nikkurei社長のひとこと**ケアマネは希望の星だ**

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ケアマネ太郎日記

2011-11-19 13:24:19 | ケアマネ太郎日記
雨が降っている、事務所のなかにいると気がつかないほど静かに降っている。昨日の加藤とのやり取りで、相手のあまりの不甲斐なさに気分を昂らせたが、今日の雨はそんな気分を落ち着かせてくれたようだ。こんな雨がふり気温が低いときは担当している高齢者も気分が落ち着いているのか緊急の連絡もなく、おかげで飛田さんの退院したあと、自宅での療養にも目処がたった。ヘルパーの事業所も訪問看護も懇意なところで引き受けてくれた。問題はトイレだが、飛田さんが退院してから、状態を見ながら判断することにした。
そんな仕事を終えてコーヒーで一息入れている時間を過ごしている。明日のカンファレンスに備えが終了したことで若干の心の余裕が生まれた。気になるのは加藤だがと、ぼんやりしているときに電話がなった。
「いたの」と、突然の呼び掛けだ。馴れ馴れしい電話をよこすのは一ノ瀬瑠璃子だ。彼女は此の地区で高齢者介護の中心的な施設にあるケアマネの事務所にいる。自分を「ルコ」と呼び、私にもその呼び方を強要する。「ルコ」と呼ばないと機嫌が悪くなる。私に対してだけ醸してないが、なにせ中心的施設のケアマネだ。あえて関係を悪くする必要はない。
「いましたよ、いま、漸く明日の準備が終わって休憩中」
「今度、うちの施設長が変わったのよ。女よ、女。それがいきなりの指示が退社するときは机のうえを整理してからに、って。面倒くさい、ったらあらしない」人の話を聞かないのも彼女の癖である。
「そう、で、整理したの」
「そりゃそうよ。昨日事件があったんだから」
「施設長の下にいる事務長がさ、そのままにして帰って、今日きたら机の上がきれいになんにもない。施設長が全部片付けたんだって。事務長かんかんよ」
「でも、片付けてっからでないと机のうえの書類なんか全部整理されるっていう会社知ってるよ。それって仕事に対する気持ちの表れをいっているだと思うよ」
「ふーん。金子さんって物知りなんだ。私なんかのことどうでもいいんだ」
「そんなことないけど、新しい施設長結構見てるかもよ。ルコのところ、なんせ雑然としているし、そんななかで効率よく仕事できるのかなって思うことはあるから」
「あそ」といって突然きれた。いつも事なので驚かないが、今度の新しい施設長というのはどんな人かな、と興味をもった。
ルコと電話をしていて仕事を続ける意欲がなくなった。明日の準備も万全だし、今日は久しぶりに「バー ブーン」に寄ることにして早々に事務所を後にした。
いままでの例では、ルコから電話があったときはもう顔を合わすことがない。それも「バー ブーン」に行く気持ちにさせた。
「バー ブーン」は駅の反対側にあって、岐路には遠回りになる。ここはタウンターと小さなテーブルが4、5こある程度の小さな飲み屋だが居酒屋ともバーとも言えない。そもそも深夜営業しないのでスナックでもない。パスタなどちょっとした食事と酒を出す品のいい飲み屋だろうか。
時間が早いせいか、店に入ると客は少なかった。いつも座るカウンターが空いている。
気楽に腰かけてロンリコの151を注文する。マスターは私の飲み方の師匠でもあるのでフリザーからロンリコ151の瓶とショットグラスを取り出し、「シングル」と聞いてくる。
酒はそのまま飲むことをこの師匠から教わった。職人が作ったものは職人に敬意を払うべきだというのが彼の考えで、私もそう思っている。まずはストレートで酒を味わう。いきなり水で割ったりしては酒の味が分からない。そんな飲み方は丹精を込めて作ったであろう職人に失礼だ。もちろん酒に対してもだ。
「今日はダブルで」というと
「珍しいね」
「リコから電話があったらね」
「ゆっくりできるんだ」といってマスターはグラスに透明な液体を注ぐ。そしてバドワイザーを添える。
マスターが店の客の注文で調理したり、カクテルを作っている間、ゆっくりと飲んでいく。
日本人の多くの酒の飲み方は水割りだったり、せいぜいがロックだが、一番うまいのはストレートだと私は思う。しかも酒を楽しむときに女性がそばに居ないほうがいい。女性がそばにいると余計な色気がでて酒の味がわからなくなる。酔いが中途半端になる。これは私が不器用なせいかもしれなかった。
ようやくマスターの手があき、グラスを拭き始めて、
「今日変な手紙が来んだ。なかに入っていたのが白紙でさ、差出人に心アタリがないんだ」
「そりゃ変だね、全く心当たりないの。」
「だって広島だよ、いままで行ったこともないし、知人も友人もいないし」
と行ったときにマスターが目を入口に向け、驚いた顔をした。
それを見ていた私はなに、と思ったとき
「やっぱり、いた」と聞き覚えのある声がした。
「なんで来るんだよ」
「いいじゃない」
「だいたい今日はもう電話で話ただろ」
「なに、電話で話したらここに来ちゃいけないの」
「そんなことはないけど」
「だったらいいじゃない、マスター、私もこれ」
「これって、ロンリコ151だよ、強いよ」
「いいの。今日は酔うの」
「明日さ、例の病院でカンファなんだよね」
「だから、なに」
「いや、送っていけないけど」
「別に送ってもらいたくなんかない」
「それより、なに、変な手紙って」
もう聞いていたのかと呆れる。ルコには隠し事がほとんど効かない。
あきらめて「これなんだけど」と、ま、あたりさわりがないと思って手紙をカバンから出してルコに見せた。
「ほんと、白紙ね、差し出し人が広島県の人で鶴原五十六さん」
「そう、全く心当たりがない」
「なんか変なことしたんじゃないの、セクハラとか、恐喝とか」
「なにだよ、そもそもうちには私一人です」
「あとは不倫とか」
「そんななじゃない」と否定する。
「それにしても五十六って古めかしい名前ね」
「ルコは知らないだろうけど、山本五十六って人がいたんだよ」とマスターが声を掛ける。
「なに、その山本五十六って」
「海軍軍人」
「その海軍軍人て偉いの」
私ですら山本五十六は知っている。ルコの知らなすぎに呆れながら、変な手紙を頭のすみに追いやりつつ、グラスの酒を飲み干した。

コメント (1)
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