「2006年常設展第1期」 埼玉県立近代美術館 5/7

埼玉県立近代美術館(さいたま市浦和区常盤9-30-1)
「常設展第1期(常設展示)」
4/27-7/17

モネとドラクロワの二点については昨日のエントリに書きましたが、その他にもいくつか見応えのある作品が展示されていました。埼玉県立近代美術館の、今年度第1期目となる常設展示です。

この美術館の常設展の規模はあまり大きくありません。それだけを拝見しようと思うと拍子抜けすらします。ただしその分、コレクションを器用にやり繰りして面白く見せることには長けているようです。是非、企画展と合わせて拝見されることをおすすめします。

今回の常設展は以下の4つに分かれています。

「西洋の近代絵画 - 印象派からピカソ、デルヴォーまで」
「埼玉の画家たち - 故郷の風を感じて」
「椅子のある風景 - 暮しからアートへ」
「美術館物語 - モネ17歳の作品がやってきた」

まず初めはオーソドックスに「西洋絵画」のコーナーです。ここではピサロ、モネ、ドニ、ルノワールなど計11点が展示されていますが、中でも一推しにしたいのはデルヴォーの「森」(1948)でした。最近私はデルヴォーにとても惹かれているのですが、今回もまた楽しませてくれます。ともかく詩的で、また奇異な空間構成に目が奪われる美しい作品です。



赤い帳の中でなよやかにポーズをとる一人の裸女。闇の奥へと伸びた線路には、黄色い明かりのもれる汽車が走り去っています。また赤いテールランプと森に隠れた青信号。線路と電線が連なっている。この汽車は一体どこへ向かうのでしょう。どうも非現実的に見えるこの森において、汽車だけが妙なリアリティーのある空間として見えてきます。

右上には裸女を煌煌と照らす大きな満月です。不気味に伸びる草木は彼女のベットとして体を支えている。それにしてもこの艶やかな表情。デルヴォーの描く女性はどこか無味乾燥なところがありますが、この女性には強烈なエロスが発散されています。走り去ってしまった汽車を尻目にして、この森の主として自己に陶酔している姿。ルソーの「夢」という作品との関連も指摘されるそうですが、私は夢と言うよりも、人間社会(=汽車)がまだ知らない異世界の森(彼女は妖精?)を描いた作品のようにも見えました。見てはならぬ禁断の女性を見てしまった。彼女を見ているとそんな気持ちにもさせられます。不思議な作品です。

さて、このデルヴォーを初めとする西洋絵画以外では、「椅子のある風景 - 暮しからアートへ」に見応えがありました。元々この美術館には、多様な作家によるデザインチェアがあちこちに置かれていますが、その一部がここに集められ、そして展示されているわけです。ちなみにこれらの椅子は、何点かを除けば実際に座ることも出来ます。壁に飾られた靉嘔の鮮やかな油彩画を横目に、ソファーにどっぷりと腰をおろしてみる。ふんぞり返りながら作品に見入るのも、(作家には大変失礼ですが…。)他ではなかなか味わえない楽しみ方かもしれません。ちなみに企画展示室にある休憩用の椅子も、一つ一つが趣向を凝らした作りとなっています。こちらも必見です。

出品リストは、公式HPからPDFファイルにてダウンロードすることが出来ます。ご興味のある方はそちらをご覧下さい。

仰々しくない、とても気軽に楽しめる内容です。7月17日までの開催です。

*関連エントリ
「美術館物語 - モネ17歳の作品がやってきた(常設展示)」 埼玉県立近代美術館 5/7
「ホルスト・ヤンセン展」 埼玉県立近代美術館 5/7



常設展のチケットです。小茂田青樹の「春の夜」の部分から。ちょっと可愛い…。
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宮島達男 「Number of Time in Coin-Locker」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館(さいたま市浦和区常盤9-30-1)
コイン・ロッカー(1階)
「宮島達男 -Number of Time in Coin-Locker」(1996)

埼玉県立近代美術館は、常設や企画展以外にも、屋内外の彫刻や館内のデザインチェアなどに見所の多い美術館ですが、その中でも特に印象深いのがこの宮島のデジタル・カウンターです。ここだけは、原美術館も真っ青な現代アートの匂いが漂っています。見逃せません。

ともかく設置場所に意表を突かれます。エントランスを抜け、観覧券を購入し、その後は荷物を預けにいく。この一連の鑑賞への道筋の最後に、思わぬ所にてアートが待ち構えているわけです。この美術館に来て荷物をロッカーへ入れなくては意味がない。(?)必ず立ち寄るべきロッカーです。



ロッカー室入口から。ハッキリ言って遠目からだと殆ど気がつきません。


少し近づいて見ると…、何やらロッカーの上段に光る物体を確認することが出来ます。


さらにもっと寄って見る。そう37番のロッカーです。別に故障中の配線が収納されているわけではありません。これがれっきとした宮島の作品、「Number of Time in Coin-Locker」なのです。


もっと寄りました。ぐちゃぐちゃの配線に赤いカウンターがたくさん。無数の数字が刻まれています。


この作品のカウンターは、公募によって選ばれた150名の埼玉県民が、それぞれ自分の好きな速度に設定したものだそうです。そして各カウンターの裏には、設定者のサインまで記されている。まさに地元密着のカウンター。埼玉の150名の生命がここに集い、時を刻んでいます。

初めて行った時はこれが作品だということすら分かりませんでしたが、今ではこのカウンターに会えるということがこの美術館へ行く動機の一つともなっています。(ちょっとオーバーかもしれませんが…。)北浦和へお出かけの際は、是非たくさん荷物を持って、(?)このロッカーに預けてみては如何でしょう。思いもよらないカウンターとの出会いが待っています!

*関連エントリ
宮島達男のデジタル・カウンター 東京都現代美術館から(2005/4/8)
「宮島達男展 『FRAGILE』」 SCAI 3/25(2006/3/30)

昨日のエントリと合わせて拙い写真を失礼しました…。
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