
例えば輩君に運転をまかせたはよいが、それが1週間、2週間と一日中舗装をしていない道路ばかりが続く。音はうるさいし腕がしびれる。悪路が続く道を走らせているうちに、建築研究者ではない輩君は、こんな古い物を見ておもろいのかなぁー・・・、となる。次第につき合いきれなくなり「こっちの方が近道で舗装してある」などとタダをこねてルート変更されてもね!、という結末になる。輩君の経験と技術は井の中の蛙だったのだ。やはり研究パーティー全員が運転を分担する事が負荷を低減できる。
つまり日本で舗装された道路でしか走った事が無い経験や技術は、役に立たない。文化の価値を理解していること。そして車を壊さないで悪路を走れることが条件になる。スピードよりは車を壊さない走り方が不可欠。というのも砂漠の中に修理工場は無いからね。我々の技術で不足があれば現地ドライバーを雇用する判断力が必要だ。
つまり私達はいつも未知の世界に遭遇する。だからこれまでの経験や技術が役に立たない。そのときすばやく未知の世界を習熟できる柔らかい頭と素早く習得できる技術が必要になる。コロナのパンデミックがそうであったように、いつも私達は未経験の未知の世界と遭遇し、そして研究し学習しながら前に進むわけである。
こうして平均時速30km、1日300kmを走りながらアンティオキアを目指す。時には現地ドライバーを雇用して・・・。
しかし全行程の1/3は、キルギス-ウズベキスタン-トルクメニスタン-イラン-とレベル3渡航中止勧告エリアが続く。隣接するアフガニスタンは退避勧告4。渡航どころか退避せよ!。
これらのエリアは昔から盗賊が出没しているし、大学時代に先生から聞いた話では、地雷が埋まっている砂漠を走り抜けただってさ。今なら軍隊のボディガードが必要なのか・・。次第に物事が大きくなってくる。つまり本番の旅は無理です!!!。
そんなわけでシルクロードを走るのは見果てぬ夢となってしまった。
明日からは、「小説:小樽の翠」に戻ろう。
iPhon13pro
追記
プリウス30型を運転していると感じる事だが、必要なときに、必要な力を、エンジンとモーターでグングンと出してくる。モーターと聞いたときに私はインバータの設計だと気がついた。200Vで提供された電圧を650Vに増圧して駆動用三相交流モーターにシームレスに供給されてくる感覚。そしてトランスミッション操作は電子接点。全てが電気でコントロールされている心地よさを体感していた。
ボンネットをあけると冷却用パイプがラジエーターとインバータ用に2系統設けられており、特にこのインバータにトヨタの最高技術が詰まっているのだろう。インバータのプリウス!、といってもよい。これだけの技術があれば、日本が電気自動車をつくるのは簡単なはずである。
私は国際免許だから日本で乗る可能性は低い。それに年数がかさむと部品交換のメンテナンス費用もかかるので私の車はトヨタに引き取ってもらった。必要十分な機能を、これ以上でもなく、これ以下でもないスペックで大人の運転が要求される車だった。日本の車社会で乗るのには、一寸もったいないと痛感させられるプリウス経験だった。
購入するときにソーラー付きプリウスにしようかと迷った。今思うとソーラー付プリウスにしておけばよかった。バッテリーで何キロ走れるか(実際20km程度)といったセールストークはさしたる問題ではなく、いつもバッテリー切れを起こさないで済む事の方が、この車とコンピュータにとっては大変重要な事である。ソーラー付プリウスだったらシルクロードを走れたね!。