浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

遺稿集

2013-06-03 21:34:49 | 日記
 ボクが所属している研究会の一人が、昨年7月亡くなられた。その夫君から告別式の会場で遺稿集の製作を依頼された。それから一年近くになるが、今日やっとその本ができあがってきた。A5版、400頁の本である。

 この本の製作には、実はかなりの時間を費やした。原稿はすべて印刷会社にデータ化してもらったが、その他の部分は「刊行に寄せて」や「あとがき」、関係者の追悼文を除き、すべてボクが整えた。また最終校正を除き、校正や原稿の整理もひとりでおこなった。かなりのエネルギーを投入したのである。

 できた本を見て、やっと終わったという喜びと、責任を果たしたという安堵感に包まれた。ボクは依頼されたことは全力で取り組むという姿勢で生きてきた。今回のも、そのような姿勢で取り組んできた。だからことのほかその完成が嬉しい。

 亡くなられた方は、静岡県の女性史・文化史研究のパイオニアであった。それに関する論文などを載せている。卒業生諸君で、読んでみたいという人は連絡して欲しい。
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【本】樋口陽一『いま「憲法改正」をどう考えるか』(岩波書店)

2013-06-03 06:18:25 | 日記
 憲法学の碩学・樋口陽一氏のきわめて冷静な、知的な内容をもつ本である。

 憲法のなんたるかをまったく知らない輩が、憲法を「改正」しようとしている。96条の「改憲」の条件を緩和して、現憲法の内容を骨抜きにし、まったく憲法とはいえないものをつくろうとしている。彼らが狙っている「憲法」は、自民党の「憲法改正草案」にある。その特異性を本書はきわめて冷静に指摘し、批判する。

 「憲法改正草案」には、現行の97条の姿は影も形もない。彼らが意図することの一つは、97条の無視に端的に表れている。

第97条  この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 現憲法には、まさに人類が一歩ずつ獲得してきた自由や権利、世界共通の普遍的な原理原則が記されている。現憲法は、そうした人類の経験が盛り込まれた、世界に出しても恥ずかしくない堂々としたものである。しかるに、「憲法改正草案」は、そうした原理原則を捨てようとする。それはまさに大日本帝国憲法以前への逆行でもある。大日本帝国憲法ですら、その原理原則の一つ、立憲主義についての理解を持っていた。

 樋口氏は、まず立憲主義を無視した「改正草案」を批判し、大日本帝国憲法をめぐる伊藤博文と森有礼の議論を紹介する。

 21世紀に入って、19世紀の憲法以前へと逆行しようとする自民党関係者の無知無理解が浮かび上がる。

 また樋口氏は、「改正草案Q&A」の最初に、「わが党は、結党以来、自主憲法制定を党是としています。占領体制から脱却し、日本を主権国家にふさわしい国にする・・・・」とあることを嗤う。

 「主権国家」として決して普通ではない外国軍隊の大規模基地を現にかかえていることにふれないで「占領体制から(の)脱却」を謳う主張が真面目か・・・

 日本政府や日本国民にすり込まれた、ボクの言う「日本的帝国意識」。対アジアに対しては居丈高な態度を示す一方で、アメリカへの隷属については、意識すらしない。外国から、日本の主権は大丈夫かと指摘されるほどの主権侵害が行われているのに、そのことに全く気付かないのだ。日本を占領したのはアメリカ軍を中心とする軍隊であり、1952年の「独立」後もそのまま占領軍であるアメリカ軍は居続けているのだ。それを問題にしないで、なぜに「占領体制からの脱却」か。

 樋口氏はいくつかの論点を示すが、そのすべてを紹介することはできない。もう一つだけ示す。

 現行憲法の13条はこうなっている。

 第13条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 「自民党憲法草案」では、この条文の「個人」が「人」となる。そして第24条に「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」がつけ加えられる。内容は、日常的な会話なら問題とすべきことではないが、これが憲法の条文となると大きな問題となる。

 樋口氏は、こう指摘する。

 「草案」の想定する像としては、自己決定の自由な主体としての「個人」と「個人」との間にとり結ばれる社会関係ではなく、「家族や社会全体」の中に置かれた「人」だからこそ「和」が成り立つ

 「福祉」は国民が租税で負担するのでなく、家族や社会が引き受けるべきだ、という基本的な考え方(を自民党憲法草案は持つ)


 本書は、「自民党憲法草案」がもつ本質的な思考をえぐり出し、冷静な批判を加えている。1500円ではあるが、購入して読む必要がある。
 
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