「素顔の伊東深水展」 目黒区美術館 5/3

目黒区美術館(目黒区目黒1-4-36)
「素顔の伊東深水展 -Y氏コレクションから- 」
4/8-6/4

日本画家、伊東深水のスケッチと素描に焦点を当てた異色の展覧会です。深水ファン(?)には是非オススメしたい内容でした。



深水のいわゆる日本画も数点展示されていますが、展示作品の殆どは鉛筆による素描、もしくは小さな水彩画です。(総数約170点。)ちなみに「Y氏コレクション」のY氏とは、おそらくこの展覧会を協賛した宝古堂美術の山田春雄氏のことを指すのかと思いますが、このような匿名の形でコレクションを公開するというのはあまり他で聞きません。個人コレクションによる深水の貴重な素描を楽しめる。またとない、大変に有難い展覧会です。

 

伊東深水と言えばまさしく美人画の巨匠ですが、彼のそれは女性の艶、またはエロスを何気なく見せることに極めて長けています。所作の美とでも言うのでしょうか。その女性の最も美しい部分を、男性的な視点によって発露させること。ポーズ一つをとっても、深水の美人画はどことなく妖し気な美感を纏っています。気丈な顔を上に向けながらも、肩はだらっと落としてどことなく見る者を誘うような仕草。時に臀部を大きく強調して描いています。今にも崩れそ落ちそうな女性の甘美的なエロスと、ギリギリの部分で保たれる気品の高さ。もちろん全部の作品にそのようなエロスがあるわけではありませんが、このバランス感は独特です。そして今回の展覧会に出品されているスケッチにおいてもそれは同様でした。深水の美人画には構図段階にてエロスが存在している。オーバーな表現ではありますが、そう言いたくもなるようななよやかな女性ばかりです。



さて、美人画のスケッチ以外にも、興味深い作品がいくつか展示されていました。まずはあまり見慣れない風景画から「那智之瀧」です。鉛筆による下絵に丁寧に水彩が施されています。また花のスケッチ画として、「菊」や「花菖蒲」なども印象に残りました。こちらは大変に精緻なタッチです。さらに墨と水彩を織り交ぜた美しい作品も展示されていました。深水の創作の幅広さが見て取れます。

最後に触れておきたいのは、深水と戦争(第二次大戦)の関係を示す展示です。深水は1943年に4ヶ月間、旧日本軍に従軍し、「南方取材」ということでジャワ島へ出向いたそうですが、その際に描いた数多くのスケッチも展示されていました。「大東亜美術」や「戦争美術展集」などに出品された当地の風俗、文化を表す作品。さらには軍事郵便の絵葉書なども手がけたそうです。またいわゆる「銃後の妻」を描いた作品「針仕事」なども印象的でした。こちらも深水の意外な一面です。

スケッチが主ということで地味な印象は拭えませんが、展覧会そのものはなかなか良く出来ています。また深水以外にも、Y氏所有の日本画、または近代日本洋画なども展示されていました。来月4日までの開催です。(ぐるっとパスを使いました。)
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