「芸大コレクション展 大正昭和前期の美術」 東京藝術大学大学美術館 5/28

東京藝術大学大学美術館(台東区上野公園12-8)
「芸大コレクション展 大正昭和前期の美術」
4/12-5/28(会期終了)

芸大のコレクション展を見たのは今回が初めてかもしれません。日本画、洋画、工芸、版画など約90点が展示されています。やや地味ではありましたが、見応えのある展覧会でした。



日本画ではまず、パンフレット表紙にある高山辰雄の「砂丘」(1936)を挙げないわけにはいきません。遠目から見るとまるで油彩画のようですが、近づくと確かにまぎれもない絹本着色の日本画でした。縦236センチ、横183センチの巨大な画面に佇んだ一人の女子学生。波紋の残る砂浜にてポーズをとりながら腰をおろしている。風に靡いているのか、ややたわんで広がるセーラー服が良く描けています。また彼女の横に無造作に置かれたノートや、画面の上と下で這う草の描写も優れていました。そして清潔感溢れる白い靴も美しい。その他では、おどろおどろしい、まるで仏画のような味わいすらある荒木十畝の「寂光」(1932)にも惹かれました。暗がりの水面にて静かに進む大きな鶴。それがただならぬ気配を見せています。左下の一輪の蓮もまた美感に溢れていました。



工芸では松田権六の「草花鳥獣文小手箱」(1919)が一推しです。地に金が施された小箱に、どこかメルヘンチックな鹿やうさぎが駆け、さらには鳥たちが空を舞っている。この作品で特に美しいと思ったのは、そんな動物たちを演出するように描かれた草花の紋様です。それが四角形などの抽象模様にて示されている。金を使いながら決して派手ではない。どこか微笑ましくもある意匠です。箱を象る滑らかな曲線もまた魅力的でした。



洋画からは、まとめて7点展示されていた自画像が見応え満点です。ここで展示されていた自画像は、萬鉄五郎、小出楢重、里美勝蔵、佐伯祐三、長田一脩、須山計一、靉光の7名と、次の版画コーナーにあった山本鼎の計8名。とてもカッコいいのは茶髪姿(?)の佐伯祐三ですが、非常に巧く描けていると関心させられたのは靉光の「梢のある自画像」(1944)でした。顔や衣服にのった油彩の重み。服は、まるで燃え上がる炎のように描かれています。また眼鏡の奥に潜むはずの瞳が確認できません。しかしそれでありながら、顔からは深い哀愁が感じられる。軽く塗られた梢と、まるで彫像のような立体感のある人物。油彩の塗り分けによるその対比も優れていました。



版画コーナーには、H16年度に収蔵されたばかりという長谷川潔が数点展示されています。お馴染みのメゾチントも当然ながら味わい深いのですが、今回は精緻なエッチングにも見応えがありました。これらはあまり他で見たことがないので、思わず見入ってしまいます。

バルラハ展と同時開催の展覧会なので、本来ならそちらの鑑賞の際に行くつもりでしたが、その時は少し時間がなく、最終日に改めて見て来ました。今後は、コレクション展もしっかりチェックしていきたいです。(ぐるっとパスを使いました。)
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